住宅の脱炭素化を生活者の利益に結び付ける
三浦:それから、言葉も大事だと思うんですけど、きょう、竹内先生が出られた検討会も「脱炭素」が全面に出ているので、議論も脱炭素に集中してしまうんですけど、断熱のベネフィットはトータルでたくさんあります。脱炭素も重要なんですけど、それ以外のこともこれから議論をしていかないと「別に、脱炭素のために家を建てているわけじゃない」と住宅業界が思ったりするともったいない、と思いました。
省エネ基準の適合義務化は、委員の皆さんも賛成の反応だったと思いますので、あとは「適合のレベルをどうするのか」、「太陽光も含めてどこまでを目指すべきなのか」、そして「そこを目指すためにどんな制度、政策があればいいか」という問題でしょう。
一方で住宅業界、工務店は何をし、それに向けてどう取り組めばいいのか、そういう話になるのではないかなと思います。
あと、先ほども言いましたけど、言葉はとても大事。“省エネ基準の適合義務化”というと。省エネ基準をクリアすればいいんだろう、という話になりがちなので、本当は“断熱の義務化”みたいな言葉を使った方がわかりやすくていいのかなと思いますし、今後の議論でしょうけど“太陽光発電の義務化”も、本当にそういう風に言うのか。今は曖昧にあえてぼかしぼかしでやっている気がするのをどこまでストレートに言っていけるのかなと。これらを、僕からの問題提起として挙げさせてもらって、ここから先はこれからについて議論する時間に充てたいと思います。
竹内:「脱炭素と暮らしは関係ない」という話ですけど、私たちが置かれている家が、2050年にどうあるべきかという未来像を考えなければいけないと思っていて。その時に、省エネができれば快適で健康になるよ、というベネフィットの大きさを、どれだけ認識するかだと思っています。
小山:2050年の話をするには、ライフスタイルが変わっていく前提を考える必要性があって。これだけの健康上のメリットが普及啓発される中で、欧米では全館暖房が常識であることも、相当な人に認知されている。おそらく部分暖房を中心とした住まいづくりは、全館暖房に移っていくだろうなと強く感じています。
その中で一定の省エネを実現するためには、HEAT20のG2グレードが、全館暖房しても省エネ基準の部分間欠暖房と同じ暖房負荷ということなので、最低ラインがG2グレード前後。かつZEHを、2030年に向けて目指すべきで、できれば義務化もしていかなければいけないと感じています。
前:「脱炭素」って、枕詞としてつけておけばいいってことじゃない。大変な、途方もない目標ということをわからなければいけない。「2050年にカーボンニュートラル」なんて、ちゃんと計算したら、率直に言ってほぼ不可能。その上でどこまで頑張るかって話で。
脱炭素という社会の大きなテーマを、どう住宅購入者の利益になるように落とし込んであげるか。転換してあげなければいけない。
そういう意味では、G2にした方が絶対いい。そうすることで建物の耐久性、価値が上がる。コストも、建設時のコストだけを見ていてはダメで、20~30年のライフサイクルで、快適さや光熱費もちゃんと考える。
「ナショナルミニマム」、つまり“日本で暮らしている人は、およそこういう暮らしをするべきだ”という考え方。ドイツから学ぶのは、そこだと思うんですよね。自分は気候や社会が全然違う国から“やり方”だけを持ってくることには若干抵抗があるんですけど、“ドイツの人が大事にしていること”には、学ぶことがたくさんある。
全館空調を前提にするなら、断熱はコスパがいいはず。検討会の2回目で、おそらく建てる側の人(住宅供給者)が出てきて「断熱はペイできません」という話をするでしょう。その時の言い訳は「住宅購入者に、不当な負担を課すことになる」に決まっている。そりゃ建てるところだけ見たらそうですが、本来の快適な生活をライフサイクルで見たら、断熱した方がトータルコストは絶対に安いはず。
それを証明するデータをこちらで出すべきで、そういう話を示していかないと。やっぱり役所で用意している試算だけではダメで、別の視点から(データを)出していかないと。
竹内:私は、実感としてあるわけですよ。コストが上がっても、エアコンの台数が減った、とか、トータルの暮らし向きが変わって、単純にお客さんに喜んでもらっている、とか。
生活者の負担軽減は金融で解決する
前:トータルコストでペイできるなら、あとはファイナンスの問題。住宅ローンなどで、イニシャルコストの高さを後払いにしてあげられたら、それで済む話。
竹内:金融の話をすると、省エネ住宅だとエネルギーかからないから、電気代を払う代わりにローンを割増にできれば、たぶん(生活者の負担を減らすことは)できちゃうんですよ。ローンの返済額が増えても、電気代が減っていればその分、ローンの返済に回せばいいんだから。
前:高断熱で太陽光が載っていれば、担保の価値も高いですしね。破産リスクも低いでしょう。ライフサイクルで絶対ペイできることを証明できれば、あとはファイナンスの話だと思うんですよね。ただ、それをするには、今の省エネ基準ではきついと思うんですよね。
竹内:きついと思いますね。エネルギーの消費量が大きいと思う。
小山:最新データで計算しましょう。
前:定量的なデータで“ペイできます”というのを見せていかないと。
僕が心配するのは、2回目の検討会で「住宅購入者の不利益だ」という、ネガティブな意見が出てくること。みんな、自分がやりたくないだけですよね。それは言えないから、購入者を出しにして別の言い訳を言っているだけ。
竹内:「工務店ができない」と言っているのは、工務店じゃないんですよね。私は、工務店はできると思っているのに、なんであんなこと言っているのかな、と思っています。
小山:本当にそうです。住宅(の新築)を主な事業としている工務店さんはみんな、できるんですよ。たまにしかやらない工務店さんはできないけど。
三浦:竹内先生にはぜひ、次の検討会で発表できる資料を、小山社長と前先生で作っていただけると大変いいかなと思います。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。