モノを散らかさず、常に身の回りを整理整頓して暮らせることは、生活の幸福感にも影響を及ぼす大きなテーマだ。成功するか否かは、住まい手の努力の問題と思われがちだが、実は設計者が新築時にどれだけ「収納計画」を考えたか、によって結果は大きく変わってしまう。
「片づけの解剖図鑑」(エクスナレッジ、2013年)の著者で、鈴木アトリエ一級建築士事務所(神奈川県横浜市)代表の鈴木信弘さんに、設計者としてのプラン計画時の収納計画に対する心構えやポイントを聞いた。
鈴木さんは、引き渡し後、数カ月から1年の間に施主を訪ねることを、自らのルールと決めている。入居後、しばらくたった施主宅を訪ねる目的の一つが収納の状況のチェックだ。棚にはどの位置に何が置かれ、何が収まらずにテーブルや床に散らかっているのか。この様子を確認することで、自らが設計した空間が施主にとって適切であったか答え合わせができる。
実際の施主の暮らしぶりを写真に記録し、これから家づくりを始める住まい手に見てもらったり、課題解決のアイデアを自らの設計にフィードバックしたりする。自著「片づけの解剖図鑑」は、地道な施主調査を繰り返すことで培った収納計画のノウハウをまとめたものだ。
使う場所の近くに収納を
モノが散らからない空間を維持するために、設計者が配慮すべき鉄則は「使う場所の近くに収納をつくることに尽きる」と鈴木さん。各部屋で住まい手はどんな行為をするのか、具体的な体の動きや手順を想定する。動線のなかで無理なく収納するスペースが確保されていれば、基本的にモノが散らかることを防ぐことができる。
この鉄則に基づいた合理的なプラン手法として鈴木さんが勧めするのが、独立させた収納空間をつくること。最近では「ウォークインクローゼット(WIC)」「パントリー」「シューズクローク」などの名称で定着している間取り手法だ。
収納スペースを独立させるメリットは、モノを隠す必要がないため造作扉が一切不要になり、間仕切り壁と棚板さえあれば簡単で安価に収納スペースを確保できること。床から天井まで壁全面に収納スペースを集約できれば、生活スペースをより広く使うことができ、「見せる収納」にする精神的余裕も生まれる。さらに面的広がりでモノを視覚的に把握できれば日常でのモノの管理や整理がしやすいメリットもある。鈴木さんはよほどの狭小地住宅でない限り、ウォークインクローゼット(衣類)・パントリー(食品)・シューズクローク(屋外で使用するモノ)の3空間は必ず配置するという。
壁をいかに取れるか
平面プランの段階で、鈴木さんが収納計画について特に工夫を凝らすのは「どこに壁をとるか」。・・・・・
⇒ 続きは、新建ハウジング別冊『ワンテーママガジン2021年3月号(2021年2月28日発行)/施主の心をつかむ収納&片付け提案』に掲載しています。
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