新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、青木隆行さんの「工務店リアル経営」ルームからの記事です。
株式会社ソルト(SOLT.)代表取締役。経営アドバイザー/MBA。1972年・山口県防府市生まれ。2002年~2019年まで、株式会社銘建(MEIKEN)代表取締役。さくら銀行(現三井住友銀行)を経て、家業であった工務店を事業承継。銘建では、『ライフスタイル型工務店』『一気通貫経営』を提唱。事業規模を2.7億円から23億円へ拡大。2016年より多角化(機能回復型デイサービス・不動産賃貸・民泊・食品物販)展開。2019年M&Aにより事業譲渡。現在は多角化した会社を経営しながら、経営アドバイザーとして全国の工務店・中小企業への支援を行っている。
ソルトの青木隆行です。前回・前々回を通し、工務店経営に必要不可欠である経営理念の構築、経営戦略の立案(経営理念の落とし込み)についてお伝えしました。経営理念が浸透していれば、ぶれない経営戦略の実行が可能になる。経営理念・そしてその具現化である経営戦略を考える土台となるフレームワークを、必要最低限お話しさせていただいたつもりです。
今回からは経営戦略をより具体的に、実践的にどうやって組み立てていくかというステップに入ります。
まずは外部環境を把握する
さて、経営戦略を練るにあたり、外部環境・内部環境を把握することが重要です。これには前回いくつか説明をしたフレームワーク分析も参考にしてください。まず、国内の住宅行政や大きな流れをつかんだあとは、自社の施工エリア(商圏)の人口が何十万人で、住宅着工棟数が何千棟であるかなどを確認する必要があります。
例えばいま住宅の高性能化が進められています。住宅は既に1000万戸以上の家余り状態なのですが、高性能住宅に関しては今後一定の需要が望めるかも知れません。また、世界的なCO2の排出削減推進などから太陽光発電システムについても重要性を増してくるかもしれません。2030年には新車はすべて電気自動車になると、その燃料が自宅で作れるわけですから、これからの家づくりにおいては外せないポイントになるかも知れません。
他方、人口動態は将来予想が出来ます。かのP.F.ドラッカーは「人口の変化は、労働力、市場、社会、経済にとって最も基本となる動きである。すでに起こった人口の変化は逆転しない。しかも、その変化は早くその影響を現す」と述べています。人口動態から数年後、数十年後の「すでに起こった未来を探す」ことが出来ます。ここから将来の住宅着工をある程度予測することも可能です。そして『全国の住宅着工が10年後(2030年)に60%(60万戸)になる』とずっと言われていますが、全国一様に60%になる訳ではありません。ここに商工中金が出しているデータがあります。(「都道府県別の住宅着工と空き家の中期予測」)
このなかでは、特に過疎化の進んでいる地方では新築住宅の着工が大幅に減少することも予想されています。逆に沖縄県や滋賀県のように地方であっても住宅着工棟数があまり減らないと予想されている県もあります。全国一律の一般論は全体の潮流としてとらえ、外部環境はより具体的な自社商圏を詳しく調べる事が重要です。人口動態予想や住宅着工棟数の実績は各都道府県のHPなどから調べることが出来ます。
(上記データが2014年と若干古い印象もあるので、こちらのデータも。三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2020年) 都道府県別とはいきませんが、ここでは中古住宅の活用が進むスピードの違いによって、3パターンの将来の住宅着工数値予測を出しているのがユニークです。ただどのパターンにおいても北陸・甲信越の減少幅が大きいのに対し東海地方は小さいなど、地域ごとの差は分かります)
次に内部環境を把握する
内部環境については、まさに自社の事を客観的に評価することから始まります。『現在の自社の強み・弱みは何か』という単純明快な問いに、的確な答えを持つ事が成功の秘訣だといえます。
しかし、ここを見誤っておられる工務店経営者も多いのではないでしょうか。例えば、自社の強みが自然素材や設計力だという工務店は多くあります。確かにそうなのかもしれませんが、それが本当に強みになっているのでしょうか?
例えば同じ商圏エリアのなかに自然素材を使っている工務店はたくさんあるはずです。つまり他の自然素材を使っておられる工務店との違いが明確でなければ、強みとは言えませんので、自然素材だけが強みであるという事にはならないのです。ほかに、企業努力で価格を抑え、安さで勝負している工務店さんもあるでしょう。確かに安く売るというのは売り方の一つではありますが、安く売ったからといってすべて売れるわけでもなく、逆に企業の収益性を損ない弱みにすらなりかねません。安さの理由としてコストダウン力において他社にはまねできない強みがあるという事であれば、納得できます。自社の本当の強みが何なのかを、よりシビアに客観的観点で見る事が戦略立案のカギになるのです。(次回へつづく)
【POINT】➡外部環境・内部環境の確認からはじめよう。
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