在独森林コンサルタントの池田憲昭さん(Arch Joint Vision代表)による連載が、5月30日号からスタートする。池田さんは、岩手大学在学中にドイツに留学した後、帰国卒業後に再び渡独し、フライブルク市大学で森林環境学を学んだ。それ以来、ほぼ4半世紀にわたり、シュヴァルツヴァルト(黒い森)南西部の地域に暮らしている。
森林の専門家として「サステナビリティの探求」を軸に、建築や環境共棲エネルギーなどの調査研究や事業を展開しながら、日本との架け橋となり、地域工務店へのコンサルティングなども行っている。昨年12月には、もるくす建築社(秋田県大仙市)とスイス人建築家と協業し、エコロジーな建築思想と設計手法の普及を目指すモデル棟「KANSO」を同市に建築したりもしている。
本連載では、池田さんの視点から、ドイツの建築について、施主、設計、施工、木材加工業、森林業、マイスター(職人教育)—と多様な観点から、ウッドショックなど時事のテーマも絡める形で、毎月30日号に掲載していく。
池田さんは連載に際して、次のコメントを寄せた。
ここ20年のドイツにおける建築の主要なテーマは、パッシブハウスやゼロエネルギーハウスといった言葉に代表される「省エネルギー」の建築です。フライブルクには、1990年代から業界のパイオニアが革新的な省エネ建築をつくり、実証してきました。私も当初、それら灯台の灯りのような最新事例に感嘆し、日本からのお客さんに現地で紹介してきました。
でも途中から、次のような疑問が湧いてきました。
「断熱して省エネになるのなら、どんなマテリアルでも良いのか?」「現代の建築は、省エネを達成するために断熱偏重になっていないか?」「蓄熱や調湿も同じように大切ではないか?」「高断熱と高気密にして、空気交換と水蒸気排出のために機械を使って24時間強制換気。本当にそれでいいのか。別のシンプルなやり方でも省エネはできるのではないか」
このような疑問は、私だけでなく、建築業界内でも、施主や住む人たちの間でも、出ています。そして、断熱だけでなく、蓄熱や調湿、防菌といった多面的な性能を持つ木や土といった自然のマテリアルを重視したり、機械に頼らないソリューションを考え実践したりという試みも、同時並行で行われ、少しずつ増えて来ています。本連載では、科学的なデータや知見を踏まえながらも、自分だからこそ、新建ハウジングの読者に伝えられることを、主観的かつ多面的に書いていきたいと思います。「森の国」ドイツから、「森林大国」日本の皆さまへ、多様なメッセージとして—。
池田憲昭(いけだ・のりあき)
1972年長崎県生まれ。岩手大学在学中にドイツに留学。帰国卒業後に再び渡独し、フライブルク大学にて森林環境学を学ぶ。以来、四半世紀にわたり、シュヴァルツヴァルト(黒い森)南西部に暮らす。ドイツ環境視察セミナーのオーガナイザー、異文化マネージメントのトレーナー、コンサルタント、日独プロジェクトのコーディネーター、専門通訳、執筆家として活動。2011年9月、Arch Joint Vision社を設立。もるくす建築社(秋田県大仙市)とスイス人建築家と協業し、エコロジーな建築思想と設計手法の普及を目指すモデル棟「KANSO」を同市内に建築
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