コミュニティーに作用する住まいをつくるのが、
これから業界に求められるスキル
野沢:ちょうどいい距離を居住者が、みんなで成約する。けれども決して濃密すぎることはないという人間関係を、上手に構築する。それは建築家のやることとか、まちをつくる人がやることではないんですけど、でも幾分はそのためのスパイスになるように建築やまちをつくることはできる。言い換えると、まちをつくる人が作用することは必要なんじゃないかな。何度も言うけど、「昨日と同じまちじゃないまち」にちょっとだけたしておくっていうか、工夫するということは、考えていいと僕は今回思った。
三浦:そうですね。本当に今会社とかでもコミュニティーって結構崩壊していて、特にコロナもあって、だから人は何か居心地の良いコミュニティーに飢えている感じしますね。
それが自分の住んでいる周りにあればベターで、バラバラだけど、一緒みたいな程よい距離感をつくると思う。あと助け合える部分もあったりとか、我慢し合う必要があったりとか、だからそういう居心地の良いコミュニティーをどうデザインするかっていうのと、それを建築的にどう配置しながら実現していくのかって結構大事だし、このスキルってこれから一層望まれる気がしますね。居心地の良いコミュニティーをどうつくるかっていう。
野沢:篠原聡子さんって、今度は日本女子大学の学長になった人がグッドデザイン賞の審査で来てくれたんですよ。園路だけでなく住宅も見たいということで、2階リビングの家に行ったんです。その時に「面白いね」と言ってくれたのは、僕らは全然そういう視点がなかったんですけど、1階にリビングの家と2階リビングの家があるんですよ。そうすると生活時間が、1階リビングと2階リビングで昼と夜ズレますよね。電気が付いてる時間がずれるってことなんですが、その関係が面白いって言ってくれたんです。
住宅地をつくる時の工夫のしどころって、結構そんなところにまでにあるって、それは僕らが意図してやったとは今思えないですが、結果として、そういうところ着目してくれた人がいたことによって、住宅をつくること、住宅地をつくることには、たくさんのファクターがあって、できるならそれを可能な限りテーマにすべきだ、ということに改めて気づいたんです。それによって、ちょっとした豊かさや違いというのがつくれるのかもしれない。
迎川:そういうふうな話で、来年出版される本についてもちょっと予告編じゃないけど、野沢さん触れたほうがいいかも。
野沢:「note」で、序文のところが公開されてて、そこを読んだだけでも頭が痛くなっちゃうっていうお話が、三浦さんからあったよね。多分三浦さん、そういう本が売れるだろうかっていう心配してるんですよ。全部読んでいただくと、要は今こういう問題がさきほどまでの話のように、僕らの世代が悪いんだっていうことを含めてあって、今の社会をこれから組み直さなきゃいけないような気がしてて、だけど組み直すといってもガラガラって組み直せないから、漢方薬のようにっていうか、鍼灸のように少しずつ直して、少しずつよりマシなものにしていくっていう今日みたいなお話を、三浦さんが指摘していたようにより現実的に書いてある感じだね。
それをやることに味方として現れてくれる方々が集まっていそうなところを探さなきゃいけないし、問題を共有しながら、みんなでやっていくことが僕たちの専門家としての仕事だよっていうつもりなんで、ぜひ出版につながって、それを話題にしたい。
迎川:これは読んでもらわなきゃ話にならないんだよね 。
野沢:最後のところは、なんで府中はこんなに良いんだってなってるんで、つまり建築家って暗い話だけしているわけにはいかない商売なんで、ただ府中みたいなことを社会に対してサービスしていくっていうのは、うまくいったりいかなかったりで、途中で理不尽な抵抗っていうのがいっぱいあるわけですよ。それは習慣としてのものだったり、こういうルールがあるってことだったり、理不尽だなと、合理的じゃないなと思うことってあるんで。
そういうことについてもみんなで少し変えましょうよ、そういう動きが少しずつ起きてくれたら、社会そのものはみんなが負担してつくっているものなんだから、少しマシな社会にしていくということは、僕らは市民としてのスタンスとしてあっていい。年の割には発想が青臭いんですよ(笑)。
迎川:最後に、三浦さんも例えば伊礼さんの「設計作法」みたいな本を出せば、ある程度数は読めると思うんですよ、僕から見ればね。でも今回のこの本はとてもチャレンジャーだと思うんですね。なぜ出版しようという気になったのか、その辺ちょっと伺いたいね。
三浦:僕から言えることの1つは、ドミノも載っているのでみなさんぜひ買ってください、ということなんですけど(笑)。
一同:(笑)。
三浦:僕がその質問に真面目に答えると、これ僕は経営者だから出版できる。なぜかというと利益を度外視してでも、出そうと思えるのは経営者だけで、もちろん利益出すつもりでいますけど、僕は出したいから出すんです。結局経営ってそういうもの。自分がいいなと思ったものを出せないんだったら、社長なんかやっててもしょうがないんで、サラリーマンには出せない本だということで、他の出版社に全部NGになったやつって、多分うちに来ている。
もう1個はさっきの話の続きなんですけど、結局、どうにもならないところまで日本の住宅事業が来てるんですけど、これから住宅業界で働く人はその中で働かなきゃいけないわけじゃないですか。そこに何の未来もないともうお先真っ暗なので、こういう状況にはなっちゃったけど、こういうふうにやればいいんじゃないかっていうのは提示したい。
それはその大先輩であり当事者で言った野沢さんが語ってもらったっていうのも、1つのやり方だと思うし、そこからしか話せない話、語れない視座があるんだと思っているんですね。若い世代がそれを言うってだけじゃなくて、野沢さん世代が置き土産のように言っていただくことに価値がある。
要するにこれからの住宅について、自分たちは当事者としてどうするんだということを、この本を読んで若い人が考えてもらえばいい。そのために出すっていう、それだけです。
迎川:そうですね。ぜひ「あ、こういう本出して良かった」って思えるように、皆さんにまずは読んでもらって、読んだら多くの人に伝えてもらう。そのことでまた読んでみたいと思わせる。これは大事ですよね。
野沢:紙のメディア自身がすごくそういう意味では、変革期が来ちゃってるから。そこがまた難しいでしょうね。でもよろしくお願いします。
三浦:はい、よろしくお願いします。
迎川:ありがとうございました。
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