業界の声を政治に反映する
三浦:何が言いたいかというと、政治の力も必要で、今はそれがかみ合い始めているいいタイミングだと思います。業界の思いを、政治と重ねていければと思っています。
本当は、その間に入るのが行政なんですけど、その行政がこれからこの審議会でどう変わっていけるのか?その点、竹内先生も前先生もアカデミアの方です。今後「どうやっていくの?」と理屈をつけていくには、お二人の力も欠かせない。
きょうの公開取材を通じ、次の竹内先生のネタを作ろうという話になりましたが、こういった草の根的な運動を、行政を通して政治につなげていく。こんな、新しい民主主義が垣間見えて、僕は有意義だったと思いますし、未来を変えることにも繋がっていけばいいと思います。
じゃあきょうはこれで終わりにしますか。みなさん言いたいことは言えましたでしょうか?もし言えてないなら続けますけど……前先生、大丈夫ですか?
前:私は特に……。時間の締めはないですけど(笑)。
三浦:やりますか、じゃあ(笑)。
前:タスクフォースでは、とにかく住生活基本計画を何とかしなきゃいかん、と言いました。計画の閣議決定まで時間がない中、バックキャスティングはなんとか入れたけど、そのバックキャスティングという言葉だけに過剰な期待を持たれても……。合理的な数値の積み上げをしない限り、それは絵に描いた餅なんですよね。
今、国交省が2030年には省エネの目標を達成できる、省エネ基準を適合義務化する必要はなかったと言っていた理由、というか根拠に対する検証が進んでいます。今後、ちゃんとした数値の積み上げをやる、という実効性を確保するためにやっているわけですよね。
だからバックキャストという言葉も、今は単なるバズワードになって、とりあえず書いておけばいい、となっているけど、そんなに甘くはない。
小山:今の話に補足しますと、前先生のタスクフォースでのプレゼンはとても大きな影響がありました。
私は、地元(福岡県)で県や市の住宅の委員会に関わっているんですけど、今までは住生活基本計画には書いていないので、地方の行政はそこまでしない、ということだったんですよ。どんなにZEHとか省エネと言っても、地方公共団体の住宅局は動かなかった。
でも、今回、脱炭素に関する文章が、相当な量計画に入りましたので、今後は47都道府県で、それぞれの自治体の施策としてやっていく立て付けが、やっとできた。前先生が発表しなければ、何にもないまま3月に閣議決定していたはずですから、大変なことになったと思います。
ギリギリのタイミングで、パブリックコメントが終わっているのにも関わらず、例外的に内容が大きく変わったということで、住宅の歴史に残るプレゼンだったと思います。
きょうは全国のみなさんが見ていると思いますけど、住生活基本計画にこれだけ入ったので「○○県ではどうするんですか?」と堂々と言いに行っていいわけですよね。そういうことが始まるということで、全国で力を合わせていければいいと思います。
竹内:それこそ、県でそれぞれの条例を立てていいよという話も、建築物省エネ法上はOKと言われているので―勝手に義務化はできないですけど―、それぞれの県でやれればいいなと。やっぱり、鳥取県の先進性は、(他の県でも)そのまますぐできると思うので、やればいいんですよ。すぐに。
三浦:ここで、竹内先生はお時間です。先生ありがとうございました。次も期待しております。
——(竹内退出)——
三浦:小山社長もお時間はあと少しと聞いていますが…。先ほどの小泉大臣の太陽光義務化って、僕からすると結構唐突に出て来た部分もある気がしたし、タスクフォースの延長のような気もします。この辺で、知っている情報があれば教えていただけますか?
小山:想像ですが、タスクフォースの河野太郎・規制改革担当大臣のチームの意見―前先生のプレゼンを基に、ZEHの義務化、省エネ基準の適合義務化、および、適合基準の段階的強化に明確な記載があった―を大臣がきちっと受け止めて、コメントされたと思います。
小泉大臣は賛否両論ありますけど、環境省の知り合いは「小泉大臣になってから仕事がOSが3世代ぐらいバージョンアップしたかのように一気に加速している」ようだと、脱炭素の宣言以前から言われていたので、それなりにリーダーシップを発揮されている、とは現場の方々から聞いています。
太陽光発電義務化といっても柔軟に
三浦:太陽光の設置義務化を視野に入れる、などというと、環境省は断熱をどう考えているんだという声もあったんですけど、この辺、掴んでらっしゃる情報だけでいいので、教えてもらえますか?
