新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、吉岡孝樹さんの「『小なれど一流』を目指す社長への【選ばれる工務店への道】コラム」ルームからの記事です。
大学卒業後、アパレル企業を経て住まいに関わること30年。自ら住みたい家に暮らし、同じ価値観でお客様にも提供する仕事がしたくて2000年鹿児島に移住し“日本一の工務店”と名高い 株式会社シンケンに入社。その後、2002年自宅を新築、2010年著書『家づくりの玉手箱』発刊。本作は、氏の個人的営業トーク→シンケンHPのブログ→書籍化というプロセスで生まれたもので、全編にわたり新鮮な住まい手目線の写真と文体で表現され読者から絶大な支持を得ている。SNS時代にも通じる住宅コンセプトブックの金字塔とも言える一冊。2019年に株式会社家づくりの玉手箱を設立、『工務店の参謀』としての活動を開始。…
ボンクラな現調
もう30年近くも前の話ですが、大阪で住宅営業をしていた頃は「こんな家欲しくないなあ」「なんで新築建てるのにこんなに魅力がないのやろう」などと考えながらお客様にはせっせと勧めていたのですが、『土地をみたてる』という概念を知ってから多くのことが腹落ちし、長年たまっていた疑念が解けることになりました。
その大阪での営業マン時代に『現調』と称し注文住宅の建設用地に赴くことが毎週のようにありました。
(関西圏はあまり県境という感覚はなく、兵庫県の自宅から大阪府の事務所に寄って奈良県の現場に出向くと行ったことも普通にありました。)
現調をさせていただくということは営業マンとしてのお客様からの信頼の証、意気揚々と現場に向かいます。そもそも、信用できない営業マンには土地の所在は教えてくれません。教えてもらえるというだけでも光栄なことです。私の場合は、所属している会社の信用度にかなり助けられていました。当時は会社の社会的信用度が大きなウェイトを持っていた時代だったと思います。競合する工務店さんは入り口のところから、そういった信用度の面でも大変ご苦労をされていました。
それにもかかわらず、現地での作業は敷地境界線と道路、あとは隣接地の高低差を見る程度で20~30分で終え、相方の営業マンと喫茶店に行ったりゴルフの打ちっぱなしに寄ったりしている時間のほうがよっぽど長かったものです。笑
今から思えばお粗末な話ですが、当時は主にプラン提案用の図面を描くための調査が主でした。また、プランを描くのも各営業マンでしたから、建蔽率、容積率、斜線などがチェックできればOKみたいな感覚でした。当時は、建蔽率、容積率最大のプラン提案がスタンダードでしたので、それで十分だと思っていたのです。
そういう仕事のやりかたに、何の疑いも持ち合わせていなかったのです。
何しろ10社競合でのスタートはあたりまえで、10回現調して1~2軒契約できればいいほうでしたから。現調数に対して3割契約できる営業マンは、プロ野球選手並みににトップレベルと言われていました。
それなりの筋からのご紹介など、縁故のお客様の場合は奥様のテイストに合わせて外部の建築家の方々にプランをお願いしていました。そういった案件は例外的に競合は無く確実に設計料を頂くことができたからです。その場合は現調や測量も先生にまる投げ、おまかせで、さらに楽をしていても全然OKでした。当時の営業マンが会社から求められていたスキルは、お客様に選んでもらえる最適なチーム体制を組める『動員力』みたいなものであったように思います。要するに私は競合対策要員であった訳です。
という背景もあって現調に出掛ける際はほとんどの場合、二度とその場所を訪れることはないという感覚がありました。(訪れるのはその日限りかもしれない場所であったので、喫茶店やゴルフ練習場の開拓にも余念がなかったのかもしれません💦)
地元工務店との競合
当時、地元の工務店さんと競合することもありました。お客様の知り合いであったりするケースが多く価格的にも強敵なので、最初に潰しておくべき相手でした。しかし、深いお付き合いでない場合はその知人であるという工務店さんの油断もあってか、彼らは信頼感を獲得する術とスピードで営業専門部隊の私たちより大きく出遅れてしまう傾向がありました。また、工務店さんは決まったデザインや仕様がなく何でもできてしまうので「どういうものが出来上がるのか?」という点でお客様にわかりにくいという事が決定的に不利に働く結果になっていました。
劣勢を強いられた上に、最終的に私たちの提案内容をお客様から見せてもらって「そのプランでもっと低価格で建てます」と勝負してくるケースはありましたが、多くの場合は信頼感を獲得できていないところに低価格を提示しても私たちに勝てることはありませんでした。その頃、偶然工務店さんの現調風景を見た事があります。工務店さんたちの現地調査は私たちよりずっと精度の高い、実務的かつきめ細かなものだったと記憶しています。お客様へのアプローチで苦戦されてはいましたが、少なくても私たちよりずっと建てる前提での現地調査をされていたものと思います。
その時代からすると、地元の工務店は販売上の劣勢を克服するための多くの『武器』を獲得したものだと思います。
何のための現調か
鹿児島に移ってからこの現調たるものは一変しました。もう36歳にもなっていました。
現場で収集する情報が敷地境界線の内側はもとより、その外側のかなり広範囲にわたるのです。 地方の広い土地のときには朝から初めて、レベルが読めなくなる日没まで敷地まわりをうろうろしていることもあって、夏場はもうどこがかゆいのか分からないぐらい蚊に刺されてあちこちボコボコになっていました。
測量作業をしていて「何で?ここまでしなくても…」と最初は思ったのですが、
●どうしてその情報が必要なのか?
●その情報が何の役に立つのか?
●その情報があることで建物の在り方にどう影響するのか?
●そうして完成した住まいはどのような居心地になるのか?
その後、理解するまでにかなりの時間を要することになりました。
最近、工務店の方々の中でもプラン提案をさせて頂く敷地の測量や現調を外注されているのをよく見聞きします。敷地の現調や測量はまさに『土地みたて』を思考する行為です。元ボンクラ営業マンの私が言うのも何ですが、まだ経験の浅い新人諸君が測量や現調などの『土地みたて』機会を最初から外注していて、いつその本質を覚えるのだろう?と思ってしまいます。日本の工務店と家づくりの将来を案じてしまうのです。
日本の工務店はこの20年で多くの『武器』を獲得した反面、手放してしまった『資産』もあるのではないかと感じています。世の中から『顔』がよく見えるようになったのはいいのですが、同じ『面構え』になってしまったようにも見えます。
ところで皆さんのところでは現調、どうされていますか?
※この『土地みたて』のコラムシリーズでは、理想の住まいづくりの源となる『土地みたて』について、これまでの体験談を通じてお伝えしたいと思います。
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