福井県で新築注文住宅などを展開する永森建設、エーシンの副社長だった永森幹朗さんは、コロナ禍のさなかの8月、二代目の社長に就任した。就任早々、かつて経験のない厳しい経営環境にさらされながらも、創業者で父の芳信さん(現会長)の想いを引き継ぎ、「心より誇れる住まい」の提供を目指す。建設業から“まちづくり業”へと、次のステージも見据える永森さんに意気込みやウィズ・アフターコロナの経営ビジョンを聞いた。
■コロナ影響見込み3年間は横ばいキープ
新型コロナウイルスの感染収束がいまだ見通せず、3年は続くと見込んで経営計画を立てている。気負いはない。状況の推移を見ながら2023年に攻めに転じられる体制を固めていく。そのため今後3年間を組織や事業の芽を育てる期間に位置付ける。経営計画としては、昨年の売り上げ48億円をベースに3年間は横ばいをキープする。
現在、取り組んでいる大型分譲の開発以外にも、2022年度末に北陸新幹線が敦賀まで延伸することをにらんだ企業誘致による土地開発にも力を入れる。3年後までに県内でのエリア拡大を図り、丹南エリアに支店を設ける計画を立てている。そのほか非住宅の木造施設などの事業を拡大していく。永森建設のリフォーム・リノベーションや古民家再生の事業部門「永家舎(えーうちや)」を強化するため、3階建て木造ビルの事務所兼モデルルームの建築を検討中だ。1階には地域のコミュニティースペースを運営したい。
■総合力を武器に地域でお役立ち
1990年に不動産業のエーシン、その3年後に建設業の永森建設を創業し、地元の福井に根差した建設業を営んできた。企業規模を拡大するために、隣接する経済規模が大きく世帯数も多い京都をはじめ石川、滋賀といった県外進出を推す声もあったが、県外に進出するつもりは全くない。
私たちが実現したいのは「地域の人々の暮らしになくてはならない存在」であること。地域工務店、建設業として、地元の生活者や商いを行う人々と向き合って密接な関係を築くことが最優先だ。設計から施工、アフターメンテナンスまで、地域の家守りとして顧客の暮らしを守る義務がある。理念なき事業拡大は行う意味、大義がない。県内では、地域住民やOB顧客、地主、そして銀行や法人との関係構築も強固になってきている。近年は、あらゆる情報や相談が舞い込み、ここに「お役立ち」としての大きなビジネスの種や可能性が埋もれている。そこを私たちのグループの総合力ですくい上げていく。
■若手への権限移譲加速
一方で、人材面での課題もある。創業から約30年、売上も企業規模も拡大していく中で、従業員数が120人を超え、組織体制を整える必要が出てきた。よく言えば「自立した組織」ともとれるが、各事業部でトップセールスマンが在籍する一方、全体を俯瞰しながら旗を振れるマネージャーの存在が不足している。今後、人材育成の仕組みを構築するのはもちろん、理念やビジョンを共有するため、経営層と幹部、上司と部下による1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングを増やす。指導する場ではなく傾聴し寄り添っていきたい。
過去の採用計画の影響で、20代と40代が大半を占めるという、いびつな年齢構成となっている。中堅層の30代が少ないのは短期的に見れば難しい面もあるかもしれないが、若手にとってはチャンスでもある。アフターコロナを見据えた事業展開では積極的に若手への権限移譲を進めながら、数字だけの成果に捉われずに上司が部下の成長を心から喜ぶような理念先行型の組織運営にも力を入れる。〈談〉
〈プロフィール〉
永森幹朗 ながもりみきお
福井県大野市出身、42歳。2000年に中部大学工学部建築学科卒業後、同年4月大手ハウスメーカーに営業職として入社。その後、結婚を機に家業へ。2007年に副社長、今年8月1日付けで代表取締役社長に就任。一級建築士。
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