義務化の水準はどこにすべきか
竹内:どこまで断熱するのかという議論にならなかったのは残念でした。どこまで断熱したらいいという議論は、“全館暖房してもエネルギーが減ってくるのはどこか?”、“それに対するコスパが一番いいのはどこか?”、“再生可能エネルギー(太陽光)を載せたときのバランスがいいのはどこなんだろうか?”という3つへの答えが、本当は目指すところとしてなければいけない。
バックキャスティング的な考え方をしたとき、私は「2030年にゼロエネルギーハウスを義務化」を目指していかないといけないかな、と。あと8年でどう順序立てて(規制を)強化していくのかは置いといて、2030年に新築住宅を建てるとき、ゼロエネにできなかったら2050年の脱炭素なんて無理に決まっている、という話がベースにあったのですが、その辺の話はややこしいので。
だから、“どうやったら全館暖房をしながらエネルギーを減らすか”を、一つの方法として話をして。きょうは、あえて(断熱の)グレードに関しては何も言わなかったんですけど、「太陽光を載せる」と言ったら、みんなが必ず載せなければいけないという考え方もするし、断熱のラインというのも千差万別だと思うんですよ。そういうところにも自由度を持たせながら、ゼロエネルギーを目指すのは、ひとつのクリアな方針なのかなと思います。
太陽光はほとんど載せないけど、断熱をちゃんとしてゼロエネルギーにするよ、というのでもいいんじゃないかと思う。そこをターゲットにしたときの議論は、いろいろなケースが考えられるので、もっとしなければいけない。
――前先生は、再エネタスクフォースの「伝説のプレゼン」で、各年度の義務化の水準やロードマップを出されていましたが、お考えをお聞かせください。
前:あのタスクフォースの時点で、既に住生活基本計画のパブリックコメントが終わってしまっていた。よく理解していなかったのですが、住生活基本計画は国交省にとって最も重要な計画で、あれに書いていないことは国交省はやってはいけないくらいのものだったらしいんですよね。それを何とかしなければいけないという中で、「大変だ」という話をするべく、やったわけですよ。
みんな「脱炭素」をとても簡単に考えていているみたいですが、とんでもない。すべてを変えなきゃ脱炭素なんてできるわけがない。住生活基本計画に、ちゃんとしたエビデンスに基づく数字、目標を再設定するということを、プレゼンにも組み込みました。それが、竹内先生が参加する検討会にもつながっていくと思っています。
検討会では、竹内先生が特定の基準にあまりこだわらない、結構フレキシブルな方向性を言われたなという印象を僕は持ちました。
竹内:ほんと?(笑)
前:(義務化の水準は)竹内先生がおっしゃるように、ZEHでもいいんですよ。でも、ZEHは地域の気候によって極端な差が出る不公平が生じてしまうんですよね。
ZEHは、冬に日射が多い太平洋側の地域なら簡単にクリアできる。ところが、冬に日射がない東北・北海道、日本海側ではすこしきつい。きょう、平井知事が「鳥取で太陽光義務化は馬鹿げている」と言われていたが、それは鳥取県は冬の日射量が少ないからでしょう。
ただ、あの意見をもってして「太陽光義務化なんてとんでもない」という結論になるのは、変な話だと思う。非常に悩ましい話ですが、どれくらいのところならみんなが公平に努力できるのかなとは思っています。冬に日射がない地域・寒冷な地域をどうするのか。
でも、不利な地域に引っ張られて、達成が楽な地域もゼロエネをやらなくていいというのも変な話。
再エネは太陽光だけではない
竹内:都市と地方のことを考えると、地方にはたくさん土地や森林があるわけですよね。バイオマスを発電に使うとものすごい量を使う、と前先生はおっしゃっていましたけど、近くの雑木林でおじいちゃんが木を自伐して、薪にするのもカーボンニュートラルですよ。
要は、いろいろなやり方があると思うんですよ。鳥取県だったら、北栄町って風車がガンガン回っているところがありますけど、自宅に風車を立ててゼロエネルギーにしてもいいわけですよ。
それから、伝統的な建築を作る人と議論したら「どうしても風通しのいい家に住みたい」と言っていた。それもわからなくはない。そうするんだったら、家から離れた周辺で、太陽光発電をしたり、バイオマスの熱を使ったら良いと思います。それもいやだったら、その分の社会的負担をしてもらう、例えば高額なカーボンプライシングを受け入れてもらう。いろいろなやり方があると思うのです。
前:屋根に載せる太陽光は、自分の家で電気を使えるからレジリエンスにはいいと思います。ただ、太陽光に向いてない地域、例えば秋田県では再エネとして風力を一生懸命やっていますよね。地域の実情に合わせて、いろいろなことを考えていかなければいけない。
竹内:でもそういうのは鳥取県、長野県などが「こうやるんだ」と言ってやっていて、それなりに動いている。横の連携も含めて、秋田県だったら秋田県の人が考えていけばいい。
私は、一番の問題は東京だと思っていて。これだけ密集したところで、どうやってカーボンニュートラルをやるんだろうと思います。ですが、東京都で使うエネルギーと作るエネルギーの差をゼロにする―実際はほとんどならないだろうけど―ための何かを考えて、そこを目指していくことが大事だと思います。
小山:私のフェイスブックでも、「自由にコメントをください」と募ったら、179件あったのですが、断熱が先で太陽光発電が後という議論が一番多かった。
きょうの太陽光発電義務化の議題も、何が何でもすべて義務化ということではなくて、ZEHでもNearly ZEHやZEH Orientedがあって、寒冷地、積雪地、低日射地、都市部狭小地の例外がある。例外規定も含めながら進めていくのだろうと思います。
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