定期借地権利用は悪くない
土地を所有するのがいつから常識に?
迎川:僕がもう少し考えたいのは、こういう分譲の在り方のハードル下げる方法としての定期借地権利用っていうのが、不動産屋さんはダメなんですよ。土地の売買がないと利益がガクンと減っちゃうから。不動産屋さんにとっては、それはもうタブーなんです。
新しいコミュニティーのある住宅地をつくりたいと思った時に、定期借地っていうのは、すごく合理性があるんだけどね。どっちみち土地は地主さんのものだから、っていう意識になると、かなり損得っていう考えから引き離されるんですよね。
野沢:要は何らかの意味でのコモンっていうか、共有っていう考えだよね。例えば公共が持っているとか、個人の地主でもいいんだけど、別の人が持っている土地であることを理解したうえで、コミュニティーに価値を感じて住むっていう人もいれば、当たり前だけど、土地費用の負担を自分のものにしないことを納得できる人も存在するんだよね。
迎川:僕が学生の頃ね、ハワードの田園都市を勉強しました。
野沢:あの頃は「都市計画」の歴史と必ず学んだね。
迎川:あれなんかを、少し研究もしたんですけど、明日の田園都市には、まさしく大地主さんがいるんですよ。定借なんですよね。
野沢:僕もそれで話させていただければ、住宅遺産トラストで、古い住宅をどうしようかって話がありますよね。戦前の和風住宅などが、たとえば東急池上線の沿線とかにいっぱいあるんですけど、でかいのね。でもみんな借地なんですよ。地主は別なの。戦前って住宅地を自分の土地として、所有するなんてことを常識としてないんだよね。
迎川:ないですね。
野沢:だから借地であることは普通だったんですよね。これから時代はずっと流れ今日に至るんだけど、保全がすごく難しい。地主の問題もあるし、建物所有者の問題もある。ここにある質の良い住宅をどうやったら継承できるかということがとても難しい。
話が逸れたけど、今の社会が常識としている、さきほど三浦さんが言われた「住宅地を経済の道具にしたんだ」っていうことを含めて、今の常識は実はそんなに長い歴史のある常識じゃなくて、戦後の経済成長の時に都合よく始まった習慣でしかない。僕らどっぷりその中にいますから、普通のことと思ってますけど。
実は、定期借地でいいんじゃないとか、さっき三浦さんが言われたことで、住宅ローンで苦労したお父さんの子供たちの世代には、次の住まい方、次の所有の仕方を考え提案してくれている人が、必要なはずだと思うんですよ。
ロとして、定借でこういうことができましたよとか、あるいは地役権を使うと、昨日と同じでない少し違うコミュニティーをつくっていけますよっていう事例を示すのが私達の仕事ではないかと思うんです。
問題はユーザーのマッチングだけ
解決はYouTubeか
三浦:そこは同意です。ただあえて、議論を盛り上げるために言うと、やっぱり定借にはダメな部分もあると思って。
さっき僕も「使用価値」という話を少ししたんですが、基本的に土地って、本当は使用価値だけでいいんですね。それを「所有価値」とか「経済価値」に置き換えたので、今日ずっとされている議論の状況になった。
定借って、それをもうもう一度「使用価値」に戻しましょうっていう話なんですよね。その方が上手くいくんだけど、単純にビジネスとして見ると、迎川さんが指摘したように不動産屋としては所有価値として売った方が売りやすいし、実は買う側も自分の資産になるので、その方が買いやすいという側面もある。
定借という形で使用価値だけを買うという、日本社会はそこに戻れるかっていうのはね。戦前の賃貸でいいやっていうふうには絶対戻らないです。なんで戻らないかっていったら、やっぱり、そういうふうにしちゃった皆さんが悪いっていうのがあるんだけど。
一同:(笑)。
野沢:どうしてもそこに向いてしまうね。
三浦:そもそも住宅とかまちって、個人資産なのか、それとも、ある部分は社会共有の資産なのかみたいな議論が、日本ではずっとなくて。結局まちなみの問題はそこに帰結するし、それから勝手気ままなバブホテルってものをつくるみたいな話もそこに帰結するし、コモンってそういうことじゃないですか。
共有の財産として自分の家も、それからまちなみも考えられるかどうかだけなんだけど、その価値観の転換をできる人が府中に集まって、多分そこには可能性あると思うんですよ。
府中のケースみたいなので、ちょっと話が一気に飛躍するんですけども、やっぱりYouTubeだと思っていて。どういうことかというと、見たことがないものを合わせる身としては YouTubeみたいなもので、その中の暮らしを、ドローンとかで上から映すのもそうだし、どんどん見せることでその数少ない価値観の転換をした人と、理想のまちをつくりたい工務店がマッチングできるはずです。それは今、YouTubeみたいなものを上手く使えば僕はできると思う。
