新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、松岡浩正さんの「“持続性時代”のエコハウス」ルームからの記事です。
ジャーマンハウス、ECO HOUSE株式会社代表取締役。住宅会社のネットワーク「環境建築人」代表。高知県出身。情報処理技術を学び、住宅会社に入社。独立後は注文住宅の建築を手がけるとともに、ドイツ基準の高性能住宅の開発に取り組む。その過程で、木製繊維断熱材「ECOボード」をはじめとするドイツ建材に着目。(1)長持ちする住宅性能の確保、(2)省エネで安全に住めること、(3)未来の環境に負荷を残さない――を基本コンセプトとしている。著書も多数。
これまでは化学の家
これからは木学の家
木に学び 木の家と暮らす
ジャーマンハウスの松岡浩正と申します。
埼玉県川口市にて住まいづくりに取り組むとともに、環境建築人という理念を同じくする工務店グループも結成して活動しています。
さて2020年、民法改正や省エネ法の改正により、住宅業界は、より慎重な家づくりが要求されることとなりました。民法大改正では、瑕疵という言葉から契約内容不適合へと解釈が変わり、重大な問題では、事実上20年の保証が要求されるようになりました。
また、省エネ法の改正では、日本では初めて断熱性能が建築基準法に制定され、まずは2000m2以上の建物から、断熱基準が義務化されました。先進国ではただ一国、建築基準法に断熱基準がなかった日本ですが、やっと恥ずかしい現実からの脱却が始まったといえます。
300m2以下の住宅への断熱義務化はこれからの実施となりますが、いよいよ日本でも、高い断熱性能が要求される高断熱住宅が全棟に義務化されることになります。
このことにより、すべての新築住宅が省エネ性を備えた住まいとなり、世界の省エネルギー政策に、日本の家づくりも参加できることとなるでしょう。
したがって、今後日本の家づくりでは、高断熱高気密住宅は当たり前の性能となります。
そして考えなければならない重要課題は、「断熱性能を担保する持続性」へと焦点を移さなくてはなりません。
ドイツではすでに持続性の時代へ
これまで私は、住宅の断熱性では数歩先を行く欧州を何度も視察で訪れています。
ドイツでは、住まいは100年長持ちしています。その理由のひとつとして、住まいの性能がメンテナンスされながら持続しているということ(「性能のメンテナンスしやすさ」もポイントです)。それによって資産価値も担保され、長持ちするという循環となっています。
現在日本の家づくりにおいても、重要な断熱性能の指標であるZEH(ゼロエネハウス)は、ドイツの断熱政策を参考にしたもの。長く住まい続けることのできる住宅を実現するために、日本の行政も歩み出しています。
2018年3月26日、日本のある断熱材製造メーカーのA社とともに、ドイツを訪れた時のこと。
目的は、ドイツにおいて木毛繊維断熱材を製造するメーカーを訪問し、持続可能な断熱技術を学ぶためです。
A社からは、現在日本において製造している技術は持続可能な工法ではないことがドイツメーカーに告げられ、ミーティングが始まりましたが、その時は残念ながらドイツメーカーからは、製造技術そのものを学ぶことは出来ませんでした。
しかしあらためて、ドイツでは断熱性は次のステージ=持続性に焦点が移っていること、そして持続可能な断熱技術がドイツには存在すること。それを知ることができ、決意を新たにすることができたのです。
また、その必要性を再度認識することが出来た訪問となったことに間違いありません。
気密シートがネックだった
さきほど木毛繊維断熱材メーカーのエピソードに触れましたが、これには理由があります。「性能が高くて、さらに持続しなければいけない」と考えるきっかけです。
振り返れば1990年、私たちは、東北地方の工務店グループとともに、高断熱高気密住宅の研究に取り組みはじめました。グラスウールを充填し、気密シートを貼り、水蒸気が壁体内に侵入することを防止して、結露の発生を防ぐ。高断熱住宅の製造に取り組んだのです。
さらには、外断熱。充填断熱だけでは柱や間柱などの部分が非断熱となることに着目し、化学系の断熱材を柱の外側にはり、熱橋をなくすことにもチャレンジしました。そして全館24時間暖房。冬、家中の温度差を無くすことにより、窓や室内で発生する結露を防止することにも取り組みました(今では常識となっていることばかりですね)。
しかし、その性能を持続させることに成功はしませんでした。
原因は気密シート。水蒸気が壁内に入ることを防止する気密シートの機能が持続せず、水蒸気が壁内に侵入することを止める事が出来なかったのです。よく考えれば当たり前ですが、内装下地のプラスターボードの内側に貼る気密シートは、プラスターボードがビスにより取り付けられた瞬間、たくさんのビス穴が空きます。3尺×8尺のプラスターボードでは、約40箇所をビスにより取り付けるため、40箇所の穴が空くわけです。水蒸気の大きさは、0.04オングストローム。水の分子の1/200万。ビスの穴やコンセントボックス廻りから壁内に入り、結露を発生させました。
そのことにより、私たちは気密シートの採用を中止して、外張り断熱だけで高断熱高気密住宅を完成させてきました。
水蒸気の侵入を、必ず劣化する化学の気密材を用いて防止しても、性能は持続させることは出来ない。
持続する断熱気密住宅を完成するために、私たちはドイツで製造されている木毛繊維断熱材による高断熱高気密住宅の製造に着手することとなったのです。
性能が持続するドイツ版エコハウスを施工
このドイツ版エコハウスといえる住宅の施工方法について解説すると、木毛繊維断熱材を貼るだけで、断熱性、気密性、防火性、遮熱性、遮音性を実現することができ、さらに部分的に断熱材を貼り直す、修復再生も可能です。
それはつまり、将来、省エネ基準が向上した時にも、断熱材の貼り増しにより断熱性能を向上させることができるというメリットがあります。
時代が要求する断熱性能に改修することができる工法が、持続可能な住まい造りには欠かせない性能であることも学びました。
未来に負担を残さない素材を軸とした工法により、性能が持続する住まい。ちなみにこれを私たちは「木学の家」と命名し、仲間と地域で展開もしています。
脱プラ・脱化学材を目指してスタートした住まいづくりが、木毛繊維断熱材などドイツでの出会いを経て、持続性に必要な透湿外皮の住宅となったのです。
弊社のこの「木学の家」をベースにしながら、今後、これからより求められるであろう「持続性」の家づくりについて、連載を通じて紹介させていただきたいと思います。
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