工務店の家づくりで変えよう 日本の2050年
4月19日、国土交通省・経済産業省・環境省の3省合同による「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の第1回が開催された。昨年10月、菅義偉総理が表明した「2050年カーボンニュートラル」に向け、住宅業界、工務店は何をすべきなのか。
新建ハウジングでは同日17時から、竹内昌義さん(東北芸術工科大学教授、同検討会委員)、前真之さん(東京大学大学院教授)、小山貴史さん(エコワークス社長)の3人の「キーマン」に、公開取材を実施。脱炭素社会の実現に向けた住宅・工務店のあり方を聞いた。【進行=編集部 荒井隆大】
竹内昌義(たけうち・まさよし)
建築家、東北芸術工科大学教授(建築・環境 デザイン学科長)、エネルギーまちづくり社代表取締役、『みかんぐみ』共同代表、PassivehouseJAPAN理事。専門は建築デザインとエネルギー 。作品に山形エコハウス、HOUSE-M(2013年JIA環境建築大賞受賞)など
前真之(まえ・まさゆき)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻科准教授。博士(工学)。住宅のエネルギー全般を研究テーマとし、健康・快適な暮らしを太陽光エネルギーで実現するエコハウスの実現のための要素技術と設計手法の開発に取り組む
小山貴史(おやま・たかし)
エコワークス株式会社代表取締役社長。九州でエコハウス事業を展開。経済産業省「ZEHロードマップ検討委員会」委員、一般社団法人ZEH推進協議会代表理事等を歴任。共著に「これからの工務店経営とSDGs」
三浦 祐成(みうら・ゆうせい)
新建新聞社代表取締役社長。新建ハウジング発行人。1972年山形県生まれ、京都育ち。信州大学卒業後、新建新聞社に入社。新建ハウジング編集長を経て現職。
――さっそく皆様に聞きたいことがたくさんあるのですが、竹内先生はこれまで、国の審議会や検討会の委員になられたことはなかったですよね。
竹内:はい、初めてです。
――今回、スパッと切り込んだご意見をおっしゃっていましたけど、参加されてのご感想と、なぜご自身が委員に選ばれたと思うか、理由を教えていただけますか?
竹内:感想はですね、もう少し意見交換があると思っていたら、特になくて。自分が発言したら終わりって感じで、ちょっと物足りなさを感じていますが、委員の人数も多いのでしょうがないのか、という部分もありました。
なぜ私が選ばれたか、というのは、普通の工務店と一緒に、高性能住宅を作ったことがあって、価格も含めたコントロールもできる人間が必要だろうなということと、地球環境や気候変動の話を、私は意外と知っているので、それで呼ばれたのかなと思っています。
なにぶん(国の委員会の)勝手がわからないので、きょうの会議の前にも小山社長、前先生とディスカッションさせてもらって、かなり頭が整理された中で臨めました。
――前先生と小山社長、リアルタイムで聴講されたご感想を。
前:まずは竹内先生、お疲れ様でした。すばらしい意見表明だったと思います。
今回の検討会は、いろいろなお立場の方が委員にいらっしゃったわけですよね。法律家として財産権の問題を話される先生もいらっしゃったし、行政の方―鳥取県や横浜市―もいらした。それに、住宅ローンや税優遇など金融の話もあり、もちろん健康や省エネの話もあって、住宅全体をどう考えるのかなと広範囲の議論ができた。
ただ、断熱を良くする、太陽光発電を載せることが、住宅購入者の過剰な負担になるという前提で話が進んでいるのは、若干心配ですね。本当にそうなのか?断熱や太陽光発電は、負担を住宅購入者に押し付けるものなのか?そこは早めに検証しておかないと、不当な負担をどう住宅購入者に我慢してもらうかっていう話に終始してしまう。それはもったいないなと感じました。
小山:私からは2つ。最初の所感ですけど、YouTubeで初めて国交省の委員会が公開されて1000人以上が視聴したこと自体が画期的だと思う。
YouTubeで中継されるにあたり、私もフェイスブックを通じて呼びかけましたけど、実は最初のきっかけは、市民運動だったんです。私の仲間に建築業界とは全く関係のない、脱炭素や気候変動対策に取り組む市民活動家の方々がいらっしゃって、彼らが国交省と直談判をしたのが最初のきっかけでした。要望があればオンライン公開もありうるという話をお聞きして、国交省もそういったことをする可能性があるんだ、と思って多くの方に呼びかけました。今回のネット公開が、市民運動がきっかけになったことはとても大きなことだったと思います。
もう一つは、これまでの委員会は、3省の意向を忖度しながら発言することがほとんどだったと思うんですけど、今回は竹内先生をはじめとして、鳥取県知事の平井伸治さんなど、既存施策の延長線上ではない、バックキャスティングでコメントされていた方もいらっしゃいました。私は国交省の委員会ウォッチャーみたいな感じでいつもよく見ているんですけど、初めてこれだけ異なる意見が出たなと。
とりわけ、太陽光発電の義務化に関する議論が、今回初めて国の委員会で土俵に乗ったわけですけど、当然たくさんの意見が出ることが承知の上での議論だったと思いますが、そういう意味でとてもいい検討会だったと思いました。
省エネ住宅は本当に「コストがかかる」のか?
――省エネ基準の義務化については、視聴者の皆様も賛成されると思います。ただ、前先生もおっしゃった建築コストについて、今回、国交省の参考資料では、省エネ基準に適合させるための追加コストが、戸建てでは1戸あたり11万円になっていましたが、小山社長、これはリアルな数字なんですか?
小山:以前の資料では、省エネ基準に適合させるのに87万円かかるとされていて、「こんなに高くないよな」とみんなで言っていたんですが、今日の資料だと11万円でした。ただ、参考資料1にはその説明がなかったので、多くの委員から「適合コストが高すぎる。消費者の負担だ」という意見が出ましたけど、ある意味、わずか11万円なのでその議論は深めるべきだなと思います。
前:国交省の以前の資料は、かなり低いレベルから断熱等級4まで性能を上げるのに87万円。今回の資料では、ベースラインがどこまで上がったのか。今までの審議会でも議論があったので、そこをどう調整したのか。いまだに不透明なところが多いと思うし、また、断熱のレベルをどこからどこにアップするのか、それによって暖房費がいくら減るのか。この話をセットで考えるべきで、より計算の根拠、情報が開示されることが必要。
でも、だいぶ現実に近い方向に動き始めているのはいいこと。
――竹内さんはこの数字をどう思いましたか?
竹内:正直、私は省エネ基準にあまり興味がなくて。「11万円かかるんだ、そうなんだ」くらいの話だと思うんですね。高断熱高気密住宅が数多くつくられている中で、省エネ基準を、今の基準として義務化するのに本当に意味があるのか、もっと高くないと意味がない、というのが私のスタンスです。
エネルギー消費量が減るだろうと予測して、いろいろ資料を見ていても、結局、間欠暖房でとても寒い家をつくっているのが現状なのに、それで断熱を義務化すると言って、下のレベルに引っ張られるととんでもないことになる。
それを、鳥取県の平井伸治知事が、最初に「断熱してもこっちは温かいが、こっちが寒くてヒートショックになる」と、(サーモカメラの)青いところと赤いところがある写真を見せたのは、的確なところを突いていてすごいなと思った。
>>>次ページ「義務化の水準はどこにすべきか」
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