見直される焼杉
木板の耐用年数を伸ばす手法として古くから行われているのが焼杉だ。表層を炭化させることに加え、その下層部分にも高熱が加わることで、腐朽菌の養分となるセルロースやセミヘルロースを変質させて腐朽を防ぐと考えられている。最近になって意匠上の理由から一部で流行の兆しがある。塗装や加圧注入材よりコストもかからない。
焼杉の耐久性は炭化層の厚みで決まる。伝統的な三角焼きの手法で焼かれたものは表面に約3mm厚の炭化層が生じる。一方、工場でバーナーなどにより表面を焼いた量産品は炭化層が1mm未満と非常に薄い。古民家改修が多い輝建設の小原響さんはこう話す。「雨や風の当たり方にもよるが、炭化層が薄い量産品は数年で炭の層が剥がれ始め、徐々にまだらになっていく。一方、三角焼きでつくられたものは雨掛かりが少ない部位では数十年以上にわたり炭化層が残る」と話す。
ただし、炭化層が健全な木板でも割れや反りなどにより、炭化層に覆われていない部分から腐朽が進むこともある。通常の木板と同様の施工や維持管理の配慮が必要になる。
焼杉は表面を炭化させることから、その分の板厚を増すのが理想的だ。約3mm厚の炭化層を持たせるとすると、最低でも15mmは欲しいところだ。
加熱処理木材の耐久性
昨今、薬剤を使用せずに防腐・防蟻性能を高める方法が普及しつつある。それが加熱処理だ。1990年代以降、ヨーロッパ各国で開発が進み、日本でも独自の技術が確立された。「サーモウッド」や「エステックウッド」などの名称で製品化されている。
これらの材料は木材を窯に入れ、200〜250℃で加熱処理する。処理温度が80℃を超えるとヘミセルロースは加水分解して単糖類に変わる。さらに200℃を超えると木材腐朽菌の栄養源であるセルロースも変性し、木材腐朽菌の栄養源は大幅に減少する。
さらに220℃になるとヘミセルロースの分解が進む。水と結合する性質のヘミセルロースが大幅に減ることで菌の生育に必要な水分が不足する。同時に相対的にセルロースの結晶化の割合が高まり、腐朽菌に分解されにくくなる。
これらの合わせ技により、加熱処理をした木材は大幅に腐りにくくなる。JAS製材の防腐防蟻の性能区分でいうとK4相当の評価を受けている製品もある。
加熱処理木材の防腐・防蟻性能についても試験が行われている。奈良県森林技術センターが実施したエステックウッドの杭を地中に埋めた試験では、設置から4年が経過した時点で、腐朽はわずかでヤマトシロアリの食害もわずかであった。同じ材を別の場所に埋めてイエシロアリの蟻害への耐性を調べた試験では、無処理の杭との比較で明らかな効果があり、4年間で浅い食害しか受けていなかった。
山口工務店の山口雅和さんは約10年前よりエステックウッドを使用している。「板塀やデッキ材によく使用している。10年以上経過しても腐朽は発生しない。外壁にも使用したいが価格が高いのがネックだ」と話す。
高温処理木材の弱点としては、加熱処理は防腐・防蟻性能を高める一方、材の強度や釘の保持力が落ちる。また、見た目がこげ茶色になる。なにより値段も張る。
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