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住まいを考える時、これまで「家族の健康」はあまり重要視されてこなかったようです。長年、住宅と健康の関係を研究されてきた 慶應義塾大学の伊香賀俊治先生に、そのリスクを詳しく聞きました。
どんなリスク?
ヒートショック
日本ではこの20年間、家庭内での不慮の事故が増加しつづけています。なかでも、高齢者の浴室での溺死事故は交通事故死者の約3倍も発生しています〈図1〉。高齢者の入浴事故が増える要因のひとつに、冬場の「ヒートショック」が挙げられます。暖かい居間から寒い脱衣場、そして再び暖かい浴槽へ。この移動時の急激な温度差が、血圧を乱高下させたり脈拍を変動させたりします。
高血圧・循環器疾患
家の寒さが体に与える影響はさまざまですが、ヒートショックで起こりやすい循環器疾患(心疾患、脳出血疾患)には、血圧が大きく関係し、高血圧や動脈硬化の傾向にある人に起こりやすいといわれています。40歳以上では、室温が低下すると血圧が上昇する傾向にあり、それは高齢になればなるほど顕著です。
国土交通省の「スマートウェルネス住宅等推進事業」の一貫として、「どういう家に住むとどういう病気になるか」を調査しています。断熱改修を予定する住宅を対象に、改修前後の居住者の血圧を調査したところ、室温が低いほど血圧が高いこと、また高齢者ほどその影響が大きいことが明らかになっています。
運動能力・学力知力の低下
例えば、居間とトイレの温度差が10℃以上あると、一日に移動する歩数が2000歩も減少するというデータがあります。家の寒さは運動不足の要因にもなり、運動不足は当然体によくありません。
断熱改修前後の幼稚園で子どもたちの活動量を測定した結果、改修後は1日の活動時間が平均12分程度増加していることがわかりました。また、体を動かすと脳が活発になるため、当然学力も上がります。小学校を対象とした調査では、子どもの体力と学力との比例関係が明らかになっています。
生産性低下
住環境や幼稚園・学校の施設の環境が、子どもの体力・学力の発育に影響を及ぼすとすれば、当然ながら働く世代の労働力や生産性にも影響があります。
特に、現代では仕事の生産性と「睡眠」との関係が注目されています。夏場の冷房環境と睡眠・作業効率の関係の調査では、夜間に最適な温度環境を保つことで、しっかり熟睡できることが明らかになりました。その結果、翌日の作業効率も大きく変化します。
一方、オフィスの室内環境の調査では、室内の上下の温度差によって集中力に差が表れることがわかっています。
どうやってリスクに備える?
「最適な住まい」への理解が健康を守る
これまで日本では「住まいと健康」への理解が進んできませんでした。日本の住宅の断熱性能は一向に上がらず、現在の省エネルギー基準を満たしている住宅は、全国でもわずか5%しかありません。
2018 年に、WHOは住宅と健康に関するガイドラインを発表。「冬季室温は18℃以上」であること、また子どもや高齢者はこれ以上に暖かい環境を「強く勧告」しています。
また、英国建築研究所によれば、最適な室温は21℃。18℃から健康リスクが現れ、16℃以下では深刻なリスクが現れるとされています。
日本の標準的な家の断熱性能は欧米諸国に比べると著しく低く、冬の室温が一桁台まで下がることも珍しくありません。そんな住まい環境を改めていくことが、家族の健康を守ることにつながると思います。
家全体を「均一に暖かく」が理想的
暑さ・寒さによる住まいの健康リスクをなくすためには、家の断熱性能を向上させることが最短の道です。断熱性能を高めることによって、家全体を「均一に暖かく」することができます。
均一にするのは、まず「部屋間の温度差」です。ヒートショックをはじめ、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞といった症状は、部屋移動の温度変化が要因のひとつと考えられています。
また、「上下の温度差」にも気を付けたいものです。寒い家の血圧への影響に触れてきましたが、実は、足元が寒いだけでも高血圧になりやすいのです。足元付近のみ寒い家も、室内全体が寒い家も、どちらも暖かい家と比較して1.6倍も高血圧になりやすいという結果があります〈図2〉。
さらに、「時間による温度差」もあります。日中温度と夜間温度の差が少ない住宅では、起床時血圧の低下や、心拍数上昇の抑制などが認められています。
これらのさまざまな「温度差」に対して、エアコンなどの暖房器具だけで対応するには限界があり、多くのコストもかかります。家の断熱化によって、すべての温度差をなくし、家全体を均一に暖めることが理想です。
家族のライフステージに沿った断熱対策を
夏に涼しく、冬は暖かい断熱性能の高い家は、家族の健康を維持するための大事な器です。「人生100年時代」を迎えて、自宅でいつまでも健康に過ごすための住環境がますます重要になってくるでしょう。
150人の方を対象に脳の情報を可視化した研究では、暖かい住まいでは脳神経の経年劣化が少なく、「1℃暖かい住まいで脳神経は2歳若い」という調査結果があります。自立生活が可能な年齢の半減期は76歳と言われていますが、住まいの温度を2℃暖かくすれば、自立できる生活を4年間延伸して、80歳まで健康寿命を保つことができるのです〈図3〉。
家族といつか高齢となる自分自身のために、健康を害さない家づくりを目指したいものです。
※本記事は「だん05」に掲載されています。
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