古民家リノベにしなかったわけ
み:普通はそこから「古民家」「縁側」一直線!となると思うんですが、そこからこの家(を建てて住むこと)になぜ変わったんですか?
縁:もちろん古民家に住みたかったんです。でも、タイミングが合わず、越してきた当初は普通の一軒家の賃貸に住みながら、縁側のあるいい古民家を探していました。物件も出てくることは出てきましたが、リノベ前提だし、家族4人だと大きすぎちゃうという物件が結構あって。昔の家だから寒いじゃないですか! 子育てもしているし…リノベーションだと寒いのをとるのか縁側をとるのか、となるとやっぱり家族が暮らしやすい家がいいし、寒さには勝てないな、と。
あとは170件くらい縁側のある家を見てきていて、ちょっと目が肥えちゃったというのも(笑)。目が肥えすぎて自分が理想とする古民家がなかったというのも大きいです。素敵な古民家は数億円とかのレベルで手が出ないというのに加えて、土地を売ってくれないということも鎌倉は多いので。だったら新築でもいいのかな、って(笑)。
み:理想の縁側がある理想の古民家というハードルがすごく高くてお金のことも含めて手が出ないということと、「寒い家」をフルリノベーションするとお金もすごくかかる。
縁:フルリノベーションをした家にも行ったことはあるんですが、やっぱり寒かった。一部屋だけ薪ストーブを入れていてそこだけ暖かければいいという考えで。薪ストーブかー、手間もコストもかかるしその一部屋だけ暖かくても効率悪いし…と考えると、「寒いのはヤダ」となりました。
み:理想と現実の折り合いをどうつけるか、という話ですよね。
縁:そうなんです。となると、「古民家じゃなくてもいい」って。縁側がある空間が好き(欲しい)なので、古民家へのこだわりがなくなったという感じで。縁側のある家=古民家というイメージを持つ人も多いですが、数年前に新築の平屋で縁側があるすてきな家を取材したことがあって。その影響もあったと思います。
み:そのプロセスってこれから家を建てる人にとってすごく参考になる話ですよね。実際に自分が住むとなった時に、寒さやコストなんかの要素を組み合わせながら、理想と現実にどう折り合いをつけていくかというプロセスってとても大事です。
縁:「何を実現したいのか」って考えた時に、折り合いをつけないと進まないじゃないですか。そうやって納得していくという感じでした。
み:その理想としている縁側空間が新築でも実現できて、性能の面でもコスト的にもバランスできるのでここに行きついたと。
縁:実際住んでみて、「やっぱり古民家がよかった」とも思わないし、もし次に古民家に住むかといったら、お金持ちじゃないと無理かも(笑)。
み:この縁側はL字ですが、この形にしたのは?
縁:どんな形でもよかったんですけど、L字型の方が家の採光がとれるっていうのがあって。昔の古民家でもL字になってる方が家の中が明るいんですよね。あとは人が来ても向かい合って話せる、隣同士じゃなくてもいいっていうのがよくって。
み:縁側っていうとまっすぐ伸びているところで隣り合って座って月を見たりというイメージですが、コミュニケーションをとるにはこの形がいいですね。
縁:人と話すときは対面の方がよかったりするので。出入口がこっち側にもあるというのも。
み:ここまでは家づくりを考えている人にアドバイスする前提で「テーマをもって家づくりをした方が進めやすい」「テーマと現実の折り合いをどうつけるか」というお話を伺いましたが、次は誰に頼むか、ですよね。依頼された工務店との出会いは?
縁:ウェルネストホームで建てたんですが、主人が創業者の早田宏徳さんと出会ったことをきっかけに、「今住んでいる家って体に良くない」とか「日本の今の家は質が悪い」とかそんな話を聞くにつれて、「もっといい家ってあるんだ」ということを知っていって。早田さんと出会って高性能住宅のすごさを知ったから、もうそこにお願いするしかなかったという感じでした(笑)。
み:「どこに頼むんだ問題」と「誰(夫/妻)が決めるんだ問題」はよくある話ですが、その辺のところは?
