建設工事の受発注プラットフォームを運営するクラフトバンク(東京都新宿区)は、このほど分社化したと明らかにした。旧社名のユニオンテックに戻し、内装工事業に特化する。旧社代表取締役会長の大川祐介氏は代表取締役社長となる。プラットフォーム事業部門は独立し、4月15日付で、新会社クラフトバンク(東京都中央区)を設立させた。旧社代表の韓英志氏が代表取締役社長に就任する。新会社はユニオンテックとは資本関係のない、独立した会社。プラットフォーム事業の運営や権利などは、全て新会社で承継し、引き続き運営を行っている。韓氏に分社化の経緯と狙いを聞いた。
―なぜこのタイミングなんですか
内装会社として、プラットフォーム事業をスタートさせてから4年、お互いの事業が弱みを補完しあう形で成長を遂げてきた。私が経営参画してからの3年間は、大川と二人三脚でDX化を図り、生産性が圧倒的に向上した。プラットフォーム事業は多くのトライアル&エラーを繰り返し、R&D(研究開発)としてのフェーズを終えて、大きく成長する道筋をつけることができた。3年前では考えられないくらい多くの建設テック企業が現れ、コロナ禍によって10年分のDX化が一気に進み、タイミング的にも、今が決断する時だと考えた。
大川(旧社、代表取締役会長)と経営に対する見解の相違があったとか、そういったことが理由ではない。今でも密にコミュニケーションはとっているし、以前と関係は何ら変わっていない。互いに「建設業に関わる人たちが真っ当に評価される世界をつくりたい」というビジョンは一致しているし、誰よりも、それは理解し合っている。端的に言えば「いいタイミングだし、それぞれアプローチの仕方を変えてみようか」と。今後の市場環境を考えた時に、より機動的に動ける権限と意思決定の体制をつくって、結果責任を明確化する意味でも、最適な選択だったと思っている。
■分社化は常に選択肢のひとつだった
―旧体制のままでは難しかったのでしょうか
2018年1月に副社長としてジョインした時から、実は大川と「どこかのタイミングで分社化する必要があるね」と話していた。これについては3ヶ月に一度くらいのペースで話していて、常に選択肢のひとつにあった。具体的に決断したのは2020年12月末だった。旧社は2000年からクロスや内装仕上げ工事業、設計デザインを展開し、2016年よりITプラットフォーム事業に参入した経緯がある。内装元請事業(内装事業)を持ちながら、プラットフォーム事業するのは、外部から見れば「元請が専門工事業の経営データを取り扱う」という風にも誤解を招きかねず、中立性に欠ける。分社化は、より透明性を担保させるという狙いもある。
現在、プラットフォーム事業では、全国の専門工事業約20万社(同社調べ)のうち10%の2.2万社が会員になっている。施工力カルテや企業分析(対応可能工事、人工単価、主要取引先など)などを行った独自データベースは5000億以上の情報が蓄積している。帝国データバンクや東京商工リサーチ、SPEEDAなどといった信用調査機関と比較しても、建設分野では当社が圧倒的に情報を保有している。協力業者をパッケージ化して紹介する事業では、大手建材や上場企業などでも導入が進んできている。クラフトバンク事業(プラットフォーム)がスケールし始めた時期でもあり、ちょうどいいタイミングでもあった。
一方、内装事業としても、この3年で社内ITチームによる大幅な生産性向上が進み、収益改善が進んだことも大きい。一人当たりの生産性が1.5倍にまで拡大し、売上高、営業利益は過去最高を記録している。設計施工一貫型の事業として、スケールする道筋が見えてきた。このことから、プラットフォーム事業と内装事業の戦略的シナジーと、事業の意思決定スピードや透明性を天秤にかけたとき、それぞれのシナリオが見えているので、後者の方が確実に両方伸びていくし、合理的だと判断した。
■意思決定のスピード加速する
―経営にはどんなメリットがあると考えますか
