中川 貴文氏
耐震性能見える化協会 (東京事務所・東京都世田谷区) 代表理事
「wallstat」でシミュレーションした制震ダンパーを組込んだ住宅 (左)と耐震等級2の住宅比較(画像提供:アイディールブレーン)
木造住宅の倒壊シミュレーションソフト「wallstat (ウォールスタット)」の開発者で京都大学生存圏 研究所准教授の中川貴文さんを代表理事とする耐震性能見える化協会(以下、見える化協会)は一般社団法人として今年1月に設立。4月から全国各地で wallstatの活用方法などを伝える講習会を開催している。wallstatは、木造建築を構成する構造材や接合部材、制振装置、仕上げ材など、個々の構造要素を数値化して3次元でモデル化するソフト。最先端のIT技術により、実際の設計データにプレカットCADを連動させることで、地震動でどれだけの損傷が発生するかを、パソコン上で動画により再現できる。2010年から公開しているが、ダウンロード数は2016年の熊本地震後に急増したという。最近でも月1000件程度のペースでダウンロードされており、累計数は3万件を突破した。最新版は、京都大学のwallstat配布ページから無償でダウンロードできる。
見える化協会では、wallstatの活用で耐震性能を的確に検証・評価することにより、「大地震に遭遇しても住み続けることのできる」高性能住宅の普及を目指す。協会に入会した工務店や一般消費者などユーザーは無料で登録でき、操作方法や強度データなどを自由に入手できる。普及に向け、正しい技術を持つ証明となる「wallstatマスター」や採用する建材が正しくモデル化されていることを証明する「認証建材」、正しく変換できることを証明する「提携ソフトウエア」 など各制度を運用する。
工務店ミライセッションでは、工務店による利用状況とその成果、データの一元化と作業の効率化につながるBIM(ビム)との連携や地盤調査データの活用など最新のwallstat情報を中川さんが解説する。
鈴木 強氏
益田建設 (埼玉県八潮市)
取締役技術企画開発部 部長
昨年、本社の近くに開設した耐震研究所
益田建設は、倒壊シミュレーションソフト 「wallstat」を活用し従来の地震波による住宅の損傷を解析して構造計算に取り入れることで、実際に 兵庫県南部地震の地震動(JMA神戸)の1.75倍~2 倍の地震波が襲っても倒壊しない耐震性能を備える住宅を商品化している。2018年には本社の近くに耐震研究所を開設し、実際の地震波の振動を一般の人 たちが体験できる設備を導入した。
同社技術企画開発部長の鈴木強さんは「わずかなコストアップで耐震性能が向上し、住まい手に大きな安心を提供できる差別化が図れるにも関わらず、 耐震基準をぎりぎりでクリアする家づくりが行われてきた。これからの家づくりでは、大地震で『倒壊するか・しないか』ではなく『損傷をいかに低減するか』が基準となる」とし、揺れやすい地盤については「品確法の耐震等級3では十分とはいえない」と語る。
今年7月、益田建設と工務店フォーラム、白山工業(東京都府中市)との共同提案による「次世代優良住宅耐震システム」が国土交通省の補助事業(住宅生産 技術イノベーション促進事業)として採択された。システム構築と実証実験の成果を工務店などに提供することになる。システムの特徴は、クラウド型の地震計を住宅の各階に設置し、地震時のそれぞれのデータを一元化し、地震動によって「どこがどれだけ壊れるか」を正確に把握できること(損傷解析)。さらに「どこをどう直せば強くなるか(損傷復旧)」も判断できる。工務店など50社が参加する工務店フォーラムでは解析システムの開発やシステム設計を行い、参加する工務店などに対しモデルを提供する。省エネ住宅の普及にもつながる考え方で、鈴木さんは講演ではこうした高性能な住宅開発の現状を解説する。
会社プロフィール
【会社紹介】
1977年9月設立。2005年に免震基礎工法を開発。高い耐震性能を持つ「タフハウス」でハウス・オブ・ザ・エナジー1018を受賞。2018年には八潮市南後谷に耐震研究所を新設した。工務店が参加する工務店フォーラムを設立している。
【社員数】
55人
【年間新築件数】
木造注文住宅の「イデアホーム」ほか新築住宅85棟。木造建築のほか、SRC造、RC造、S造の設計・施工などを手掛ける。
