2012年1月16日に福島県二本松市のマンションの基礎コンクリートが放射性物質により汚染されているおそれがあるという報道をきっかけに、住宅会社は顧客から自宅の建物や使用する建材が放射性物質に汚染されているのではないかとの問い合わせを多く受ける状況になっています。そこで新建ハウジングでは2012年1月30日発行の別冊付録「新建ハウジングプラスワン」に連載中の秋野卓生弁護士(匠総合法律事務所)に放射能クレームの対応策について解説いただきました。以下に全文を紹介します(編集部)
※2012年2月13日、最後のページの説明書を差し替えました
建築した建物が実は放射性物質によって汚染されていた場合、瑕疵に該当し解約に応じたり損害賠償責任を負担しなくてはいけないのか、新規契約を締結する上でどのような注意をすべきかについて以下に解説します。
既に契約済みの建物についての注意点
参考となる先例
建築される建物に「瑕疵」がある場合とは、「建物に合意された性能がない場合」を言います。
建物や建材からの放射線量に関する基準が存在しない現状において建物や建材から放射性物質が検出された場合、建物や建材に瑕疵があるとされるのかが問題となります。
この点で参考となる先例として[最高裁平成22年6月1日判決]があります。
この判決では、有害物質であるふっ素が土地に含有されていたことが瑕疵に該当するかどうかについて、[囲み]のような理由から瑕疵には該当しないと判断されました。
ふっ素が土地に含有されていたことは瑕疵に該当するか?
[最高裁平成22年6月1日判決]
売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。
そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない[判決]ふっ素が土地に含有されていることは瑕疵に該当しないと判断
放射性物質は危険物質として認識されている
そこで次に、この判例を参考にし、現在の取引通念をしんしゃくして、建物が放射性物質に汚染されていないことが、取引上予定されていたと言えるかどうかについて検討します。
ふっ素は、危険物質として指定されるまで危険物であるとは考えられていませんでした。一方、放射性物質については、社会通念上、危険物であることは明らかです。
それゆえ、従前は危険性が認識されていなかったふっ素について判断した上記の平成22年判例とは事案を異にするというべきです。
したがって、一定水準の放射性物質による汚染が確認された場合には、瑕疵という判断がなされる可能性が高いと考えられます。([2]につづく)
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