省エネ計算はできなきゃいけない?
――話が戻りますが、おそらくビルダーと思われる方からのご意見で「省エネ基準未適合はほとんどいないけど、計算をしたことがないという方は圧倒的に多いです」。これは、個人の実感としてもヒットするところです。今は、普通の建材を使ってそれなりに作ったら、省エネ基準には適合できる。工務店の皆さんには、エビデンスとなる計算をしっかりやってほしい。
前:そこは悩ましいところで、省エネ基準も計算がいらない仕様規定を充実させておけば、もっと早く義務化できたという議論もあります。ただ、みんなが省エネ計算に慣れてほしいという意図があったので、仕様規定を充実させず、性能規定をメインにしていた。そうしたら「計算が面倒な人が対応できないから適合義務化は先送り」って話になった。
もうちょっと仕様規定をメインにしていれば、適合義務化はできたのかな、っていう思いはあります。
小山:今後は、適合基準をどう高めるかという議論にシフトしていくので、アップグレードしていくのは計算しなければいけない立て付けでしょうけども、アップグレードするにしても、仕様規定でアップグレードさせる方法もあっていいかもしれない。
前:ZEHでも仕様規定によせて、(計算は)ほどほどでいい気がしますけどね。計算を間違っているかもしれないと後が怖いという意見が、正直なところ、結構あるかなという気はしていますね。
竹内:まぁインターフェースの問題ですから。今は、普通にCADソフトで(図面を)描いたらそのまま(性能の)数字が出てきますよ、という話になっていますよね。そこでわざわざ手計算する必要はないと思います。
DXじゃないですけど、どんどん進めながら感覚的にわかるのも大事だし、見積もりを取りながら、材料を変えながら「自分に合っているのは何か」と取り組めるようなものができたらいいわけで。
先ほどお役所仕事の話をしましたけど、工務店としても、どういうソフトをどう使ったら簡単なのか、って話。ソフトも十分に進化しているので、うまく使っていくことが大事。
未来から感謝される住宅・工務店業界を目指せ
小山:もう時間だと思うので、ぜひお伝えしたいことがあります。
「2050年脱炭素」がフォーカスされていますけど、これは、2050年に(CO2排出量を)ゼロにすればいいのではない。本当は「炭素予算」といって、これから排出する二酸化炭素の量に上限があるわけですよね。
今、5年おきに目標を上方修正して、COPに届け出ようという国際的なスキームがある中で、(削減目標は)もっともっと厳しくなっていく。先ほど前先生がおっしゃったように、本当はすぐにでもZEHを義務化しなきゃいけないくらいの国際的な気候危機の問題が背景にある中で「日本としてどこまで頑張るか」を、業界人で認識していきたい。
最近、特に感じるのが、一般の市民団体の方々が、住宅業界、工務店業界に対し「頑張っているのか?」と、とても高い関心を持っていただいていることを、業界の方にご承知していただきたい。
小山:私の願いは、2050年に「2020年ごろの建築業界人が頑張ったので、日本において脱炭素社会が実現した」と言われること。この業界の責任は大きいものがある。
前:小山さん、2050年には75歳で脱炭素を見届けると言われていますけど…
小山:85歳!
前:85歳!?たぶん100歳以上まで生きないと(脱炭素の実現は)見届けられないと思うのは気のせいでしょうか(笑)。
小山:でも、見届けて死ななきゃいけないと思っています。未来の業界人が、今の建築業界を見ていると思うんですよね。
竹内:学生たちが「フライデー・フォー・フューチャー」(未来のための金曜日、学生らを中心とした、気候変動対策を求める運動)で(CO2排出量の削減目標を)62%にしろ、とか言っていたでしょ?すぐにやれって感じでしたよね。
小山:その数字は気の遠くなる数字ですけど、それが世界の最高上限の目標ですよね?
竹内:でもすぐやった方がいいと思う。
前:これが2000年の議論だったら間に合ったと思う。
竹内:でも20年遅れたということは、20年分真似できるところがあるということなんですよ。あとは背中を見て追いかければいいだけという感じ。
だから公共建築からやれ、何からやれ、とかいろいろ言っていますけど、そういうこと言っている場合じゃなくて、全部やる、ってならなきゃダメ。
ドイツでも、よくわからないけどとりあえずやってみたら「住宅を断熱するとすごく効くじゃないか」となって、今はノリノリでやっているわけですよね。日本でも、そういった芽が見つけられる気がするんですよね。
そういう試行錯誤のために、国の補助があると思うんですよね。やればできるところに補助金なんていらない。まだまだ可能性があると思うので、チャレンジを応援するような流れにしないと。脱炭素なんて、今の技術からちょっとやっただけでは、できるわけがない。
竹内:あと、太陽光の義務化に関して話をしておくと「夏の(電力消費量の)ピークに、太陽光載っていた方がピークカットにもなるしいい」っていう話と、「冬の寒い時期に、みんながエアコンを使うと電気が足りなくなっちゃうかもしれないから、高断熱にしとかなきゃヤバいよね」という話は、マジでそうだと思う。
それから、電気代も、カーボンプライシング(炭素税)とか言われた瞬間から、高騰していくんですよね。だから、やはり断熱はした方がいいですよ、ということを最後にお伝えして終わりたいと思います。
三浦:ひとまずここで終わりにしましょう。小山社長がおっしゃった通り、未来から後ろ指をさされないように、大人が何をするかが大事だと思います。カッコよく言うと「生きた証」の話でもあって、「少し未来を良くできたよね」という話にならないと。金稼ぎだけで自分の人生が終わったら切ない。
そこへ向けて、きょうこれをお聞きしている方ができることは、声をもっと上げていくことだったり、議論して実践していくことだと思います。
誰かが、道化師になってビシッと言わないと、物事って前に進まない。僕は、小泉進次郎環境大臣の言うことをすべて肯定するわけじゃないけど、ああいう人が「太陽光義務化も視野に入れて」と言うことは大事だと思うんですね。「ふざけるな」っていう議論があってもいいし「そうだよね、そのために何ができるか考えよう」っていう議論があってもいい。大臣がビシッと「これを変えていくんだ」と明言されるのは大事。
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