鈴木 岳紀氏
コスモホーム (愛知県名古屋市) 代表取締役
コスモスタイルの住宅事例
コスモホーム社長の鈴木岳紀さんは、生産性向上や効率化には業務や商品(住宅)の“標準化”が必須と考える。鈴木さんによると標準化のゴールは「利益率の確保」だ。住宅の平均単価が下がる中でも利益をキープするために標準化が効く。「利益がなければサステナブルな経営はない」と鈴木さんは力を込める。
同社は、標準化の一環としてチームごとに担当棟数を設けながら、安定経営につなげている。同社では営業・設計・施工による3人のチームが年間に手掛ける棟数を10棟と決めている。これは特定のスタッフに依存しないという同社の経営方針の表れでもあり、「誰でもできる」社内体制こそが経営を安定させるという考え方がベースとなっている。
同社では、このチーム制を有効に機能させるために、特に社員教育とチームづくりに力を注ぐ。例えば その一つが、小さい規模の会社でもスタートさせやすい月1回の幹部会だ。鈴木さんや設計、営業、施工および経理の幹部が定期的に顔を突き合わせ話し合いを行うことで、考えを共有している。
プランを限定し、価値観の合う顧客に的確に訴求 している点も標準化の効果の表れだ。「コスモスタイル」と呼ばれる家づくりでは、2180万~2900万円までの価格帯の住宅プランと規格住宅を合わせた計9種類のラインアップを用意。顧客の予算を踏まえたシンプルな商品構成が、営業的な強みになっている。
一定の集客と成約数を実現している理由は、トレンドとニーズを照らし合わせてプランを決め、ブラッシュアップしているところにある。「常にプランと顧客(ニーズ)がマッチするかを見ている」と 話す鈴木さんは、平均予算が低下する中でプランが小型になれば、それに合わせてキッチンとダイニングの距離を調整するといった、きめ細かな対応をとっている。
会社プロフィール
会社紹介/チームによる担当棟数と、社員教育によるチームづくりを根幹にした社内体制で安定経営を実現している工務店。限定したプランの中で、価値観の合う顧客にどう訴求しているのかにも注目したい。
社員数/10人
年間新築件数/新築25~30棟ほか
古川 和茂氏
ディテールホーム (坂井建設・新潟市)
マーケティング部・WEBディレクター
データを分析して最適化、効率的な業務を目指している
「将来的には、業務のすべてをペーパーレスにして、社員と職人の負担を軽減したい」。ディテールホームでWEB担当・マーケティングディレクターと して手腕を振るう古川和茂さんは、そう話す。古川さんは、業務を効率的に行い、社員の負担を軽減す るための仕組みづくりと標準化に取り組んできた。
顧客情報を生かした営業のシステム化も、その一つ。最初に直面した課題は「とにかくデータがない」ということだった。「当時導入していたCRM(顧客管理システム)が使いにくく社員が必要最低限でしか利用できていなかった。そのため顧客とやり取りしてもデータが蓄積されず、(マーケティングのための)分析ができなかった」と振り返る。
そこで、直感的に使いやすくデザインされたCRMに 変更したところ、すぐに活用されるようになったという。蓄積されたデータをもとに、エクセルも使いながら分析、「どのような顧客に対し、どのような商品だと成約率が高いのか」といった傾向を導き出す。現在は、その分析結果をもとに広告運用の最適化などにも取り組む。大手住宅サイトでも新潟県内閲覧数トップを記録しており、3年前に比べると問い合わせ数は約10倍になっているという。
現場の効率化も進める。古川さんは「住宅業界でアナログ的な感覚は根強く、例えば現場監督と職人が電話で話す必要がない案件でも、いちいち電話で会話をしている」と指摘。そこで自社の社員と職人との コミュニケーションをスマホを使ったシステムにより効率化した。職人による活用を促すために、安全大会を開催して説明会を実施。導入後は、システムを使いこなせている特定の社員と職人の事例をモデルケースとして示しながら、他の社員や各業種の職人たちに浸透させていった。「便利そうだな、使ってみようかなという雰囲気づくりが大切」と古川さんは話す。