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
年間売上は20億円
鷲見 昌己氏
中島工務店 (岐阜県中津川市)
取締役関西統括
中島工務店が開設した「億邸」モデルハウス『yakata』 (大阪府箕面市・彩都ニュータウン)
中島工務店は、岐阜県中津川市の加子母エリア(旧加子母村)に本社を置き、公共土木・建築工事、住宅・社寺建築を手掛ける。過疎化が進む地域の雇用を確保するため、地域に根差す建設業として責任感を持ち、「できることは全て自分たちの手で、 自分たちの商売として」をモットーに、コンクリート製造や構造材・造作材加工といった建設・建設関連事業をはじめ、地元の特産品販売や農業なども手掛ける、地域ぐるみの多角経営を行っている。
そんな同社が今年4月、大阪府箕面市の彩都ニュータウン内に完成させたのが、富裕層向けのモデルハウス「yakata(やかた)」だ。最高等級の無節柾目材をふんだんに使い、高度な匠の技を身につけた大工・左 官・表具・板金・瓦・庭の各職人の洗練された「手しごと」を存分に生かしてつくった。構造設計は山辺豊 彦さん、設計監修は栗林賢次建築研究所、インテリアにはデザイン専門の事務所と連携し、自社の強みを最大限に生かしながら、新たな暮らしの付加価値の提案に挑戦している。
販売想定価格は1億8000万円。50畳のリビング・ダイニングは大胆かつ繊細な木の架構をあらわしに、大パノラマの高性能木製窓の先には日本庭園が広がる。 輻射式冷暖房・薪ストーブ、最高級の無垢材と自然石タイルに囲まれた浴室、絨毯敷きのラグジュアリーな寝室、オーダーメイドのキッチンと飛騨家具、高級音響設備を備えた空間はリゾートホテルのよう。
同社はこの「億邸」モデルハウスにより、これまで高級マンションを購入してきた富裕層に新たに生まれつつある「戸建て志向」のニーズをつかみ、地域工務店としての新たなブランド戦略を構築しながら、地元・加子母の林業・建築業の付加価値を高めて次世代に引き継ぐ起爆剤にしたい考えだ。
会社プロフィール
【会社紹介】
1956年設立。岐阜県中津川市加子母を置き、土木工事、公共建築工事、住宅建築、社寺建築を手掛ける。住宅事業では1985年から地元産の木材・職人を直送して全国各地で家づくり「産直住宅」を開始。地元岐阜県の地域の木材や職人を活かした家づくりに奔走する。
【社員数】
新築・増改築・社寺・公共あわせ250人(関西エリアは17人)
【年間新築件数】
38棟新築・増改築・社寺・公共あわせ38棟
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
現在岐阜、東京、愛知、大阪・神戸に合計10の支店・営業所を展開する。全従業員250人。年間売上約68.7億円。このうち関西エリアは従業員数17名、新築・増改築・社寺・公共あわせ38棟、売上12億円(2019年6月時点)。
木村 真二氏
PASSIVE DESIGN COME HOME (愛知県名古屋市)代表取締役
木村さんがコンサルティングする奈良・あおぞらホームの新モデ ルハウス。設計も木村さんが手掛け
PASSIVE DESIGN COME HOMEは、2018年に設立した新しい会社だ。高付加価値の家づくりを追求しようと独立した代表の木村真二さんが、若手設計者と2人で、ミニマム組織による工務店経営に挑戦している。
木村さんは、もともと老舗建設会社の戸建て住宅 事業部のトップとして、高断熱高気密をベースに太陽光・熱、自然通風を生かすパッシブデザインを採用して、ダイナミックな木質ラーメン構造と洗練したデザインでまとめ上げる家づくりを実践。同時に営業、設計の若手社員をゼロから育てながら、要求レベルの高い顧客に応えるチームづくりを主導してきた。
木村さんがミニマム組織の新会社で実現を目指すのは、1棟単価が高く社員1人当たりの粗利が大きい、生産性の高い家づくりと経営だ。目標とする事業モデルでは、1棟4000万円・粗利率30%の住宅を、社員4人で年間10棟受注し、1人当たりの粗利を3000万円確保することを想定する。一方、木村さんが考える「一般的な工務店」が、1棟2300万円で粗利率28%の住宅 を社員30人で年間40棟受注した場合の1人当たりの粗利は約860万円。「その差は歴然としている」(木村さん)。
