今、住宅業界で深刻な問題になっている米松製品・欧州材製品の納品遅延問題は、法律的には不可抗力と言いがたい側面があります。
そもそも、この事態がリーマンショックのような経済事情の激変にあたるのかというと、そうではありません。米国の旺盛な住宅需要という他国の事情が最も大きな要因となっていて、欧州の製材会社が米国向けの販売量を増やし、その結果、日本に材料が回ってこないという現象であり、「経済事情の激変にあたるので、工期や請負代金の変更を求めることができる」と解釈することが難しい側面があります。また、東日本大震災後のサプライチェーンの崩壊といった事象とも異なる側面を持ちます。
しかし、影響は深刻であり、4月から国内大手集成材メーカーが減産を決め、受注・出荷調整を行っており、5月以降はさらに減産をするとの見通しを示しています。各地のプレカット工場でも木材製品(米松製品、集成材など)が確保できず、また、確保できたとしても価格が急騰している問題に直面しています。
供給サイドで、材料の数量確保の保証ができない現状、施主様と請負契約を締結している工務店は、早急に、施主様に事情を伝え、部材・樹種の変更、納期の調整をお願いしなければならない事態であると考えます。
この緊急事態に直面し、施主様と交わしていただきたい合意書の書式を作成しました。
1. 第1条(工事の変更・追加)について
こちらは、樹種の変更を施主様にお願いしなければならない工務店向けの条項です。
変更前の樹種は、請負契約書添付の設計図、見積書にて特定されていると思いますので、これを本合意書に設計図、見積書を添付していただき、樹種の変更合意をして頂く書式として作成いたしました。
2. 第2条(工期の変更)
不可抗力と評価できない可能性が高い以上、工期遅れに伴う遅延損害金請求を防ぐべく、施主様と工務店の合意で工期を変更する必要があります。
工期は、明確に定めておくことが必要なので、不透明な状況ですが「〇年〇月〇日」と日付も具体的に入れて頂きたいと思います。
3. 第3条(請負代金の変更)
請負代金の変更をするかどうかは、工務店によって判断が分かれると思います。
材料調達の責任は工務店の責任だから、値上がり分は、施主には請求しないと考える工務店は、この第3条を削除してお使い下さい。
従前より、欧州材のPL事故処理などを弁護士業務として取り扱っている中で、日本のJASが厳しく高品質を求めていることを、私自身、高く評価していました。
この高品質を求めるJASを面倒くさいと海外メーカーが嫌って、高品質を求めない国に優先的に輸出するという事態であるとすると、非常に残念なことです。
今こそ国産材だ、と思って、急遽、国産材を量産したいと思っても、製材するには時間を要します。
私自身、公共建築物木材利用等促進法に深く関与し、日本の森を大事にしていかなければならないことを訴えてきた立場からすると、今回、外国産の構造材に依存をしすぎてきた反省を踏まえ、今後は、リスク対策として国産材の使用比率を高める努力を工務店業界には強く訴えかけたいと思います。
合意書の書式例はこちら
合意書(米松製品・欧州材製品納品遅れ)【Word】
※これから請負契約を交わす場合はこちら。
匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書を手掛ける。一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士。一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント。
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