新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、辻󠄀裕介さんの「これからの10年の基盤となる「自社スタイル確立」のすすめ」ルームからの記事です。
名古屋市の工務店で20数年間、主に注文住宅事業に幅広く関わり、数多くの住宅建築を手掛ける。その後、パッシブソーラーシステムを供給する本部へ移籍し、同時期にパッシブデザイン協議会およびForward to 1985 energy life の立ち上げ・運営に携わる。現在は今までのキャリアを活かし、地域工務店を中心とした住宅事業全般のコンサルティングを行っている。Forward to 1985 energy life 副代表理事。
こんにちは。
ひと・住まい研究所の辻󠄀です。
連載8回目となる今回は、「つくるプロセス」において特に重要となる「パッシブデザイン」と「セールスエンジニア」のことについてまとめてみたいと思います。これらは自社の「つくるプロセス」を深め、他社との違いを生み出す、とても重要な要素となります。
ではまず「パッシブデザイン」から。ちなみに私にとって「パッシブデザイン」は、工務店在籍時に家づくりの中心的な要素として長年取組んできたものです。また現在運営に携わっている(一社)Forward to 1985 energy life(通称1985)でも、その普及促進を積極的に図っているとても関係深いもので、私の専門分野の1つでもあります。
「パッシブデザイン」のこと
「パッシブデザイン」とは、建物のあり方やそのものをしっかりと考え、建物の周りにある太陽や風といった自然エネルギーをうまく活用・調節して、高い質の室内環境を実現させながら、同時に省エネルギーになることを目指す建築設計の考え方と実際的手法です。
具体的には下記の5つの項目をしっかり意識して建物を設計し、「快適かつ省エネ」な住まいの実現を目指すものです。
・「断熱」:冬のパッシブ(暖かさ)の基本
・「日射熱利用暖房」:冬のパッシブ(暖かさ)
・「日射遮蔽」:夏のパッシブ(涼しさ)の基本
・「自然風利用」:夏のパッシブ(涼しさ)
・「昼光利用」:通年のパッシブ(明るさ)
一般の顧客向けに表現するとしたら、「冬暖かく、夏涼しく、明るく、風通しが良い」住宅を、最小限のエネルギーで実現する設計手法といったところでしょうか。
そしてパッシブデザインが実現しようとするこれらのものは「暮らし」を支える本質的な要素であると言えます。よってパッシブデザインは「いい家」の必要条件であり、ベースになり得るものだと思っています。
「地域工務店」と相性がいい
パッシブデザインは、地域工務店との相性がとても良いです。下に地域工務店の特性との関係を図にしてみました。
多くの地域工務店は上図のような特性とそのメリットを持ち得ています。パッシブデザインは地域の気候特性を考慮しながら、太陽や風といった自然エネルギーを時には積極的に取込み、またある時は遮ったりして、建物そのものが活用・調節できるように工夫を凝らします。
よって地域や立地条件に応じて柔軟に対応できることが前提となります。多くの地域工務店が持っているその特性は、まさにパッシブデザインに取組むための条件そのものであり、特別な備えを必要としません。ゆえに相性が良いと言えるでしょう。
逆に大手住宅メーカーなどのように、建物の設計に一定の制約がある会社には不向きです。なので対大手住宅メーカーとの差別化要素には、パッシブデザインはうってつけだと思います。
なおパッシブデザインに取組もうとした時に今までとの違いがあるとしたら、建物の設計において「自然エネルギー」の存在をとても強く意識するということです。シンプルなことですが、そのことによって設計の中身が大きく変わっていきます。
ポイントは「外を知り内をつくる」こと
設計において、自然エネルギー(太陽や風)を最大限に活用または調節するためには、まずは付き合う相手(太陽や風)のことをちゃんと知っておく必要があります。具体的に言えば、その地域の日射量や卓越風向(よく吹く風向き)、敷地内の日照状況や風の通り道などを把握しておくということです。
つまり、変えることができない外側の環境をちゃんと把握し、それらに合せて内側(建物も含めた敷地全体)のカタチを適応させていくことが、パッシブデザインの基本的なスタンスというわけです。この意識と手順は先にも述べたように、設計の「つくるプロセス」に大きく影響を与えます。
例えば冬の日射を建物内にどう取込むかは、とても大切なポイントとなります。よって、まずは近隣の状況を把握した上で敷地全体の区画分け(ゾーニング)から考えていくことになるため、上のような日照シミュレーションを行う必要が出てきます。建物の間取りから考えて、それを敷地に当てはめるという手順とは真逆になるわけです。
また1件1件外側の環境が異なるため、熱の収支のバランスを図るためにも、外皮性能計算や温熱シミュレーションなどの効果を予測するための確認作業も必要になります。
パッシブデザインは家づくりの手法の1つに過ぎませんが、こうした作業の必然性によって「つくるプロセス」に深みと独自性を与えることになり、結果的に顧客への訴求力を高めることになります。ここまで大きく影響を与える要素技術は他に類を見ないでしょう。
なおパッシブデザインの詳細を知りたい場合は、1985のイベントへ参加されるか、直接ご相談してもらえればと思います。実際、パッシブデザインの設計手法を身に付けたいとの要望から、工務店さんへのサポートがスタートすることも多々あります。
「セールスエンジニア」のこと
次に「セールスエンジニア」についてです。
ここで言う「セールスエンジニア」とは、家づくりにおける「技術的な知識」と、それを顧客に上手に説明、提案できる「営業的なスキル」を併せ持った人材のことです。技術的な知識の中でも特に設計に関することが必要とされるので、「設計営業」という役割を担う人のことだと言えるでしょう。
このポジションの人はバランス感覚に優れているので、多くの場合は自社の「つくるプロセス」を構築し動かしていくキーマンになると思います。
なお小規模な工務店の場合では、社長自らがこの役割を担っていることが多々あると思いますが、安定した組織をつくるためには、このポジションのスタッフをいかに意識的に育成できるかが極めて重要です。そしてそれは多くの工務店の課題でもあると思います。また工務店の次世代への継承を考えた場合においても、その存在の価値は大きいでしょう。
ぜひ自社の「つくるプロセス」を構築する際に、「セールスエンジニア」の役割とポジションを明確にして、そこに組込むことで育成のきっかけにしてもらいたいと思います。
セールスエンジニアが先のパッシブデザインの技術を身に付けたなら、まさに「鬼に金棒」となります。
次回からは「つくるプロセス=生産工程」の事例を挙げながら、具体的な中身をお伝えしていきます。
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