同社は設立1年で、すでに4棟を受注。ハウスメーカーに不満を抱える人が顧客になるケースが多いという。木村さんは自社の状況について「競合が少なく、濃いお客様が多い。一邸に時間をかけることができ、スタッフは早く帰れるから、モチベーションが高く、優秀な若手人材を採用できる」と説明、「これから工務店が存在感を持って持続経営をしていくための王道になる」と考える。
ミライセッションでは木村さんが、自社と、現在自身のコンサルティングによって進化を遂げている他の工務店の事例を紹介する。
会社プロフィール
【会社紹介】
木村真二氏により2018年設立。自らパッシブデザイン設計を強みとする注文住宅を提供しながら、全国各地の住宅会社にコンサルティングも手がける
【社員数】
スタッフ2名
【年間新築件数】
年間新築3棟
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
年間売上2億4500万円(2019年9月現在)
小山 貴史氏
エコワークス (福岡市)代表取締役社長
自社で設定した「5.ジェンダー平等を実現しよう」のKPI達成に 向け、より女性のライフスタイルに合わせた働き方を選択できる会社へ
「環境活動」を通じての社会貢献を目指すエコワークスは、今年2月にSDGsへの取り組みを本格化させると宣言。SDGsで設定された17のゴールを優先順位 (重要度)ごとに分け、自社事業に沿ったKPIを設定したり、学生向けの「SDGs体験型インターンシップ」を開催したりと、住宅業界の“SDGsパイオニア企業”として業界を先導している。同社社長の小山貴史さんは、「SDGsは企業価値の向上や事業承継に有効に作用 し、工務店経営にも多大なメリットをもたらす」と説く。
同社では17のゴールを「最重点ゴール」「重点ゴール」「準重点ゴール」「通常ゴール」の4段階に区分。各ゴール と169のターゲットとの関係性を整理・分類した一覧表を作成し、社内で活用している。最重点ゴールには「自社の強みを伸ばせる」ゴールを、重点ゴールには「自社の弱みを克服する」ためのゴールを分類。準重点ゴールには「既存事業と関連が強い」ゴールを、「既存事業にあてはめにくい」ゴールは、社員一人ひとりが普段の暮らしを通じて実践する通常ゴールに分類した。
例えば、17のゴールのうち「5.ジェンダー平等を実現しよう」は重点ゴールに分類。KPIは「女性社員および新任の女性管理職の比率(いずれも2030年までに約50%)」と設定した。策定時点で正社員の約3割は女性で、産休・育休制度もあったが、さらに多様な働き方ができるよう、時短・在宅勤務制度を新設。7月には「女性活躍プロジェクトチーム」が発足するなど、社内のSDGs に向けた動きも活発化している。 小山さんはSDGsを「社長の考える自社の企業価値を社員と共有するための共通言語」だと捉えており、「利益よりももっと経営の本質的な部分に、工務店がSDGsを実践する意味がある」と話す。
会社プロフィール
【会社紹介】
2004年設立。「住まいづくりは“暮らしづくり”であり、“生き方づくり”でもある」という考えのもと、家族が健康で心豊かに暮らせる住宅を手掛けつつ、社名に冠する「環境活動(Eco Works)」を通じての社会貢献を目指す。
【社員数】
約70人
【年間新築件数】
新築70棟・リノベ23棟(2018年度)
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
平均単価:80~90万円/坪
年間売上:30億円(2018年度)
設立 :2004年
戎谷 純一氏
アトリエデフ (長野県上田市) 専務・建築事業部長
自社で設定した「5.ジェンダー平等を実現しよう」のKPI達成に 向け、より女性のライフスタイルに合わせた働き方を選択できる会社へ
「日本の山を守り育てる」という企業理念を掲げるアトリエデフは、SDGsやサーキュラーエコノミーといった持続可能な社会・経済の実現を目指す概念を経営の 軸に明確に位置付け、建築(住宅)、家具、リノベーションの3つの事業を展開する。豊かな自然とロケーションに恵まれた長野県の八ケ岳山ろくに主要拠点を構え、 環境保全や社会貢献に積極的に取り組みながら、伝統 的な大工の技術や土壁など天然の素材にこだわり抜いた家づくりにより「コアなファン」を獲得している。
