第3 損害は誰が負担するのか?
1. 不可抗力により発生した損害
工期が3カ月遅れたとしましょう。そうすると、10万円の仮住まいに施主が住んでいたとすれば、30万円の損害が施主には発生しています。しかし、これは不可抗力による損害ですから、住宅会社はこの30万円の支払い義務を負うことはありません。
他方で、IHクッキングヒーターなどの一部の建材が入荷できないため、施主に不便を受忍してもらいながら未完成建物にて生活してもらったとしましょう。この場合、施主の不便は慰謝料として支払うことになるのか?といえば、これも不可抗力による損害ですから、住宅会社やメーカーは慰謝料の支払い義務を負いません。
そうすると、おのずとわかってくる点は、今回の新型コロナウイルスによる損害は結果的に「施主に受忍してもらわざるを得ない」という点です。この「新型コロナウイルスにより発生した損失は相手方に対して賠償請求できない」という説明を、住宅会社の営業マンはしっかりと施主に対してしていく必要があるのです。
「納期遅延をしたメーカーに責任を負わせます」といった逆の説明は絶対にNGです。これは困った話であり、後で「やっぱりお施主様にご負担をお願いします」ということになれば、前に言ったことと違うことを言ったということで、もっと大きなトラブルに発展する可能性があります。
2. 追加変更工事費用の負担
例えば、キッチンの箱本体と機器(IHクッキングヒーターなど)の分離施工を余儀なくされた時の物流費や施工費の負担は誰がするのか?という論点も生じます。
本来、住宅会社はメーカーなどからキッチンの箱本体と機器について別々に購入しているわけではなく、ひとつの製品として購入しています。ですから、キッチンメーカーにて、キッチンの箱本体と機器を一体として納品することが求められていますので、これを別々に納品する必要はありません。納期遅延が生じたとしても不可抗力として免責されます。
しかし、住宅会社がメーカーに対し、キッチンの箱本体と機器を別々に納品するように特別対応として要請した場合、物流費や施工費については、追加変更工事として住宅会社負担となる可能性も高いと考えます。
そうすると、住宅会社にて損失を負担したくないと考えれば、施主にその分の費用を請求したいところですが、新型コロナウイルス発生による損失を多く受忍せざるを得ない施主に対し、更なる費用負担を求めることは酷であると言わざるを得ないでしょう。
かといって、下請業者いじめは絶対に避けなければなりません。国土交通省も「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策に伴う下請契約及び下請代金支払の適正化の徹底等について」の文書を発布しているところですが、建設業界全般にて独占禁止法、下請法、建設業法違反が生じないように、高いコンプライアンスの意識で臨むことが求められます。
匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書を手掛ける。一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士。一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント。mail:[email protected]
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