新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、吉岡孝樹さんの「『小なれど一流』を目指す社長への【選ばれる工務店への道】コラム」ルームからの記事です。
大学卒業後、アパレル企業を経て住まいに関わること30年。自ら住みたい家に暮らし、同じ価値観でお客様にも提供する仕事がしたくて2000年鹿児島に移住し“日本一の工務店”と名高い 株式会社シンケンに入社。その後、2002年自宅を新築、2010年著書『家づくりの玉手箱』発刊。本作は、氏の個人的営業トーク→シンケンHPのブログ→書籍化というプロセスで生まれたもので、全編にわたり新鮮な住まい手目線の写真と文体で表現され読者から絶大な支持を得ている。SNS時代にも通じる住宅コンセプトブックの金字塔とも言える一冊。2019年に株式会社家づくりの玉手箱を設立、『工務店の参謀』としての活動を開始。…
バブル時代の「高級分譲住宅」
ちょうど大阪の住宅・不動産会社に転職した頃は、分譲住宅の販売環境はまさにバブル状態でした。うっすらした記憶ではありますが、当時のことは驚きとともに覚えています。私鉄路線の支線終着駅がかなり山奥まで延びていまして、その駅周辺に人口3万人、総面積346万m2のニュータウン構想のもとに宅地が開発されていました。
子供の頃は大阪市内に住んでいたので、そこは遠足の際に自然を求めて遠出するところとして記憶されている地域でした。もともと山でしたから当然のことですが、そこそこの起伏・傾斜・勾配のある造成計画で、駅前にある営業所から歩いて分譲地現場に向かうと、はあはあ言ってたことを思い出します。6~8000万円台というような場所の割には高額に思える建売分譲住宅が立ち並んでいました。
今から思えばどういう受付ルールになっていたのかなと思いますが、売り出しの際にはアルバイトを雇って1人のお客様が同じ物件に複数申し込むというような ”抽選破り” とも言える裏技も横行していました。
若い人は「どこの国の話ですか??」と思われるかもしれませんが、その頃は抽選で当選し購入できたあかつきには翌年売却しても多額の利益が得られるような状況でしたから、そのような異常な活況に沸いていた訳です。
そういう事情もあって山奥の私鉄終着駅の高級分譲住宅街では、引き渡し後に当選者が入居してこない物件も多く見かけました。駅前のいちばんいい場所に、そのような「販売済空き家」みたいな家が点々としていたのです。ちょっとした住宅展示場のようでした。人気エリアの新築分譲住宅は、高利回りの投資商品としてもてはやされていたのです。
建てても建ててもすぐ売れるという環境で、土地は山ほどあり先輩社員は「今、全部売っちゃえばメチャクチャ儲かるのになあー」と口々に言っていましたが会社としては街の健全な発展のために、あえて供給戸数を限定しながら数十年かけて販売していくというスタンスでした。
↑バブル当時の高級分譲住宅の屋根は形も色も様々で空から見ても分かっちゃいます。
ピンとこない「高級住宅」
電気工学科を出て、それまでアパレル企業で商品企画の仕事をしていた私は住宅建築についてはまだ全くのシロウトでしたので、特にこの『高級住宅』を興味深々憧れの眼で見ていました。なにしろ、自分なんかでは到底組めない金額の住宅ローンを組んで人生の成功者といわれる人たちがこぞって買い求めるという住宅です。「坂の上の雲を見つけて登っていく」ような時代感覚再び。気持ちの高ぶりとともに高額商品に携われる自分までもが出世したような気分になったものでした。
しかし、率直な印象を言えば「これだけ出してこれ?これはいらんな」というもので、落ち着かないというか、どうしても住みたいと思えませんでした。当時、その理由をうまくは説明できなかったのですが、その違和感みたいなものがその後30年も追求するテーマになってしまった訳です。
その後の「高級住宅」
ふと、その団地内で中古が出てるかなとネットで検索してみました。なつかしいその団地の当時建っていた住宅が数軒ヒットしました。団地全体でも特に駅から遠い場所ほど安くなっていました。いくら供給を限定して少しずつ販売してきても、売られる時は順番通りではありません。多く売られる場所や買う人が少ない場所は安くなります。その両方にあてはまると、すごく安くなります。これが市場原理です。
駅に近いほど、新しいものほど、欲しい人が多いほど問い合わせも多くなり、早く高く売れますから物件が多く出まわるとなかなか一筋縄で売却は進みません。新築分譲時にはあれだけ行列が出来て高い倍率で抽選されていたのがうそのようです。当時の住宅販売価格は株価みたいなもので、将来の転売の期待値で形成されていたのです。
↑注文住宅っぽい大きな間取りです。おばあちゃんと同居のプランでしょうか。
↑駅前の一等地にある角地区画です。ここは高かったと思います。
中古住宅としてネットで出てくる画像やストリートビューで現在の外観を見ていると、一軒ずつ外観の個性を強調した家の形、外装材や色などは時が経てば無価値になっているようです。外構・造園も画一的に街並みを整えることを目的にルールが決めてあるので、それほど価値を生んでいるとは言えないようです。
土地の値上がり期待で買われていたのですから、必要以上に複雑なデザインや外構・造園も高価格感を増強する”デコレーション”だったと言えます。そして値上がり期待が持てなくなった今、価格は実勢に近づいていくことになります。実需に対する価値を持たない建物のデザインも外構・造園も、もはや上物(建物)がプラスの評価を得ることはまずありません。悲しい現実です。
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