新建ハウジングが運営する生活者向け家づくりメディア「jimosumu(ジモスム)」から、よく読まれている記事をご紹介します。自社でも使えると思った記事・共感いただいた記事は、SNSなどでリンクを張るなどして、ぜひご活用ください。
人生100年時代、マイホームを考えるひとつの指標は「長く住めるかどうか」。災害の多い日本で、長く安心して暮らせるだけでなく、第三者から見ても価値の落ちない家づくりは可能でしょうか?不動産コンサルティングの第一人者・長嶋修さんに聞きました。
「住宅の価値」はこうして決まる
「不動産の価値」は、どのように決められているでしょうか。
日本の場合、建物の価値は「築年数」で決まります。新築住宅の価格を最大とすると、購入して住んだ瞬間にそれは「中古住宅」となり、建物は20%程度の資産価格低下になります。10年で半値に、そして25年程度で「ゼロ」に なるのが、一般的な評価です。
金融機関が住宅を査定する際、さまざまなチェック項目がありますが、実際に住宅まで足を運んで現状調査をするようなことはしません。多くの項目をクリアしても、築年数が一定年数を超えていれば、評価はゼロになってしまうのが現状です。
実は、先進国の中でも築年数によって住宅の価値をゼロにしてしまうのは、日本だけです。金融機関は築年数には着目しても、実際に家の状態を見ることはしません。
しかし、ここ数年、中古住宅市場は大きな変革を遂げようとしています。最終的には、築年数を無視した評価を目指しています。
その一貫として、2018 年の4月、ホームインスペクション(住宅診断)の説明を義務化しました。あくまで「説明の義務化」のため、中途半端であることは否めませんが、こういった政策も動いています。
なぜ、このような取り組みが必要か。中古住宅市場というのは、経済学でいう典型的な「レモン市場」なのです。見た目はきれいなのに、中身はスカスカだったり腐っていたり。中身や実態がよくわからないまま販売されている。そうなると、どの住宅も信用できないため、市場全体の価値を下げざるを得なくなります。
そうではなく、「良い」「悪い」をきちんと評価していこうと動き始めたところです。良い住宅は、築年数が経っても価値が落ちないようにしていきたいと思っています。
例えば、築年数が45年の住宅に対して、現実的には45才だけど、事実的にはコンディションが良いので15才ですね、と評価することを目指しています。
もちろん、逆のパターンもあります。つまり、実際の築年数は10年だけど、省エネ性も悪いし耐震性もぎりぎりだから、事実上は築30年の評価になる、ということです。
日本でこの話をするとびっくりされますが、他の先進国は既に実現されていて、日本だけが特別なのです。
人生100 年時代の「世界標準」
耐用年数が長い住宅は、住宅ローンが長く借りられることもひとつのメリットです。逆に、耐用年数が短い住宅は、住宅ローンが借りづらくなります。ドイツでは、建物をしっかり評価する仕組みがあるため、80 年ローンというものまであります。死ぬまでに完済を目指さなくてもいいわけですね。
日本も遅ればせながら、5年ないし10年後には「良い住宅」「悪い住宅」の評価が義務付けられることが考えられます。これから家を購入予定の方は、そういった評価がされることを考慮に入れておくべきでしょう。
評価方法はまだ決まっていませんが、他の先進国の例を考えると、建物を「基本構造」「設備」2つに分けて、評価されるのではないかと考えられます。
「基本構造」は、いわゆる新築住宅の10年保証の対象になる領域です。住宅の基礎、土台、壁、柱、屋根など、「住宅の構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」を指します。
この「基本構造」については、コンディションがよければ価値が変わらない評価が望ましいでしょう。例えば、雨漏りすれば価値は落ちてしまいますが、それに気づいて修復すれば、また価値が戻るような仕組みです。一方の「設備」については、使用すればするほど劣化してしまうため、使用年数や性能に応じた評価になります。
つまり、家を新築する時や購入する際には「基本構造」を重視し、省エネ性や耐震性を最高水準にしておくことが、家の価値を考える上では大切です。
世界の「標準」を考えてみると、ヨーロッパ諸国の多くは住宅の省エネや断熱が義務化されています。例えばドイツでは、新築で家を建てる場合、かなり高い省エネ性・断熱性をクリアする必要があります。また、中古住宅の省エネ改修に特に力を入れており、省エネ改修のレベルが高ければ高いほど、補助金や金利の優遇があります。さらに断熱の基準では、室温が19℃以下になる住宅を貸すことができませんし、19℃以下の家に奥さんを住まわせると法律違反になります。これは、「住宅の温度の低さが人権を侵害する」という考えからです。
また、EUではすでに「エネルギーパス」が義務化されています。エネルギーパスとは、いわば「建物の燃費」を表示する証明書で、どのような建物でも、エネルギー消費量が一目で比較できる制度です。自動車の燃費と同じように、住宅の光熱費が分かります。
長く住み続けられる家を考える時、このような世界の標準に合わせて、省エネ性・断熱性を捉えておく必要があります。
後編につづく
※本記事は雑誌「だん05」に掲載されています
★高断熱住宅専門誌「だん」についてはこちらをご覧ください
株式会社さくら事務所会長。さくら事務所創業者・不動産コンサルタント。
1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「不動産の達人 株式会社さくら事務所」を設立。2008年NPO法人ホームインスペクターズ協会を設立。
著書に『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)、『不動産格差』(日本経済新聞出版社)ほか多数
▼jimosumuシェア用記事はこちらから▼
人生100年時代の安心住まい|長く住める価値の落ちない家(前編)
jimosumuでは「note」という、いま人気のコンテンツプラットフォームを使っています。noteを使っている方はぜひフォローをお願いします。noteを使っていなくても、SNSの「いいね!」にあたる「スキ」を押すことができます。こちらもぜひお願いします。
▽「jimosumu」とは?▽
プロ向けの住宅専門紙がnoteで生活者向けの情報発信を始める理由-「住宅貧乏」を解消するために
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。