迎川:野沢さん、YouTuberになってくださいよ(笑)。
野沢:僕はもう後期高齢者なんだもん。
迎川:ジジイYouTuberでもいいじゃない。
三浦:僕らと一緒に今度準備させてもらっている本とかも、僕の意図はそういう意図なんですよ。YouTuberのように、できるだけありのままを見せる。だから若い人のほうが響く部分があって、逆にベテランの野沢さんの書いてくださった序文だけでも耳が痛いと思う(笑)。
野沢:そうだね、耳が痛いんですよね。もう自分で書いていても耳が痛いですけど、だけど僕が言ってるのは、耳が痛いところから考えてもいいんじゃないのというところなんだけど。
だからって責任取ることになっているわけじゃないけど(笑)。まあ、考えてみようかなっていうことなんです。耳が痛いだろうなと思いますよ。
三浦:府中もそうだし、さっきの工務店が不動産をやるとかまちをつくるっていう話もそうなんですけど、規模さえ追わなければユーザーを集めやすくなっている。だからスモールで良ければ、例えば府中も100棟だったらしんどかったと思うんで、もしかしたらもっとスケールダウンしてやる方法もあるのかもしれない。
あとは工務店の皆さんが理想のまちをつくるぞと決めて、その価値観に共鳴してくれる人がYouTubeでも何でも、マッチングだけだと思う。あとはその層をどれだけボトムダウンして広げていくかを目指すだけ。それこそ先生にユーチューバーになってもらうとか、あの手この手でやり方があると思います。
スパイスぐらいの理想を家と家の間に加えたい
野沢:ソーラータウン府中での理想って、僕らにとっては、すごいささやかな理想だったつもりなんですよね。とんでもない遠い理想っていうのは、現実化しないから。でもささやかでもやってみたら、あんなにいいものになったということに注目したい。
それから本音を言えば、公共の関与をぜひ引き出していきたい。府中は東京都も土地を提供するというか売却するかたちで関与していて、その後もフォローしてくれて家の性能を確認したりしてくれている。
三浦さんがどう思われるかというのはあるんですけど、小さな町が生き残るために、地域が過疎になって減っていくのに対抗して、Uターン、Jターン、Iターンしてくださる新しい居住者のために住宅をつくったりしますよね。そういう自治体となんらか協力して、少しだけ理想をちょっと、スパイスぐらいの感じの理想を加えて、しかもそれを現実的なコストでちゃんとつくっていくことができるとすると、それがYouTubeで拡散するとか、みんなに知ってもらう手段がほかにもたくさんあるかもしれないね。
場合によっては、クラウドファンディングとか、事業そのものの応援団を募るとか、ふるさと納税の枠組みに加えるとか。おまけで理想がちょっとそこに加えられる、それでできたら行政とかと接続できている、そうなるといいのかなあ。
迎川:あっ、そういう意味でいうとね、野沢さんは大学で教えてもいて、ちょっと聞いてみたいんですけど。今建築教育の中で、僕らが学生の頃って、デザインサーベイじゃないですけど、建築を調査する中で、人たちの暮らしに向きあう調査もしていたよね。
野沢:ブームだったね。
迎川:ちょうど僕が学生の頃に、(建築家の)篠原一男さんが軽井沢の交差点のところで、2つの家が向き合う住宅っていうのを設計したんですよ。あれがすごく僕らにとってセンセーショナルだったし、その時ちょうど坂本一成さん(建築家、篠原一男に師事)が学生用のワンルームマンションを設計していた。中庭を挟んで向き合う住居でした。その時坂本先生から常に言われたのは、家と家の間を考えなきゃダメだよ。これから住宅は社会性が重要なんだから、家と家の間をきちんとデザインできないと、それは建築にならないんだと。
そんなことを盛んに言われて僕は学生時代を過ごしたんで、イギリスのそういう田園都市を見てみたり、伊礼さんと永田さんと相羽建設の「ソーラータウン久米川」をやった時も、やっぱり家と家の間デザイン大事だよと、そういうふうにお互い言い合ったものです。
ところが最近ちょっと見てるとね、本当にオブジェみたいな家がある。
野沢:昔から、建築家がオブジェみたいな家をつくるのはひとつの役割であることはある。だけど、そうじゃないことに興味を持つ建築家が増えていることも間違いない。住宅はつくるけど下階は皆に開放する食堂つくっちゃおうとか、あるいは普通の木賃アパートのリノベーションで、コモンを一部持つようにしているとか、住宅なんだけど、ある部屋は小さな図書室として町に開いているとか。若い人たちがやっている建築にそういうのはものすごく多いから、オブジェで建築をつくるっていう人がいることは多分永遠にいると思うけど、そうじゃない若い建築家がすごく増えていることは間違いない。
迎川:楽しみですね。
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