新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、Livearth(リヴアース)代表・大橋利紀さんの「スモールエクセレント工務店 地域工務店経営における「次世代経営戦略」~コロナ期とその後の世界を生き抜くために~」ルームからの記事です。
岐阜・愛知・三重を商圏に家づくりを手掛ける工務店、Livearth(リヴアース)の代表。2014年にドイツ・スイスにてエコロジー建築を学び、日本版のエコロジー住宅の模索を決意。2016年・自立循環型住宅研究会アワードにて最優秀賞受賞。2018年・新ブランドLivearth(リヴアース)立ち上げ。2019年・東京大学開催「パッシブ委員会シンポジウム」登壇、本質改善型リフォーム独立ブランド「リヴ・リノ」設立。2020年・新モデルハウスを着工。地域の風土を生かした普遍的なデザインと、「心地よさ」を見える化する高性能を兼ね備えた家づくりを理念としている。
「省エネ基準適合義務化」再始動の兆し
Livearthリヴアースの大橋利紀です。環境問題をはじめとする6つの分野で地球の限界(プラネタリーバウンダリー)が、2030年で“未来への分岐点”になるといわれています。その分岐点まで残り10年となる2021年は、改めて脱炭素(グリーンリカバリー)に向けて世界が動き始める年でもあります。
このような中、2月24日に開催された「第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(動画はこちら→https://www.youtube.com/watch?v=3tsyOZo0upk)では、「省エネ基準適合義務化」の見送りにより、停滞していた日本の住宅の省エネ化が改めて動き始める契機となる手応えがあったと感じる方は多かったのではないでしょうか? しかし、「省エネ基準適合義務化」は、通過点であり目的ではありません。目的は、地球が後戻り出来なくなる臨界点を超える前に脱炭素社会を実現し、持続可能な社会をいち早く実現することです。
時代と共に進化する「エコハウス」最後のバージョンアップへ
これまでのエコハウスの変化と成長を端的にまとめて見ます。
(※この分類分けは、あくまで個人的な意見であり、特定の団体・個人を批判するものではありません)
【エコハウス 1.0】
理念は素晴らしく魅力的な空間を実現していますが、本来の目的である冬暖かく、夏涼しい、省エネな住宅とはなっていないエコハウスです。原因としては、発展途中の科学的な知見により結果が伴わない部分も多い。また、「住まいは夏を旨とする家」となる傾向があります。「情緒系エコハウス」。
【エコハウス 2.0】
エコハウス1.0の失敗を受け、科学的な知見を重視し、数値的な目標と測定によりエコハウスを大きく発展させました。しかし、壁や屋根、窓が厚くなり、建物の意匠性が損なわれるなどの傾向もあります。前提条件の違いにより断熱流派による派閥化と断定的な目標設定が問題化しました。「理詰め系エコハウス」。
【エコハウス 3.0】
「エコハウス1.0の理念」と「エコハウス2.0の科学的な知見」の両方をバランス良く扱い「性能と意匠の両立」を目指すものです。シミュレーション技術の発展と共に住まい手の「結果の共有化」も進み、住まう人により豊かな建築空間と温熱環境の両方を提供しています。ただし、これらの建物は特殊な個別解に留まり「特別な一部の人の特別な家」となっていることも事実。一般的な普通の家への普及には至っていない状況です。
【エコハウス 4.0】
エコハウス3.0の技術をベースに、一般的解としてより利用しやすい形として普及を目指すものです。すべての人が健康快適省エネな家に住む権利があり、その実現を目指すものです。究極の目標は、すべての家がエコハウスとなり、エコハウスという言葉は消滅することです。
エコハウスは差別化の道具ではなくなる
エコハウス4.0が目指すものは、「すべての人が健康快適省エネな家に住む」ということであり、脱炭素社会の実現にもなくてはならないことです。
エコハウス4.0の未来が実現する過程で、まずエコハウスを建てることの出来ない住宅供給者は退場することになります。また、現在エコハウスを建てることで地域でのアドバンテージを持っている住宅供給者(工務店・設計事務所・ビルダー)は、先行者利益を失っていきます。エコハウスが普及期に入れば、高性能建材が安くなり、高性能建材しか買えなくなり、エコハウスは特別なものでなく普通に建てることができるものになっているからです。つまり、エコハウスは差別化の道具ではなくなるということです。
「会社経営=社会的問題解決」であると考えるなら、一つの問題が次のステップへ進めば、会社経営も次のステップへ進むのは当然です。変化しないと思う方が間違いで、社会がよい方へ前進することで、自社アドバンテージがなくなるということを懸念するよりも、その他の問題解決へ進んでいくことの方が賢明であると考えます。未来志向に立った時、エコハウスの普及は差別化の道具とならない世界が正であると考えます。
残された最後の剣「パッシブデザイン」
エコハウスの要素技術が一般化され普通に利用されるようになっていく中で、一般化しにくい要素技術があります。それは「パッシブデザイン」という設計手法です。その定義は多義ですが、私なりの理解では、「自然の力を最大限活用し、設備に頼りすぎずに、快適・省エネ・健康を実現するための設計手法」となります。
この設計手法は、断熱、日射遮蔽、通風、昼光利用、日射熱利用暖房などの、時には相反する効果をもたらす要素のバランスを整え、最適化するものです。ここには、個別解を出すための余地がありますので、絶対にこのようにしないといけないという画一的なものにはなりません。
パッシブデザインを採用し、丁寧な設計を行うことで住まいはより価値あるものになります。同じコストでもより高い住環境を実現することができます。つまり、土地と住まい手の条件によって設計者が自由に表現する余地が残っているということです。
住まいづくりの本質は変わらない
この部分は、元来先人の方達から受け継いできた「住まいの設計の基本」であることに気づきます。エコハウス4.0が実現する世界は、断熱・気密・省エネ設備などが一般化し、底上げされた世界であり、「住まいの本質的な部分」に着目して設計し家づくりしていくことの出来る状況とも言えます。逆に言えば「住まいの本質的な部分」が伴っていないと、社会から必要とされなくなる、とも言えます。
社会は確実にグリーンリカバリーに向かって進んでいきます。2030年の分岐点を考えるとその変化はより加速化していく必要があります。社会から必要とされる会社であり続けるためには変化に対応し続け、価値を創造し続ける以外の道は残されていません。私も一経営者として、不確実な社会で価値ある会社として存在し続けるために気持ちを新たに邁進してまいります。
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