小山:もちろん、小泉さんはWHOの(推奨する冬の住宅の最低室温)18度のことも言われていますからね。その上で、太陽光発電もそこまでしないと間に合わないということですね。
環境省の思惑は、温室効果ガス削減目標50%くらいなのに対し、確か経産省は40%ぐらいで綱引きしていると認識していますが、(削減率が)45~50%となると、ありとあらゆる屋根に(太陽光を)載せていかないと間に合わない。それをしないんだったら、原発を新増設するとか、そういう世界なんですね。でも、それではとても国民の理解が得られない。
ならば、再エネを死に物狂いでやるしかない――数字からバックキャスティングするとそういう計算になります。
三浦:小山社長に、最後にお聞きしたいのは、検討会の最後に「太陽光を載せることを前提にしながらも制度設計は柔軟でいいんじゃないか」という発言がありました。そういったやり方でもやれそうな気がしたんですけど、あの発言はどういう風に捉えられましたか?
小山:太陽光について、FIT(固定価格買取制度)は今、全国一律同じ価格帯で運用されています。鳥取県のような低日射地域は、多少のインセンティブがあってもいいと思います。
今、太陽光発電の普及はFIT頼りですけども、多様な方策があっていいと思います。それと、きょうの検討会では、複数の方が「太陽光発電の経済的なメリットは終わり」というニュアンスの発言をされたのですが、まったくそうではありません。
そもそも、再生エネ法の第3条に書いてある。それも、算定委員会では20年間で内部収益率3.2%でペイするように―それもかなり安全側で―計算して決まっている。日本海側でも、日射がいい地域ほどではないかもしれませんが、一定の経済的なメリットは担保されているので、きょうの委員会の議論はミスリードの内容もあったと思います。
前:本当にそうだと思います。確かに若干の地域性はあったとしても…。うーん、地域の気候による負担感の平等は非常に悩ましいテーマですよね。人口の8割は温暖地の太平洋側に住んでいるので、そこではゼロエネ化は問題ない。
一部の(ZEHが)難しい地域ごとに、どうしていくかというのはある程度裁量があってもいい。ただ、ゼロエネが楽に達成できる地域はさっさとやってよねというね(笑)。だから程度問題ですよね。柔軟な制度というのは現場の運用力を求めますよね。みんなでいい知恵を持ち寄っていいところをつなげていく、ってところかな。
さっきから言われている通り、小泉大臣がポンと言っていろんな意見が出てくる。考えてみれば「屋根に太陽光載せないっていうのはないのかな」って思えばいい話。「じゃあ載せない理由は何ですか?」って言ったらいろいろ出てくるけど、全部技術的に開発できる単なる誤解だったりするわけなので。
ただ、「昔の家に太陽光を載せて防水は大丈夫なのか?」みたいな話はよく聞くので、そこは安全な工法をどう開発するかとか、そういうことだと思うんですよね。
三浦:小山社長、僕の印象に残っているのが、建築家の堀部安嗣さんにいろいろ尋ねられている動画(https://youtu.be/SJZmVKuqI-M)です。あれだけ「瓦が」とおっしゃっていた方が、実は「腰屋根を使えば、太陽光を上手に載せられるんじゃないか」と、結構前向きな技術開発の話をされていて、すごく心を動かされた感覚があります。
小山:私もビックリしました。建築家の代表のような堀部先生に、失礼を顧みず脱炭素をテーマにYouTubeで対談をさせていただいたのですが、住まいの環境と地球の環境を守ることを重ねて考えられていて、すでにご自身の設計にもかなり織り込まれていた。
高断熱高気密もやってみて「肌にすとんと落ちてきた」という表現をされていて、高断熱高気密にすることが設計の自由度を高める――広く使えるという表現をされました。あんなに、柔軟にどんどん取り入れていく建築家も少ないと思いましたし、太陽光についても、堀部流の太陽光発電の搭載の手法を、腰屋根を利用してすでに実践されている。素晴らしい柔軟性だと思いました。
三浦:小山社長、ここで時間ですので退出していただいて大丈夫です。きょうはありがとうございました。
小山:みなさんありがとうございました。ご批判、ご意見はフェイスブックに頂けたら、幸いです。
——(小山退出)——
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