長野県が今年4月開始した「SDGs推進企業登録制度」 に参加する一方で、9月には自社が中核メンバーとなりながら幅広い分野(業種)の企業が参画するサーキュラーエコノミー・ジャパンを設立。自社のあらゆる事業を、循環型経済の実現を目指す枠組みに当てはめて行う試み を実践中だ。その一環として近く、自社で製作する国産材の家具を店舗向けにリースする“循環型ビジネス”を新たにスタートする。
同社専務・建築事業部長の戎谷純一さんは自社の家づくりについて、「日本の木と土を使い、大工の伝統的な技術を存分に生かし、“技術・環境が循環する家”を目指している」と語る。家づくりの素材として、燻煙乾燥した国産材や、自社の土場で汚染されていない土と無農薬のワラで生産する壁土、国産間伐材でつくる木質繊維断熱材、 減農薬のイグサを用いたワラ床の畳を用いるなど、そのこだわりは徹底している。「建築も家具も、リノベも山を守り育てるための手段だと考えている」と戎谷さんは話す。
同社は、“循環する暮らし(環境と人に配慮した暮らし)”を一般の人たちに伝える活動にも力を注ぐ。地域の森の整備(下草刈り・間伐・植林)や畑づくり(ソバ・豆)などに多くの人を巻き込みながら自社の理念や 家、暮らしへの思いを伝えている。
※サ ーキュラーエコノミー: 持続可能な社会を実 現するための経済シ ステムと経済活動に 関する産業モデル。 経済成長と環境負荷 低減を両立するため の国際的・協調的な 取り組み
会社プロフィール
【会社紹介】
1996年設立。「日本の山を守り育てる」を経営理念に掲げ、「うれしく・たのしく・しあわせに」を社訓に。住まい手の方に安心安全な暮らしを提案し、環境にも負荷をかけない徹底した家づくりを提供する。
【社員数】
30人
【年間新築件数】
新築35棟、改修10件
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
平均単価:新築85万円/坪、リフォーム65万円/件
年間売上:10億円
杉浦かつこ氏
ビッグアイ (千葉県習志野市) 代表取締役
イベント当日の様子。犬と楽しそうに遊ぶ人々のすぐそばには、 SDGsのぼり旗が立ち並ぶ
リフォーム会社・ビッグアイは今年5月、SDGsをPRするイベント「幕張ベイタウンドッグフェス2019」を開催した。会場には愛犬と楽しみながら自然にSDGsを学べる仕掛けを随所に設け、自社のターゲットでもある900人超の“地域の犬好きな人々”へのSDGs啓蒙に成功。同社社長の杉浦かつこさんは「身近な存在である“犬”を通じて、地域の集まる場を提供し活性化を促すことで、SDGsのゴールの1つに貢献できると考えた」と話す。
イベント当日は、会場の至るところにSDGsのカラフルなロゴが入ったのぼり旗を立てたり、運営スタッフはSDGsロゴが描かれたTシャツを着て対応するなど、自然と参加者の目にSDGsロゴが入る環境づくりを徹底。 17のゴールを丸いシールにした「SDGsシールラリー」も行い、「これはなんのマークだろう?」という切り口から参加者が楽しくSDGsを学べるような工夫を凝らした。
実は杉浦さんは昨年末まで、SDGsを全く知らなかった。SDGsに取り組み始めたきっかけは、昨年11月に幕張ベイタウンに新事務所をオープンした際、「地域にいわゆる高級犬を散歩させている人が多い」と気づいた杉浦さんが試しに愛犬を連れてきたところ、それに気づいた地域の人が吸い寄せられるように集まってきたから。 時を同じくしてSDGsの存在を経営者仲間から聞いていた杉浦さんは、「もしかしたら犬を通じて『11.住み続けられるまちづくり』に貢献できるかも!」と考えた。
今年2月には、杉浦さん自らペットサロンなど地域の中小企業経営者に声をかけ、幕張ベイタウンを中心にSDGs啓発活動を行う団体「BSC(Baytown SDGs Creation)」を結成、同イベントを成功へと導いた。今後もSDGs活動を続け、地域の中で17のゴールすべての達成を目指す方針だ。
会社プロフィール
【会社紹介】
1984年設立。幕張ベイタウンに住む約9000世帯という小商圏のリフォームに特化。集合住宅の深耕型リフォームや社員教育などが評価され、2017年に「ジェルコリフォームコンテストビジネスモデル部門・経済産業大臣賞」を受賞。
【社員数】
11人
【年間新築件数】
リフォーム300件
【基本情報(年間売上、平均単価など)】
年間売上:2.4億円
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