[巻頭言]
工務店テックが必要な理由とメリット
テックは働く人と顧客を幸せにし
スモールエクセレントを実現する
新建ハウジング発行人
三浦祐成
本特集「工務店テック&住宅テック」の「テック」はテクノロジーの略ですが、テクノロジーは人の生活や人生をより良くする、社会をより良くするものです。工務店に、家づくりに適切なテクノロジーを導入することで、大変なことや面倒なこと、複雑なことを楽に確実に行え、省力化や時短を実現します。豊かで楽しい暮らしを提案する工務店で働く人こそ、早く家に帰ってそんな暮らしを実践し、その幸福をおすそ分けするように顧客に広めていければ理想で、「工務店テック&住宅テック」はそれを可能にします。本稿ではテックが必要な理由=メリットを解説します。
現場こそテック化を
テックというとICTやオンラインだけをイメージしがちですが、オフライン・リアルな仕事を楽に正確に行えるようにするテックも大事です。
例えば虫歯の治療も、歯科医がテック化を進めたことで、以前よりも楽に正確に、そして痛みも少なく治療ができるようになっています。
住宅業界でもパネル化やアシストスーツなどの現場のテック化が進んでいます。
コロナ禍では非対面テック
パネル工法それ自体は新しいテックではありませんが、大工不足や部材の重量化などの変化で改めて注目されています。テックの需要や普及にはタイミングが大事、時代の要請がある、ということでしょう。
コロナ禍で特に求められているのは、非接触・非対面での業務を可能にするオンラインやクラウドなどのテックで、ZoomやYouTubeなどのオンラインツールや現場情報共有などのクラウドシステム・アプリの需要が高まりました。これらもすでにあったテックですが、コロナというタイミング・時代の要請が重なったことで住宅業界でも普及が加速しています。
テックで生産性向上
コロナに関係なく、オンラインやクラウドを活用すれば、移動や連絡の手間と時間とコストをゼロにでき、効率性・生産性を大きく改善できます。
そして、これらで情報共有を徹底すれば、外部パートナーとの協業もしやすい。少数精鋭でより多くの仕事を楽に確実に行うことができるようになります。
それは利益の確保・増大に、そしてコストパフォーマンスの向上につながります。競争力が高まり、大企業、特にハウスメーカーとの競争優位を実現できるということで、これらも工務店テックがもたらすメリットです。
こうしたメリットをもたらすオンラインとオフライン(リアル・対面業務)を融合する「OMO」は、工務店の新しい仕事方式(ニューノーマル)にすべきでしょう。
テック化は工務店に有利
大企業はトップが最新のテックに精通していないことが多く、情報の非対称性を武器に情報の中継屋としてパワーを持っていた中間管理職もテック導入の抵抗勢力となることも多く、テック化が遅れがちです。テレワークが進まない一因もここにあります。
一方で工務店は、社長が意思決定すれば何でも導入でき、標準にして徹底できる(はず)。このスピード感と徹底度の違いは、今後一層工務店に有利に
働くでしょう。
業務の情報非対称を解消
電話やファックスで1対1で伝えていた現場の情報や図面等を、クラウド上でn対nで共有することで、現場監督の手間が減るばかりか、職方や現場からの情報も瞬時に共有できるなど、情報の非対称性は解消されます。
社内の情報共有をメールや電話、口頭などの1対1のコミュニケーションからチャットや掲示板のようなn対nに変えることで情報の非対称性は改善されます。情報の非対称性を源泉とする中間管理職のパワーが無価値化するなかで、本当に働いている人とそうでない人があらわになります。中期的には少数精鋭化につながっていくのではないでしょうか。
生活者に情報や物差しを
情報の非対称性は住宅業界・つくり手と生活者・顧客との間にも存在します。ハウスメーカーはそれを利用して大量宣伝・大量展示場・大量営業でフレーミング(啓蒙的情報提供)を行い、受注につなげていました。
ですが現在は工務店もOMOで簡単に情報を発信でき、生活者もそれを吸収して自ら情報の非対称性を埋めています。「量の時代&フレーミング」から「質の時代&正しい情報や物差しを伝えるプロ性とストーリーへの共感」にシフトしています。また、テレビからSNSへのシフトが典型ですが、「オーソリティー(権威的な人・大きな組織)」から「フレンドリー」(共感できる親しみやすい人・組織)」へと生活者の支持がシフトしていることも追い風です。
フレンドリーな工務店が、OMOのテックで情報や物差しをフレンドリーに伝えて「感化」を起こすチャンスです。実際、YouTubeやインスタライブ等の動画活用でそれが進んでいます。
アフターが弱い、を過去に
権威や損得ではなく共感でつながり、契約を結んだ顧客に、アプリやIoTを含めたテックを使って契約後・引き渡し後も情報や状況、そして感情を共有し、家の住みこなし術やより良い生活を実現する提案をすることで、顧客体験(CX)・顧客満足(CS)が向上。その度合いが高くなれば「ロイヤルカスタマー」(ファン)になってくれるはずです。
また、マーケティングオートメーション(MA)&インサイドセールスなどのテックは、共感客を絞り込むのに有効で、その受注を容易にします。
ロイヤルカスタマーはリピートや家具購入などで顧客生涯価値(LTV)を高めてくれるほか、集客やクチコミ、紹介などで自社に協力をしてもらうことも可能です。また、このファンコミュニティーから自らの体験を発信してもらえば評判が広がり、ブランディングにつながっていきます。
ロイヤルカスタマー化やコミュニティー化、そこからの発信にこそテックを活用でき、「工務店はアフターが弱い」を過去のものにできます。
イノベーションとは
家づくり・リフォームには必ずリアルな現場が存在します。だからこそOMOが重要です。パネルのようなオフラインのテックも山や製材所との情報共有のしくみ、CAD・CAMシステムや受発注システムなどのオンラインのテックと融合することで、効率性・生産性をより向上できます。
イノベーションは「新しい組み合わせ」です。今後は、オンラインとオフラインのテックを融合して新しい家づくりのフローを生み出し、より良い顧客体験を提供することが、顧客満足はもちろん差異化の観点からも重要になります。
そこに建築が元来持つ面白さ、そして顧客の家づくりや人生を成功に導く「カスタマーサクセス」に対するやりがいが重なると、スタッフや職方の満足(ES)も高まります。
テクノロジスト集団へ
歯科医師など、己の手わざと知識・知恵をベースに最新のテックを使いこなす技能技術者のことを、P.Fドラッカーは「テクノロジスト」と呼びました。
工務店こそテクノロジスト集団であり、それを追究・進化することでセールス(売り込み)やマネジメント(管理)を最小にして高い成果・報酬を得ることができるはずです。
こんなありかたを筆者は「スモールエクセレント」と呼び、工務店の1つの型として提案していますが、工務店テックはその実現に不可欠です。
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