資金の使い道の異なる内装事業とプラットフォーム事業が分離することで、事業最適化が加速する。内装事業にとっては、銀行からの運転資金の借り入れにより安定的な成長が見込める。プラットフォーム事業にとっては、内装事業のキャッシュフローに左右されずに、戦略的な投資が可能となり、独自のスケールシナリオが描ける。内装事業90人、プラットフォーム事業40人の所帯となって、小さな組織に立ち返ることで意思決定のスピードが圧倒的に早まるだろう。
ユニオンテックへと社名変更した旧社は、内装会社としてデジタルにも強い人材が多く在籍し、テクノロジーを駆使した設計施工会社になる。一方、私たちは、現場監督や職人出身が多数在籍し、職人に寄り添ったプロダクト開発が可能になる。建設業界出身者だけでなく、設計事務所(一級建築士)やLIXIL、ヤフー、DeNA、リクルート、衆議院議員秘書、岐阜放送——など、多様なバックグラウンドをもった人材が揃っていることも強み。採用やブランディング、エンジニア、デジタルマーケ、セールスなど、全て完結できる体制だ。
新会社では、プラットフォーム事業以外にも、デジタルを活用した業務改革の提供を試験的にスタートさせている。実際に4月15日の分社後から、既に10社を超える地方工務店や地場ゼネコンのDX化への支援を進めてきた。ツールだけでは会社や世の中は魔法のように変わるはずないし、経営者は多くの悩みを持っている。私たちがそれを解決するために、テクノロジーを駆使して支援することで、次の時代に向けた一歩を手助けできると考えている。
■勝負を仕掛ける
旧社に参画する前は、リクルートで新規事業の立ち上げや投資を行ってきた。2015年にドイツ・ベルリンに本社を置くQuandoo GmbHを買収(271億円)、Managing Directorとして現地で経営参画した後、2017年6月にリクルートを退職した。辞めた理由は「燃え尽き症候群」だったと言っても過言ではない。そこから約半年間、心にぽっかりと穴が開いた状態で、育児をしながら将来のことについて考えていた。これからどうなっていくだろう―と漠然とした気持ちで過ごしている最中も、あらゆる企業から好条件でオファーを頂いたが、なぜか自分の気持ちはピタリとも動かなかった。企業規模、時価総額、待遇、名誉なんてどうだっていい。きっと、自分が心から人生を捧げることができるものを探していたんだと思う。
そんな時に出会ったのが大川であり、旧社の仲間たちだった。参画しようなんてつもりは全くなかったが、気が付いたら初台のオフィス(旧社所在地)に毎日通っている自分が居て、青春時代を取り戻したかのように、仲間たちと突っ走ってきた。新社が始動してから約1ヶ月。今もあの時と同じような気持ちで、メンバーたちと毎日プロダクトに向き合っている。現在は分社化に伴い、新宿の初台にある家賃数百万円オフィスから、日本橋にある家賃10万の住宅に移った。事務所というよりも、皆が集まれる場を作りたいと思い、全員でDIYして住宅を改修した。この場所から40人のメンバーたちと、ITを駆使して建設業界の変革にチャレンジし、勝負を仕掛けていきたい。
韓 英志(はん・よんじ)
元 株式会社リクルートホールディングス エグゼクティブマネジャー。東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻を修了後、2005年株式会社リクルートに入社。住宅事業(現SUUMO)を経て、国内の新規事業開発を複数経験。その後、同社のグローバル展開を主導し、総額75億円のコーポレートベンチャーキャピタルを設立。実行責任者(リクルートストラテジックパートナーズ取締役、リクルートグローバルインキュベーションパートナーズ取締役)として30社以上への投資を実行。2015年にはドイツ・ベルリンに本社を置くQuandoo GmbHを買収(271億円)し、Managing Directorとして現地で経営参画。2017年6月にリクルートを退職し、約半年間育児に専念。2018年1月より参画。2021年4月クラフトバンクをMBO
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