会社プロフィール
会社紹介/地場中堅ゼネコンとして歴史を持つ一方、高い施工力と集客力のあるデザインで近年は住宅事業が成長を牽引する。社員数も増加し新潟県内で多店舗展開する中で、標準化やツール導入を進めている点に注目だ。
社員数/78人
年間新築件数/新築170~180棟ほか
渡辺 洋一郎氏
坂井建設 (大分県大分市)i-DEAR事業部マネージャー
各事業部横断で構成する「IT促進委員会」は週1回開催。各部署の代表者から「枝分かれ方式」で部署内に落とし込まれる
坂井建設i-DEAR事業部マネージャーの渡辺洋一郎さんは今後、「働き方デザイナー」としての活動を本格化させる。自社の実績やノウハウを生かして、他の地域工務店の支援にも乗り出す考えで「工務店業全体の働き方の概念を変えていきたい」と意気込む。
働き方に対する「概念の改革」を全社員で行い、常態化していた長時間労働を是正し、それによる大幅な生産性向上を実現した同社の取り組みの中心的な役割を担ったのが渡辺さんだ。
改革前の2017年の残業時間・月平均48時間に対し、改革後の18年4月は36時間を切り、さらに同年8月に は30時間を下回った。残業時間が最長だった17年9月の50時間に比べ、約40%も減少した。社員1人当たりの年間労働時間が17年7月時点の約3100時間から18 年同月には約2600時間まで減少しているにもかかわらず、年間売上高は17年の14億5000万円に対し18年は 14億6000万円と増えた。渡辺さんは「労働時間が減ったのにも関わらず売り上げが増加しているのは生産性が向上した証」と説明する。今年については計測中だ が、いまのところ労働時間は前年度並みなのに対し、売り上げは増加する見通しだ。
同社は社内の全職種でITを活用し◇ものを探す時間◇移動時間◇書類作成時間◇会議時間―を削減。1時間当たりの生産性(利益/時間)を向上させ、利益に直結する「フロントオフィス(営業活動、顧客と直接対話する業務)」に充てる時間を増やした。
渡辺さんは「ツールやシステムを全社的に浸透させ、全体のパフォーマンスを向上させることが大切」とポイントを指摘する。同社ではツールの運用 を全部署で標準化するため2017年11月に「IT促進委員会」を設置。各部署の代表1人が、週1回開催の勉強会に出席し、そこで学んだことを自部署に落とし込む形で、ITリテラシーの低い社員に対しても目的やツール操作について丁寧に伝えた。
濵松 和夫氏
浜松建設 (長崎県諫早市) 代表取締役
ITツールによる業務効率化は「目的ではなく手段」(濵松さん)。情報共有が進むことで生産性が向上し、 それによって顧客と直接対話する時間を増やすことで、「結果的に顧客満足度を上げることにつながる」ことが 最終的なゴールだ。
ITツールにより全職種で一律に情報共有を標準化することで、社内 の“情報格差”を解消
ITツールで働き方も変わった。社員がパソコン、スマートフォン、タブレットにより、クラウド上で必要な情報や資料を共有し、日報も管理。濵松さんは「施工管理や取引先への発注・請求・支払、引き渡し後の顧客管理など、ITツールで一元管理することで圧倒的に労働時間が減り、働き方を変えることにもつながった」と話す。今年8月、九州北部を襲った猛烈な雨で、本社がある諫早市一帯が一時停電した際には、社員がそれぞれインターネットでクラウドにアクセスしながら、在宅で滞りなく通常業務を進めたという。
IT化により、精度の高い顧客管理の仕組みも構築し、見込み客などを対象に独自のランク付けも行う。 例えば展示場に来場した顧客で、アポイントは取れていないが、アンケートの回答率が高く、「一定の見込みがある」と判断すれば、ランクアップさせるといった具合に基準を定めている。土地探しやリフォームについても独自の基準を設置・運用する。
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