「省エネ基準義務化」で終わらせない
三浦:じゃあ前先生、最後、もう少しだけやりますか(笑)。ぜひお聞きしたいことなんですけど、タスクフォースの反響はどうだったんですか?
前:どうなんでしょうね?持ち時間が20分しかなくて、スライドは80枚ですから、時間は絶対に少ないんですけど…。幅広く耐震のことまで触れましたからね。
まあ、多くの方に見ていただいて、何らかのきっかけになればということなので、私個人にあれやこれやはないですね。どちらかというと無視されている、スルーされている感が強いです。でも私としては、やってよかったとしか思っていないです。
三浦:先ほど小山社長も、あのプレゼンが環境省の政策にも影響しそうとおっしゃっていました。僕は、前先生が委員になるのかとも思っていましたが、まったくお声がけはなかったのですか?
前:それはないですね。無理じゃないですか?委員の方を見ても、いろんな立場の方がいらっしゃるし、環境工学の立場にしても、大勢の先生がいるし。
私は、実務が分からないから。やっぱり竹内先生が実務者の立場、実際に建てる側のフィーリングをご存じの方として委員になられたのは、素晴らしいことだと思っているんです。私は、竹内先生が必要とされるのであればお手伝いできることは何でもします、っていう意識でいます。
三浦:最後に。前先生の危機意識は、“このまま生活者のせいにして、変わらないで終わるんだろう”ってところを、根拠を示しながら、竹内先生を通じて変革を訴えていくところだと思うのですが、要するに、前先生がやろうとしているのは「ちゃんとしたベネフィットを数字で出して、まったく生活者の不利益にならないことを示す」ということですよね?
前:そうですね。私が恐れているのは“2025年に省エネ基準を適合義務化する”程度でお茶を濁されること。何か特定のキーワードが突出しちゃって、それだけやりましたで済ませる。費用対効果とか理由もうやむやになっていく、みたいな。でも本当は、いろんなオプションや可能性を追求しないとダメなんですよ。
もちろん、費用対効果が高いものからやっていくけど、脱炭素というならば、相当なものを、総動員してやらなくては、どうにもならないですよね。まず、脱炭素に向けて、省エネ・省CO2の計算をちゃんとやることですよね。
今まで、国交省は2030年には目標が達成できるという根拠を、ほぼ公開していなかった。それが今回、ほぼ初めて出てくるデータが、タスクフォースの後に提供された。それを見ていると「え?」という数字がいっぱいある。国の住宅政策、国民全員の生活を議論する中で、その根拠がオープンじゃない理由はあり得ない。役所だって、自分たちで抱え込んでいて「実は…」ってなったら、その方が大変じゃないの?
役所も学者も実務者もオープンになろう
前:だから先生たちの意見を持ち寄って、どこかで計算してもらい、オープンにやる。コスト試算だの省エネ試算だの、抱え込まずにオープンでやった方が、役所にとっても楽で安心だし、みんなもいい知恵を持ち寄れる。だから、今回の検討会では、私は裏方でもいいから計算する―竹内先生が必要とするなら―。役所も実務者も我々アカデミアも、仲良くみんなで知恵を集めて良い道を探す。本当は仲良くやりたいんですよ(笑)。
だから、何度も言いますが、タスクフォースでは、住生活基本計画を何とかしなければいかん、という中で、私としては目一杯攻撃的なプレゼンをしたわけです。今でも、あの時はあれしかなかった、と思います。あれぐらいやらなかったら変わらなかったでしょう。今度の検討会も期間は半年しかなくて、議論するには明らかに足りないわけだけど、あの時よりは時間がある。
メディアの責任も重要だと思いますよ。先ほど三浦さんが「将来の人たち」とか言っていたけど、我々の墓は暴かれるくらい罪は重いと思いますよ。
(一同笑)
前:私は海に散骨してもらおう。墓なんかあったら絶対ぶっ壊されますよ。罪は重いですよ!
