牧野 正一氏
スムース (滋賀県草津市) 専務取締役
スムースマルシェの様子。人気店の“ファン”がさらに人を呼び、スムースの存在がマルシェを通じて価値観を共にする層にどんどん広がっていく
1日で最大1500人の来場者を集めることもある地域の人気イベント『スムースマルシェ』など、徹底したペルソナ分析により導き出したサービスの提供により、OB顧客のみならず潜在顧客とも深いつながりを持つスムース。そんな同社の“トレンドハンター”として、マルシェを運営しながら、自社の価値観を伝える活動やスキーム構築を担うのが専務の牧野正一さんだ。
同社のコンセプト「何でもない、でも大切な日。」は、「日々の暮らしが少しでも優しくなるようなきっかけづくりを行いたい」という想いから生み出された。このコンセプトを具現化するために、2014年の事務所移転を契機に始めたのが、月1回・第1日曜日に開催するマルシェだ。「人と人との手から手へ、暮らしに関わる安心・安全なものを地域に届けたい」という想いに共感した無農薬野菜を栽培する農家や、オーガニックフードを提供する店など20店舗ほどが、同社の事務所兼ショップや駐車場に軒を連ねる。
出店料は無料だが、だれでも出店できるわけではなく、新たに出店を依頼する人(店)は厳選する。出店までのルートは、既存の出店者やOB顧客の紹介か、牧野さんをはじめとする同社スタッフが自ら探して“確かな人(店)”だと確信した上で、直接出店を依頼する場合のみ。イベントのメインの目的を集客や売り上げとせず、「安心・安全なマーケットを地域に提供すること」と明確に定めているからこそ実現できる仕組みだ。
マルシェを通じて広がった共感の輪は、結果的に集客にもつながる。2018年度に新築成約した顧客の“スムースを知ったきっかけ”では「マルシェ来場・OB顧客からの紹介」が75%超を占める。牧野さんは今後も「ペルソナの家づくりフローの中に、スムースの数々のコミュニティーが存在する」ことを前提に、社内体制の構築やスキームデザインを進めていく考えだ。
会社プロフィール
会社紹介/2006年設立。<何でもない、でも大切な日。>を合言葉に、ペルソナの問題解決を常に想像した経営を展開。「スムースマルシェ」「暮らしを楽しむ会」などを定期開催しながら、家族の暮らしが優しくなるきっかけをつくっている。
社員数/役員2人、社員5人,パート5人
年間新築件数/新築15棟(リフォーム工事別途有)
基本情報(年間売上、平均単価など)/平均単価:75万円〜/坪、年間売上:4億7000万円
東 沙織氏
ひまわり工房 (兵庫県相生市) 広報設計士/取締役
実際の「暮らしの知恵ネタ」インスタグラム投稿。思わず見たくなる写真コメントと共に、住まいづくりに役立つ解説をさくっと読むことができる
約4万4000人のフォロワーを持つインスタグラムなどのSNSを軸に、自らを“あずさん”という「住まいづくりのタレント」としてセルフプロデュースする、ひまわり工房取締役の東沙織さん。毎朝8時ごろに欠かさずアップする「暮らしの知恵ネタ」投稿を心待ちにする“あずファン”は多く、時に1000超の「いいね!」を獲得するほどの人気を博す。
暮らしの中の気になるワンシーンを切り取った写真に、“あずさんらしさ全開”の一言を添える投稿について東さんは「SNSが当たり前の今、ただきれいな家の写真を見ただけではユーザーは驚かない。投稿は自社の世界観だけでなく、人間味もあぶり出されるような“人(ひと)感”のにじませ方が大事」と語る。
毎週金曜午後10時に配信するインスタライブも好評だ。配信時間帯は「共働き夫婦がゆっくり見られるように」と設定。リアルタイムのコメントのやり取りが「打ち合わせの疑似体験のよう」と人気で、配信開始から24時間経過後には5000人が視聴する。自社の顧客のほとんどがインスタグラムを見た上でアプローチしてくるという。
そんなSNSで人気の東さんだが昨年末から、完成見学会やDIYワークショップなどのリアルなイベントを月1回ほどのペースで開催している。SNSは拡散力が高い半面、それによって商圏外からも増える「確度の低い」相談や問い合わせへの対応が工務店にとっては悩ましい
ところだが、東さんはSNS上でのやり取りを通じて、「自社が商圏として定める半径25㎞のほんの一歩先に、実は潜在顧客がたくさんいる」ことを発見した。地域に向けたイベントにより、そうした潜在顧客も呼び込み、つながりを深める。ミライセッションでは、SNSを追求してきたからこそ見えてきた“あずさん流”工務店広報術をあますところなく伝える。
会社プロフィール
会社紹介/1991年設立。設計士と顧客との対話を大切にする家づくり手法を軸に、家族の成長や暮らしになじむ動線設計「成長が止まらない家」を手掛ける。暮らしのアイデア満載のインスタグラムやブログが人気。
社員数/4人(パート含む)
年間新築件数/新築7〜8棟
基本情報(年間売上、平均単価など)/平均単価:50万〜59万円/坪、年間売上:2億円
