10種余のアプリを共通利用
利用するアプリについては、先行してIT化に取り組んでいた扇建築工房(静岡県浜松市)からアドバイスを受けながら選定したという。同社の全スタッフが共通して使うアプリは10種類以上ある。特に頻繁に使うのは、データ共有に用いるDropboxやGoogle系のアプリだ。Googleカレンダーには、全スタッフのスケジュールを集約、各自の「シンボルカラー」により行動を色で把握でき、業務連携を図るために欠かせないツールになっている。そのほか、基幹システム(顧客台帳)への登録前の顧客リストを共同編集できるGoogleスプレッドシートや、メモ帳代わりのGoodNotes、手描きプレゼン資料作成用にConceptなどを活用。社内のグループチャットにはFacebookを使っている。
こうした体制と環境により、業務の無駄を省き、大幅な効率化を実現。ペーパーレス化にもつながった。情報の更新や共有が容易になったほか、プランや設計のクオリティーが向上するという効果もあった。同社では1つのプロジェクトのプランを固める際に、まず設計スタッフ4人全員がそれぞれ提案を行い、それをもとに絞り込んでいくコンペ方式を採用しているが、コンペを進めながら各自のアイデアを一つのプランに落とし込んでいく工程は、クラウド上での共同編集が役立つという。コロナ以降は、Zoomの「ホワイトボード機能」を利用してオンラインでコンペを実施しており、関尾さんは「以前(リアル)よりも効率がいいと感じることもある」と話す。
関尾さんによると、同社がクラウド運用にかけるコストは月額約13万円。内訳は、基幹業務システムが同9万円、Dropbox利用料が同4000円、支給しているiPadの通信料が同4万円で、得られる効果に比べれば負担は小さい。コロナ対策として営業活動のために新たに購入したのはヘッドセットとウェブカメラのみで、あわせて3000円程度だったという。
左/ Googleカレンダーで全社員のスケジュールを共有
右/設計メンバーがオンラインでアイデアを出し合いながらプランを詰めていく
「不安よりも発見」オンライン化に手応え
関尾さんは、「不安よりも新たなことに取り組むことで日々発見することの方が大きい」というスタンスでコロナによるさまざまな変化に対応する。4月以降、それまで集客の要だった完成見学会や家づくり勉強会がリアルでは一切開催できない状況になると、すぐにZoomやインスタライブを活用してオンラインに切り替えた。
外出自粛で、家にいる生活者の情報収集意欲が高まっていたのか、予想を上回る参加があり、その結果、4月~6月で新たに3棟を受注、設計申し込みも3件決まった。これはコロナ前の平常時を上回るペースで、今期は年間12棟の受注を見込む。関尾さんは「オンラインにより一般の人たちとの接点が増え(自社の家づくりが)評価されていることをダイレクトに感じられるのが何よりもうれしい」と話す。
家づくり勉強会については、オンラインに切り替えたことで、効率化に大きな手応えを感じているという。これまでリアルでは、オフィスの応接ルームに最大4組しか受け入れられないうえに、2人がかりで半日かかって会場・機材のセッティングをしていたのが、オンラインでは人数は無制限、事前準備もほぼ不要になった。最近では、2週に1回のペースでオンライン勉強会を開催しており、毎回15組ほどが参加。「オンラインの見学会や勉強会で大切なことを理解してもらうことで、対面でのコミュニケーションが最初から非常に濃密になる」と関尾さんは語る。
コロナの第2波到来が現実味を帯び、“未知なるウイルス”によるリスクも常に懸念される市場で、生活者の支持を得ながら、地域の工務店による家づくりを持続していくために、効率性や生産性の高い変化に適応できる体制づくりが求められる。同社は今後も、オンラインのメリットやオフラインの強みを最大限に生かせるよう対応していく方針だ。
左・右上/あすなろ建築工房の住宅の施工例。デザインや素材、暮らしやすさにこだわった家づくりを続けていくために、テック化で経営を強化する
右下/あすなろ建築工房のスタッフ
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