新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、稲葉元一朗さんの「戸建・性能向上リノベーション事業(競争戦略×事例研究)」ルームからの記事です。
稲葉 元一朗
19年間、コンサルティング会社にてリフォーム業界向けコンサルティングに従事。立教大学ビジネススクールにて、リフォーム業界の競争戦略を研究。2019年1月に独立。戸建リノベーションビジネスの研究及び、複数の中小工務店の社外ブレーンとして活動中。
コダリノ研究所の稲葉です。前号(「新築そっくりさん」)に続き、今号でも3C分析の中で競合に焦点を当てて、お伝えしたいと思います。今回は戸建リノベーションにおいて、旧家リフォームを展開する住友林業ホームテックを取り上げます。戸建リノベーション事業に参入する際に自社と顧客に対しては注力するものの、競合を見る視点は不足しがちですので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
(3C分析とは顧客、競合、自社という、事業展開にとって大切である3つの視点で分析をする手法です。顧客の視点には想定される顧客特性、ニーズや行動、市場規模等があります。一方、競合の視点とは、競合の強さ、特徴、戦略、差別化等を意味します。自社の視点とは、それらを自社に当てはめたものになります。顧客、競合、自社を分析することで、取るべき戦略や手法が見えてきます。)
全体構成としては、住友林業ホームテックの企業概要を伝えて、性能面にフォーカスした考察をしていきます。
住友林業ホームテックのリフォーム戦略とは?
まずは企業概要から見ていきましょう。
<企業概要>
・母体の住友林業は木の研究所を持ち、新築のほうで生活者が住友林業に決めた理由の1位が「木の質感」となっているとおり、住友林業ホームテックのほうでも、「木の温もり」「木質感」といった木に関するお客様の声が目立ちます。林業という社名のとおり、木のこだわりに対しては安定した評価があるようです。
・旧家リフォームを展開。100年の家倶楽部という一定の条件を満たした登録制の取り組みがあります。家族の想いを継承する、そして歴史的建造物として価値あるものを壊さず残していくというコンセプトです。「旧家」という表現を使っている点も印象深いです。実際、100年、120年という築年数で、費用としては3000万円、4000万円といった古民家の事例が150件以上HP上で公開されています。その施工事例の約1割が5000万円級となっています。そして旧家、古民家の年間の改修実績は約300件と記載されています。平均2500万円想定として、75億円が旧家・古民家改修の売上となり、古民家改修において全国トップクラスの実績です。
<マーケティング(過去のCM)の一例>
広告に関しては、子どもから大人になり、嫁いでいく過程の映像を見せながら、伝統工法の実家をリノベーションし、二世帯同居するというCMがあります。ダイナミックに梁を活かしたリノベーションが目を引きます。明確なターゲット設定、巧みなマーケティングだとつくづく感じました。他の広告を見ても、大手にありがちな最大公約数的なリフォーム・リノベーションではないことが理解できます。
コアターゲットがうかがえると同時に、全体を通じて、技術力に対する矜持を感じます。平均の工事単価が1200万、1300万と言われる新築そっくりさんに対して、旧家リフォームは3000万級、4000万級も珍しくなく、住み分けができている部分もありそうです。この工事単価という観点から新築そっくりさんは地域リフォーム会社と、住友林業ホームテックの旧家リフォームは地域工務店と同じポジショニングに存在する印象です。
信頼の証の一つと言える建築士の社員数は1000名以上在籍するという記載があります。一方、完成見学会は以外と少なく、カウントしたところ、月10件程度のようです。
<業績>
数字は、こちらの通りです。あくまでもリフォーム・リノベーションの数字です(カッコ内へ前年比)
・売上:702.3億円(▲0.9億)=業界5位
・施工件数:5万952件(+1243件)=平均は約140万円です。平均工事単価が低くなっているのはリピート受注が含まれているためです。
・拠点数:70店(▲4店)=1店舗当たり約10億円で新築そっくりさんとほぼ同水準です。
・社員数:2039人(+116人)
・営業:573人(▲43人)
・新規比率:49%
(出典:リフォーム産業新聞 2020年9月28日号)
社員数のわりに営業が少ない点も会社の姿勢がうかがえます。また、「営業成績が大きく給与に反映されるわけではない」という声もあり、営業会社的でない点も特徴です(他社の給与制度では、歩合給の25%が支給されるという例もある)。
新規比率は売上ベースです。大手ハウスメーカーの大半は新築オーナー比率が圧倒的に高く新規は1割という例も珍しくないのですが、住友林業ホームテックは約半数が新規ということで、新規客に対して積極的な動きをされていることも住友林業ホームテックの特徴の一つです。
エリアは沖縄、宮崎など6県を除いたほぼ全国展開です。
では気になる性能面です。
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