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最近注目を集めている住宅の「全館空調」。ひとつの設備、例えばエアコン1 台で家全体の冷暖房をまかなう技術です。住宅・建築物の温熱環境や省エネルギーが専門であり、2.8kWクラスのエアコン1 台での全館空調を実現した「YUCACOシステム」研究会の会長も務める東京大学名誉教授の坂本雄三先生に、全館空調の家をつくるためのポイントをお聞きしました。
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―全館空調はオフィスビルのイメージがあります。住宅でも全館空調はできるのですか?
高断熱住宅は、冷暖房に必要なエネルギーが少なくて済む家だということはご存知ですね。高断熱住宅なら、40坪程度の家であれば、市販のエアコン1台で家全体を冷暖房することも難しくはありません。
住宅の断熱性は、できれば、「HEAT20(民間の断熱基準)」*のG2レベル相当であることが望ましいですね。すでに、G2レベルの住宅を建てている工務店は現実に存在していますし、HEAT20でも断熱材や窓の具体的な仕様も提示しているので、非現実的な性能というわではありません。
*HEAT20、G2など性能の説明はこちら
―全館空調の家をつくるとき、断熱性能以外にどんな点に注意すればいいですか? また、費用はどれくらいかかりますか?
ポイントは「風量」と「温度差」です。
空調とは必要な熱を運ぶこと。風量が少ないと、エアコンの設定温度をうんと上げたり、下げたりしなければ快適な室温になりません。しかし、特に夏はエアコンの設定温度を20℃以下にすると、結露する可能性が高くなり、カビが生えやすくなってしまいます。
「温度差」を小さくすればそのリスクを回避できます。例えば、私たちが研究しているYUCACOシステムでは、室温とエアコンの設定温度の差を、4℃以内に抑えるようにしています。冬は室温22℃に対し、エアコンは26℃。夏は室温26℃に対してエアコンは22℃に設定します。そのかわり、風量を増やすことで熱量の問題を解決します。風量の増やし方としては、送風ファンを使って、2000m3/h程度にしています。換気の風量は200m3/h弱ですから、換気の10倍以上ですね。
風量が多いと言っても、吹き出し口から出る風は1m/秒にも満たない風速ですし、吹き出し口の断面積を大きくすれば風速は下がります。風が気になるようなことはないでしょう。
一定の風量を確保するために送風ファンをたくさん設置するので、消費電力が気になる方もいるかもしれません。しかし、今のファンは効率がとてもよく、消費電力も1台あたり3~5W程度です。10台あっても50W。エアコン自体の消費電力の10%にも満たないので、電気代も大した額にはなりません。
初期費用は、YUCACOシステムの場合、現状ではプラス百数十万円といったところです。高いと感じたかもしれませんが、エアコンも全部の部屋に設置したらそのぶん費用はかかりますよね。
―全館空調のメリットはどんな部分にあるのでしょうか?
私なりの言葉でいえば「豊かさ」を感じることですね。家中どこに行っても、極端に寒い、あるいは暑いところがないというのは、人間の気持ちをリッチにさせると思うんです。冬は寒いと縮こまってしまいますよね。
また、副次的なものですが、家中の空気を循環させるので、冷暖房以外の機械設備も効率よく使えることもメリットでしょう。空気清浄機や除湿機・加湿機をエアコン室に設置すれば、1台で家中の空気をきれいにしたり、湿度をコントロールできる。換気もエアコン室に新鮮な空気を送り込むだけで、家中に行き渡ります。温度だけではなく、湿度や空気質も改善できる。まさに「空調」なんです。
1階に暖房用、2階に冷房用のエアコンを設置するなど、2台以上のエアコンを使う空調も、もちろんありです。高断熱住宅なら、光熱費も大差はないでしょう。しかし、エアコンの台数が増えれば、室外機も増えます。室外機がたくさんついているのは、住宅の美観を損ねることにならないでしょうか。エアコン本体(室内機)もできれば見えなくしたい。住宅が建築としてより美しくなることも、全館空調の優れた点だと私は感じています。
全館空調の家は、決して難しいものではありません。建築基準法では24時間換気が義務付けられています。24時間換気も設備によって家中の空気を動かしているのですから、そこに空調をプラスする、と考えれば、設備的にはそう難しい技術ではない。ただし、前提は高断熱化です。建物と設備を一緒に考える家づくりがこれからのスタンダードになっていくと思います。
※本記事は「だん03」に掲載されています。
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