縁:私は元々そんなに乗り気ではなくて(笑)。高性能住宅って、デザイン面なんかでもできることが限られちゃうこともあると思っていたので、当時はいいと思っていなかった。だって、住んでみないとわからない話でしょ?と。いくら快適って言っても、それでは曖昧過ぎるというか…。でもモデルハウスでお泊り体験をしてみたら確かに快適だったし、家の中の温度が一定っていうのも大きかった。冬の寒さは切実で、お風呂あがって寒かったらお風呂に入りたくなくなるし、そういう日々のストレスを考えたら、快適な家に住むっていうのもいいのかな、と思い始めました。ずっと長く住む家なら、そっち(ストレスが少ない)の方がいいのかなって。
み:徐々にだったんですね。
縁:一目ぼれ!とかでもなく、いろいろなデータを読んで魅かれたとかでもなく、よく考えたらそっちのほうがいいのかなー、となり始めたという感じ。どちらかといえば私も世の中の主婦がよく言う「デザイン重視の方がいいじゃん!」という感じだったので、最初は工務店さんも厳しい奥さんという接し方でしたね(笑)。
み:「高性能住宅」ってときめくワードじゃないですしね。長く住んでみてわかる、納得するものなんだけど、映える話じゃない。
縁:30年でガタが来ちゃう家と50年でも全然平気な家の比較とか聞いたら、もちろん50年の方がいいけど、50年先って考えられないじゃないですか、今。そんな先のことまで…と思っちゃってたんですけど、実際住んでみたら「もう普通の家には住めない」って思いましたね(笑)。
み:デザインのこだわりもあったということですが、情報収集はなにで?
縁:雑誌とPinterestが多かったですね。雑誌を見てこんな感じがいいと切り抜いたり。でも紙を切り抜いちゃうと伝わる部分も少ないので、Pinterestで好きな雰囲気の写真をいろいろ集めてそれを設計士さんに見せていました。トイレ、キッチン、玄関…それぞれこんな感じがいい、と。
み:外観や縁側とか最初からイメージがあったわけではなくて、雑誌やPinterestで探しているうちに固まっていった?
縁:Pinterestで集めてみると、だいたい似たような家ばかりになってくるので、(設計士さんは)それを見て雰囲気を察してくれたんだと思います。
み:好きな雰囲気がわかってきたところで、この会社でそれが実現できないかも?とか高性能住宅と相反するものがあるのか?やめちゃおうかなという不安はなかった?
縁:やろうと思えば実現できるんだな、と思いました。お金の問題くらいで。見た目重視となるとそこにかけていくしかなかったかな。高くなってもいいから、という前提で。
間取りでいうと柱とか耐震壁とか、窓を多くできないとか、どうしてもここじゃなきゃダメですか?というのはいくつかあって。それを何度も打合せで話して、途中から「しょうがないかな」になるんだと思います。
み:ご主人の仕事の関係とはいえ、この会社で建てるということが決まっていたから、何を妥協するかも含めてストレスはなかったんじゃないかと思います。ゼロから工務店やハウスメーカーを探していたらいつまでたっても理想の会社が見つからなかったかもしれないですよね。
縁:普通、いろいろなショールームをまわって比較、とかですよね。でも何を基準にして選べばいいのかわからないから、そこが難しいですよね。もしくは家を建てた人に話を聞いて…となるのかなと思いますけど。
み:みなさんそこが一番しんどくて不安な部分だと思います。そこは高性能を切り口に乗り越えて、最後に納得のいく生活になったと思いますね。ご主人は最初からここと決めていたし。
縁:はい、決め打ち(笑)。間取りを考えるところまでは夫とやってたけど、あとは内装とか私が考えて全部自由にさせてもらったという感じです。建てる会社は夫が決める、その代わりに内装は私が決めた。
み:そうしたかった?
縁:そうですね。それまでいろいろな家を見てきたし、縁側がある家を建てる手前、ダサい家にはできない!っていう(笑)。カッコいいと思われる家にしたいという思いがありました。
み:揉めなかった?
縁:全然。もちろん迷っているときに相談に乗ってもらったりはしましたけど、基本事後報告でした。
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