永森 幹朗氏
永森建設 (福井市) 副社長
暮らしを楽しむアイデアがつまった永森建設の住宅
永森建設が福井県内の新築顧客のニーズの変化に合わせて、自社の住宅を大きく変えたのは8年前だ。それまでは、大家族の2世帯住宅がメインで、新築契約の顧客の大半が50~60代の親世帯だったという。そのため建てる住宅は、70~80坪と大ぶりな「数寄屋造りの純和風住宅」が自社の看板商品となっていた。
「それが受注が少なくなっていった」と同社副社長の永森幹朗さんは振り返る。理由は、2世帯住宅が減少したてきたことと、新築の契約者が2世帯住宅の場合でも親世帯から子世帯へと移ってきたためだ。「純和風では、子世帯の奥様のライフスタイルに合わなくなってきた」と永森さんは説明する。そうした状況から、30代の子世帯のニーズをつかめる住宅づくりにシフトチェンジ。それまでメイン商品としていた50~60代向けの高級和風住宅「季尽木」から、30代向けのスタイリッシュな住宅「ネスト」へと主力住宅の軸を変えた。
永森さんは、方向性を大きく変えるにあたり、「従来の自分たちがつくりたいものを施主に押し付けていたプロダクトアウト的な考え方から脱し、施主が求める家づくりを模索するマーケットイン的な考え方が浸透する会社体制に刷新した」と話す。「自分はすでに40代で、20~30代のライフスタイルがわからないので、若い社員の発想が必要だった」という永森さんは、メインターゲットとして想定する30代子世帯の妻の希望を取り入れた住宅づくりを推進するため、各部署に必ず女性スタッフを配属。それにより、女性が働きやすい職場環境の改善や福井で働くための応援サイト「くらしくふくい」を立ち上げ「女性に寄り添う」というイメージを持たれるようなブランド戦略を推進した。
「変えてはいけない事以外はすべて変えればいい」を合言葉にチャレンジを続けている。
会社プロフィール
会社紹介/1990年12月設立。「お客様が心より誇れる住まいを」を理念にロングライフ住宅を提供。1990年12月にふくい建築賞2015受賞。2016年2月に福井県より子育てモデル企業に認定。2016年にふくい女性活躍躍進企業に登録。第1回ふくいグッドジョブ女性」に表彰される。2016年3月に定額制注文住宅「ながもり木箱」を発表。
社員数/70名
年間新築件数/53棟
基本情報(年間売上、平均単価など)/新築:19億円 リフォーム:10億円 その他:1億円 合計30億円 平均金額 約3500万円
加藤 渓一氏
HandiHouse project ハンディハウスプロジェクト (神奈川県横浜市)
「せっかくなので家族でDIYに挑戦し、子どもに家づくりの思い出を残せれば」というプロジェクトオーナーによるフローリング貼り
ハンディハウスプロジェクトは、関東圏のマンションや賃貸住宅、戸建住宅の施主に対し、「妄想から打ち上げまで」をコンセプトに、間取りのプランニングから素材選び、工事の過程まで、住まい手となる施主が参加するワークショップ形式の家づくりを行っている。
同社の加藤渓一さんは、「ハウスメーカーや分譲住宅会社、リフォーム会社などどこに相談しても、どれも画一的でワクワクしなかったという理由で当社に相談に来る施主が少なくない」と説明。中古住宅でも構造がしっかりしていれば、リノベーションをして住むことにアレルギーを感じない人が都会では増えており、同時に「従来型の規格化された安い住宅で、自動的に決められた間取りやオプションからしか選べない“自分らしさ”にフラストレーションを感じている現状がある」とする。
一方、つくり手側にも、住宅部材のクオリティーを上げてきたものの、顧客がついてこないという現実に流され、「つい、当初は手入れがいらず傷はつかないが、時間がたつと見栄えが悪くなるような建材ばかりを使ってしまい、つくり手の誇りやワクワク感を失ってしまっている」という実態があると加藤さんは指摘する。
そこで同社が提案するのが、「みんなで一緒にライブのように楽しむ家づくり」だ。設計プランも使う素材も、全てを住まい手と直接話し合って決める。住まい手の言う通りにつくるのではなく、つくり手の思いも伝えて、お互いぶつかり合いながらつくっていく。住まい手のライフスタイルに沿った住まいを、施主とつくり手がともに「自分ごと」として、ワクワク・ドキドキしながら最高のものを目指す。今年5月にはコミュティサービス「HandiLabo」をオープンし、住み手の人たちとコミュニケーションをとりながら行う家づくりの実験、実践を開始した。
会社プロフィール
会社紹介/合言葉は「妄想から打ち上げまで」。家づくりというライブを、一緒に楽しみ尽くす。その先には、住むほどに愛が育つ家があるはず。それがHandiHouse projectの「家づくり」です。2018年からは「家を趣味にしよう」を合言葉にオンラインサービス、HandiLaboをスタート。
社員数/13名
