[神奈川県横浜市]
代表取締役 関尾英隆さん
“予期せぬ事態”にも即応できる
しなやかな体制を構築
基幹業務管理と現場情報共有をクラウドで
神奈川県横浜市のあすなろ建築工房は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令された4月から、希望するスタッフはテレワーク、原則として直行直帰、オンラインによる営業・接客を標準的なスタイルとして継続する。
「かつて経験したことのない」状況にもかかわらず、4月~6月の受注はコロナ前の平常時を上回る好調をキープ。5年前に業務管理をクラウド化していたことで、スムーズにオンラインに移行できたことが奏功した。同社の事例は、業務効率化や生産性向上のためのテック化(デジタル化)が、“予期せぬ事態”への柔軟な対応に有効なことを物語る。
全ての顧客・物件データを蓄積
クラウド化は、社員がどこにいても顧客や現場の情報を確認・更新・共有できる環境を整えながら、業務効率化と生産性向上を図ろうと検討。顧客管理や積算、入出金管理などを行う基幹業務と、協力業者とコミュニケーションするための現場情報共有について、それぞれ工務店の業務に特化したシステムを導入した。
基幹業務のクラウドシステムでは、設計申し込みの段階で台帳に顧客情報を登録し、以降はそこにひもづける形で物件、工程、資材の受発注、出入金などあらゆる業務情報を記録、蓄積していく。引き渡し後の追加工事やリフォームがあればその情報も継続して記録。これがデータベースとなり、社員は目的にあわせていつでも情報を検索することができる。同社では、過去10年間に新築・リフォームに携わった800世帯超の顧客・物件情報を社員のだれもが瞬時に確認することが可能だ。
現場情報共有クラウドでは、ボタンひとつで現場の利益率をリアルタイムでチェック。同社社長の関尾英隆さんは「工種ごとに定めた利益値を目標に、粗利が多すぎれば支払いが滞っている、少なすぎれば何かトラブルが起こっているなど数字を目安に状況を的確に把握できるようになった」とする。それだけでなく「会社全体の月次収支も把握でき、素早く判断して対策を打てる。毎年の経営目標も立てられるようになった」と導入効果を説明する。
上/顧客情報をクラウド上で一元管理 下/システムでは各現場の利益率をリアルタイムで把握できる
全社員と棟梁にiPad支給
協力業者とのコミュニケーションも大きく変わった。クラウド導入後に、職人65人それぞれにスマートフォン(スマホ)により、顔写真付きでアカウント登録してもらった。以降は、専用アプリを通じてスマホにより必要なやり取りを行う。「FAXで一斉送信、必要に応じて電話で追いかけ連絡というわずらわしい作業から解放された」と関尾さんは笑う。
協力業者への連絡事項は、クラウドシステム内の「掲示板」機能を使ってグループチャットに一斉送信。個別に未読・既読を確認でき、連絡漏れを防止できるようになった。コロナ禍で、安全大会など大人数が一斉に集まることができないなか、現場の運営のルールや感染予防策などを徹底するのに役立っている。
一方で、現場の職人からも、工事完了報告などの情報が積極的に投稿されるようになり、効率的に現場を進めるうえで有効に機能している。
関尾さんによれば、クラウド化の肝になったのは、全社員(5年前当時は6人)と専属の棟梁2人にiPadを支給したことだ。モバイル端末があれば、携帯通信を利用して時間や場所を選ばずにインターネットを介してクラウド上のデータにアクセスし、まとまった資料の閲覧・編集ができる。チャットやテレビ会議で、それぞれが撮影した写真や動画の共有も容易だ。
現場の納まりなども、現場監督と大工がiPadでテレビ会議システムにより画像を共有しながら確認。監督は、必要に応じて画像にイラストを描き加えて指示を送ることで、電話(口頭)ではなかなか伝わりにくかったことを明確に伝えられるようになった。それにより、コロナ禍で監督が現場を訪れる回数が制限されても、大工・職人たちとのコミュニケーションが滞ることはなく、現場の進行にも影響はないという。
上/納まりを含む現場の状況はiPad上で随時共有。監督から現場への指示は、直接写真に描き込んでわかりやすく伝える
下/ iPadから確認できるクラウド上の「掲示板」で協力業者への連絡事項を一斉送信。個人ごとに未読・既読を判別できるため、連絡漏れも防げる
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