今以上の頑張りが必要
小山:もう一つ、お伝えしたいことがありまして、きょうの議論はあくまでも2050年の脱炭素、そして2030年の温室効果ガス削減目標が(2013年度比で)マイナス26%ということを前提としたものでした。
しかし、菅総理は、気候変動サミットで2030年の新たな目標を発表するとコメントしています。おそらく40~50%くらい(4月22日、菅義偉総理が「46%削減」と表明)と、約2倍にアップグレードされるわけで、もともとエネルギー基本計画で、2030年にほぼ全てをZEH化する目標だったにもかかわらず、もっと頑張らなきゃいけなくなったんですよね。
だから、次回以降、さらに大幅に頑張るような目標を立てないといけないと思います。
竹内:マイナス26%の時、建築は新築だけでなくて全部で40%マイナスと言うのが目標、テーマだったわけですよね。
小山:もともとエネルギー基本計画の「2030年に平均でZEHを実現」は、ほぼ全部をZEHにする、なんですよね。集合住宅に関しては、ZEHの定義は変わるでしょうけど、少なくとも戸建て住宅に関しては「平均でZEH」が目標になると思いますけどね。
グレードダウンはできないので、それに向けての議論、竹内先生がおっしゃったように断熱グレードの落としどころをどこにするか。今の省エネ基準は当たり前でしょうから。
「ZEB Ready」に見る集合住宅・非住宅の問題
竹内:非住宅の影響がすごく大きいと思っています。ZEBの定義はグローバルスタンダードなんですけど、ZEB Readyというのが本当に良くないなと思っていて。
なぜかというと、(日本のZEBの)基準は、(エネルギー消費量の)半分を省エネで減らし、残り半分を再エネでまかないなさい、と。その基準というのが、今の日本の事情でしかないわけですよね。ZEB Readyの建物を見ると、大して断熱してないんですよ。もっと(エネルギー消費量を)減らせるはず。
減らした上で再生可能エネルギーを導入するなら、太陽光をどれくらい使うかって話も、含めて出てくる。あと、これから出てくる話だと思うのは、再エネで起こした水素をメタンにして、それを燃やすこと。それでもいいわけだし、再生可能エネルギーもいろんなやり方があるわけで。
そこを「半分」と決めてしまったがために、今は機器を更新して高性能のものを入れるだけで、ZEB Readyの設えができてしまうわけですよね。だけど半分にしかならないっていう状態で、躯体性能を上げればもっと減らせる。今までのやり方でうまくいっているならいいけど、全然断熱化に進まない。
それから、マンションもどうやって強化するのか。ペアガラスが基準ギリギリのところで、アルミサッシが入っていて、断熱がほとんどされていないマンションが、普通に建っているわけですよ。「これ以上断熱できません」って状態ならわかるけど、できる余地がまだたくさんある。
それを変えていかなければいけないとなると、性能表示と、オフィスビルの基準の考え方を変えた方がいいと思います。
パッシブハウスってみなさん特別なもののようにお話しされますが、中国ではパッシブハウスが今、17万m2あって、その半分以上がオフィスなんです。オフィスの断熱性能を上げて、外壁をきちんとすると(エネルギー消費量は)下がっていくはずなんですよ。
ZEB Readyとかいろんなことを言っているがために、いろいろな障害になっているのではないかと。ゼロエネルギービルの計算をするということを義務付けるだけで、相当状況は変わってくると思います。
私は日本の建設会社、ゼネコンとか設計事務所のポテンシャルというのはものすごく高いと思っていて。そこに正しく「こうしてよ」と言っていくのは大事だけど、今はできるだけ躯体性能を上げるところまでやらないのに、何とかまとめてくださいっていう風な制度に見える。
国が思っている以上に民間はできる
――竹内さんから、日本の建設会社や設計事務所のポテンシャルが高いという話がありました。今まで、省エネ基準の適合義務化において、工務店の習熟度が課題とされてきましたが、今回の資料では、戸建て住宅の適合率は87%になっている。この数字をどう思いますか?高いですか?低いですか?
小山:2019年のアンケートの結果だと思うけど、87%はそういうものかな、と。例えば、不動産屋がたまにする新築など、要は戸建て住宅の新築を専業とされていない事業者に、一定割合、数%の非適合がある。あと、大手のローコストフランチャイズでも数%は非適合があった。ただ、去年と今年でずいぶん変わっているので、たぶん今年の適合率は95%くらいになっていると思う。
竹内:建研のWEBプログラムで適合判定をやるんですよね?でも、民間はもっといいソフトを使っている。使い勝手が良くてそれが実態にも即していて、お客さんへのアプローチとしても使えているのに、それをWEBプログラムに直すのに時間がかかる。いい加減にしてくれ、と思うんですけど。
民間ベースでどんどん進んでいるものを、国交省が制限しないでほしい。せめて、門戸を開いて「これ使っていいよ」と言ってくれたら、みんな納得してやれる。
今のソフトは15万円くらい?ちょっと正しいところはわからないけど、金額としては2000万円の住宅を作っているのだから、R&D(研究開発)に20万円ぐらい払いなさい――そういう話ですよね?
それができないなら、申し訳ないけど工務店は畳まれた方がいい。“断熱屋”になってくれたらいいんですよ。仕事はいっぱいあると思いますよ。
前:きょうの検討会でも、「計算ができない人が多い」って話が多かった。建研のWEBプログラムでできるもの、できないものがある。住宅に限らずZEBの判定、非住宅のWEBプログラムもいろんな議論があるんですよね。
小山:(戸建て住宅の)87%が適合しているわけで、事業者ベースで言うと2~3割、計算できない人がいらっしゃるかもしれないけど、住宅の供給ベースでは9割以上適合している、そういうことだと思いますけどね。
不動産業界に聞くと「いやいや、みんな勉強してないから」と言うかもしれないけど、戸建て住宅の新築を中心にやっている人はできている。
竹内:今度、暖房負荷(光熱費)の表示制度ができるそうですが、躯体性能と不動産の価値が結びつく。すると、不動産屋は「こっちの方が古いけど、暖かいからいいでしょ」という営業をするんですよ。それくらいできたらいいと思う。
何か、しゃべりたいこと思い切り喋って気持ちいいですけど、大丈夫ですかね。これ。
(一同笑)
――今のところは大丈夫です。
三浦:「工務店が省エネ基準の適合義務化ができない要因だ」ということは言えなくなっていく気がします。課題は設計事務所と不動産業界かな、と僕は思っていて。その点はきょう、皆さんも溜飲が下がると同時に、逆にそっちは課題があるぞということだった気がします。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。