新建ハウジングが運営する工務店向けオンラインスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、吉岡孝樹さんの「『小なれど一流』を目指す社長への【選ばれる工務店への道】コラム」ルームからの記事です。
大学卒業後、アパレル企業を経て住まいに関わること30年。自ら住みたい家に暮らし、同じ価値観でお客様にも提供する仕事がしたくて2000年鹿児島に移住し“日本一の工務店”と名高い 株式会社シンケンに入社。その後、2002年自宅を新築、2010年著書『家づくりの玉手箱』発刊。本作は、氏の個人的営業トーク→シンケンHPのブログ→書籍化というプロセスで生まれたもので、全編にわたり新鮮な住まい手目線の写真と文体で表現され読者から絶大な支持を得ている。SNS時代にも通じる住宅コンセプトブックの金字塔とも言える一冊。2019年に株式会社家づくりの玉手箱を設立、『工務店の参謀』としての活動を開始。…
忘れ得ぬひと言 その2-1からつづく
エリア確保に尽力する社長
そういう状況になると社長は次に何を考えるかというと、多くの場合『新しい武器』を手に入れることだったりします。そこで、VC(ボランタリーチェーン)の営業担当の出番です。「社長!新しい商品がリリースされてますよ。まだ、今なら御社のエリアは確保できます!」ここで必ず「今なら」と言うのがミソです。この「今なら」の言葉に社長は「もし、商売仇のB社に先を越されたらまずいことになる」と言う懸念がグングン湧いてきて、即決で追加購入を決めてしまったりします。
場合によると、自社のエリアでその商品を販売する気は全くなくても購入される社長もおられます。どうして、数百万もの資金を注ぎ込んでそのような買い物をするのでしょうか?それは、エリア内の他社にその商品を売らせない為なのです。自社商品の優位性を脅かすものの芽を摘むという戦略なのです。以前やっていた大河ドラマの始めのほうにもそういうシーンがありましたが、なんだか時代劇でよくある堺の商人と戦国大名との展開のようです。いやはや何とも驚きました。
忘れえぬひと言
ずいぶんと前置きが長くなってしまいましたが、私の「忘れえぬひと言」はVC(ボランタリーチェーン)で長年のあいだ全国津々浦々を走り回ってこられた超ベテランのお言葉です。
「吉岡さん、我々の営業の根幹は工務店の社長の頭からいかに思考を奪うかなんですよ」
それを聞いたときにはいつも温厚で穏やかなその方の顔が、悪魔の顔のように見えて背筋が「ゾワゾワーっ」としました。そうです。そうして各地で軍拡競争を煽り、自らの売り物を自らでは考えない体質をつくっていくのだと言うのです。VC=武器商人とも言えそうな話です。
↑戦国時代の火縄銃も、やがては全国の大名が使うことになりました。
私がこわばった顔をしていたからでしょう。その方が次に言われたのですが、
「吉岡さん、僕たちにも正義はあるんですよ。」 「部材の共通化、仕入れの一本化によるコストダウン、加盟店同士の事例・情報共有による教育研修、最新のマーケティングプロモーションによる見込客の提供などを通じて日本の住宅品質の底上げを担っている。地域(各地)の工務店がハウスメーカーに潰されないように支えているんです。」
なるほど、そういう一面も確かにある・・・しかし、考える力を失い、他者への依存性の高いビジネスになっていて、果たして長きにわたるその後の繁栄があるのだろうか?
お客様が工務店に対して、本当にそういう自動車ディーラーやコンビニのような在り方を望んでいるのだろうか?
TTP型からシェア型へ
以前はTTP(徹底的にパクる)という掛け声のもと、全国の成功事例を視察会で見て歩いて自社に吸収していたのが、コロナ禍でリアルでは出来なくなってしまいました。オンライン視察会なども開催されていますが、そういった環境ではTTP(徹底的にパクる)の精神でもある「こっそり盗む」ことは難しくなったといえます。
また、お施主様の年代も徐々に「デジタルネイティブ世代」になり、集客の方法もネット抜きでは考えられない世の中になりました。そこにコロナウィルスが追い討ちをかけてその傾向が加速しています。規格型住宅商品はネット上でもアピールポイントの全体像がつかみやすく、打合せ内容も少なくて済むので昨今の状況にあっているといえます。
最近では「みかじめ料(ショバ代)」のない規格商品提供サービスも登場してきています。エリアの権利関係はなく、いつでもだれでも規格商品サービスを購入できるシステムです。これは、ある種のシェアリングエコノミーとも言えるものであり、手数のかかる構造計算や実施設計をも安価にアウトソースする新しい流れです。
こうして、規格型住宅商品の提供サービス周辺にも変化が見られますが、自身と類似した競争相手を生みやすいモデルであることは変わるものではなく、更にその性質が強まっているのです。「工務店さんは契約・確認申請・工事だけやっていただければOKです」というこのサービス、ありがたいようでもありますが、ここで改めて考えてみて欲しいことがあります。
企業利益の源泉は「付加価値」です。改めて言うまでもないことかもしれません。
■「契約・確認申請・工事」だけで戦うとして、その仕事にはどの程度の「付加価値」がつけられるのでしょうか?
■そういう前提だとして、年間何棟売れば所定の利益高を確保できるのでしょうか?
■常にたくさん売ることが必要になる前提で、経営を考えても大丈夫なのでしょうか?
社長、あなたの「思考」は奪われていませんでしょうね?
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