年間新築件数/新築2棟 改修30件
基本情報(年間売上、平均単価など)/売上1.5億円
石田 伸一氏
石田伸一建築事務所(新潟市)代表取締役/建築家
時には屋外で仕事をすることも。自然の中でプランを練ることは「五感を生かした良質な設計」につながるという
昨年独立した石田伸一さんは、事務所も自社ウェブサイトも持たない建築家として「ノマド*アーキテクチャー」を名乗り、新潟市を拠点に活動している。デジタルデバイスやアプリを駆使した従来の家づくりの概念を覆す手法や、反響後の成約率9割超を誇るSNSマーケティングを基盤に、どんな場所でも仕事ができる「ノマドな働き方」を実践している。
石田さんが、ふだん業務のために持ち歩くツールは、iPadやiPhone、MacBook Air、Apple Pencil(スタイラスペン)、一眼レフカメラと交換用レンズ、モバイルバッテリーなど。図面・打ち合わせ資料(紙)の分厚いファイルなど、かさばるものは一切持ち歩かない。顧客との打ち合わせや協力業者とのやり取りはLINEを活用、打ち合わせ資料はBox(クラウドサービス)に格納してある電子データを用い、どうしても印刷が必要な場合は、コンビニのネットワークプリントサービスで対応する。
一見すると、顧客からは「事務所がない=信用できない」と捉えられてしまいそうだが、実際には「ノマド的なあり方」は、事務所のかまえ(立派さ)などに関係なく「建築家・石田、人間・石田」を信頼してやってくる「ホットリード(今すぐ客)」と出会うためのフィルターとして機能しているという。
潜在顧客は、石田さんが運営するインスタグラムやブログなどを見て、石田さんの人物像や施工例を知る。その時点で合わない人は離脱、深く共感した人のみがコンタクトを取ってくる。そのフィルターを通ってきた顧客の成約率はなんと約97%(31件中30件契約/第1期)。独立直後に「施工例が見られないから」と失注した1件以外は受注しており、競合もほとんどないという。講演では、そんな次世代型経営・ノマドアーキテクチャーの実態を解説する。
*ノマド…ノートパソコンやタブレット端末などを用い、場所や時間にとらわれずに仕事をする新しいワークスタイルを指す言葉
会社プロフィール
会社紹介/2018年7月設立。「long loved design」「地材地建」を理念に掲げる。地元の魚沼杉を利用した住宅建築設計やリノベーション、コンテナ建築、店舗設計、家具設計などを手掛けながら、他ビルダーの設計、ブランディングサポートなども行っている。
社員数/4人(石田を入れて全部で4名)
年間新築件数/<第1期>
新築完工5棟、リノベ完工3棟、店舗完工3棟
新築設計11棟、リノベ設計5棟、店舗設計3棟
基本情報(年間売上、平均単価など)/平均単価:新築住宅 80万円/坪
年間売上:第1期主に設計料3380万円 第2期予定4500万円
大橋 利紀氏
Livearth リヴアース(岐阜県養老町)代表取締役社長
「心地良さ」×「デザイン」×「性能」を追求する
リヴアース社長の大橋利紀さんは10年ほど前から、「本質的なものづくりをきちんとやる」ことと同時に、「差別化」を意識して会社の方向性を決定してきた。小規模な事業形態を大幅に変えることなく、建てる住宅のレベルをコツコツと磨くことによって会社のブランディングを実践。直近の完成見学会では、二日間で100組以上が来場するなど、確実にファンのコミュニティ化が進んでいる。
大橋さんは、学生(建築学科)時代から海外の建築を学び、実際に視察して、パッシブハウスに強い関心を持つようになった。家業の工務店に入ると「性能もデザイン性も高いレベルで両立した家を提供したい」と思いを新たに、さまざまな勉強会に足を運んだ。学びを生かし、自社が建てていた住宅を徐々にレベルアップ、住宅のコンクールでの受賞が増えるなど、成果は形として表れた。ホームページも一新し、コンテンツを増やしながら家づくりへの想いを発信。「サイトの内容を一通り読んでから来てくれる」という顧客が増えるのに伴い、紹介による受注も増えていった。
パッシブデザインを取り入れた同社が手掛ける住宅は、素材へのこだわりも特徴的だ。地域に馴染むデザインと環境に配慮した素材の選択が訴求ポイントになっている。プランニングでは、採光と通風による感覚的な居心地の良さを提案するだけでなく、それをシミュレーションして数値で示すことにより、専門知識のない顧客に対して「見える化」してわかりやすく伝える。省エネや耐震性についても同様で、「やれることは全部やる」というのが大橋さんの信条だ。
今年は、耐震性や温熱環境など「本質改善型」リフォームの独立ブランドとして新たに「リヴ・リノ」を立ち上げた。来年は、新しいモデルハウスもオープンする。積み上げてきたブランド力を武器に、さらなる飛躍を目指す。
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