三浦:本当にその通り。前回のタスクフォースで、失礼ですが、前先生には道化になっていただいた部分があって、これだけのことが動きました。次は、みんなでコラボレーションして、いい方法がないか、知恵を持ち寄っていくことですよね。
前:国交省に「こんな方法ありますよ。どうですか?」と伝える感じでいいと思いますよ。国交省も、自前でやりきれなかったら「そういうのあるんだったらやってよ」とかね。
もうちょっとお互い、オープンマインドになって。この国は、現場にはいい知恵があるけど、政策まで持っていくと変になる感じがしますよね。いい知恵は、普通に話し合って伝えればいいことだと思うし、昔に比べて役所の人も変わってきていると思う。
三浦:役所の人も今は出向ばかりで、人が少なくて大変。なので、オープンガバメントでやるしかないのかなという気もしますけどね。きょうの検討会も、半分はそうだったけど、半分は従来の審議会がオープンになっただけなので、議論にはなっていなかったですよね。今後、その辺を変えていけるなら、可能性はすごくあると思いました。
まだ150人くらいが見ていますけど、そろそろ先生、終わりにしますか?
前:いい知恵を集めることだと思うんですよね。タスクフォースの時は、何とかしなきゃという思いでしたけど。
「普通」の存在にすることが大事
前:あと、いつも言っていますけど、左翼運動になってはいけないと思うんです。やはり、世間一般のサイレントマジョリティの人たちから、変な人たちと思われるようではいけないと思う。僕も、目立ちたくてタスクフォースに出たわけじゃない。みなさんの意見を代弁するつもりでプレゼンしました。
だから、これからは「普通のこと」にしていかなければいけない。「性能が良い家を建てることはいいに決まっているよね」と。太陽光発電にしても「載せないのはなぜ?不思議」という感じにしていければ。革命運動的にしてしまうと、マジョリティーから気持ち悪く見えてしまう。「当然ですよね?」って感じにしていければね。勢いも大事ですけど、勢いが過ぎると、余計な反発も食らう。
三浦:それはビジネスの現場でもある。差別化って、敵を作ってしまうので。断熱などは、その段階を越えて当たり前にしていくときに、法制度の改正とも相まってぎくしゃくしそうな部分はありますね。そこは、メディアとしてもいろいろやっていきたい。
前:やっぱり、伝え方が大事だなと。誰かが犠牲になるのではなく、みんながハッピーになることなので、建てる側にとってはいい話なんですよね。そりゃ(断熱を)やってなかった人はいるけど、取り組んでいる人にとっては、いろんな意味で利益がある話。
脱炭素を我慢の話にしてはいけない。メディアが広げ方を考えてほしい。だって楽しい話じゃないですか。明るい脱炭素の話を作っていってほしい。
三浦:どうしてもストイックな道になりがちなのでね。
前:そうなんですよ。「やらなきゃ損だよね」って、普通に話せる社会になってほしい。
三浦:先生、次の審議会の後なのかわかりませんが、もう一回これをやりたいと思っています。
前:そうですね。3回目の検討会で、竹内先生が何を言うかがかなり重要。3回目に何かを提示して、他の先生に共感してもらえるかどうか、がとても大事。
三浦:そこに向けて、こういう公開取材もしつつ「頑張れ!竹内先生」と、竹内先生をバックアップしていく。
前:みんなのいい知恵を、竹内先生経由でお伝えしていく。その知恵を受け入れた方が、国交省にしても「楽だ」となる。外から文句だけいわれるじゃ、あの人たちもきついでしょう。だから「こうした方がいいんじゃないか」っていうのを言ってあげた方が、力が出ると思う。
みんなそうだと思うけど、日本人は大概、悪気はなくて善意でやっている。そういう意味で、タスクフォースでは国交省は気の毒だったと思います。でも、あの瞬間はあれしか作戦がなかった。あれくらい言わなきゃ変わらなかった。
三浦:こういう形で公開取材をお願いしたご縁、責任もありますので、僕たちも追っかけながら、知恵を集めたいと思います。それを、先生を通じて検討会で示し、なぁなぁで終わらないようにウォッチもしつつ、変えられるところは変えていきたいと思います。先生、どうもありがとうございました。
前:聞いていただいた方みんなで、いい知恵集めて、みんなが幸せになる方向に持っていけたらいいと思います。ありがとうございました。
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