一般社団法人・全国木造建設事業協会(全木協)の東京支部である東京都協会は、7月11日に開いた定期総会で、岡山支部の岡山県建築工事業協会会長・綾野義高氏(綾野工務店常務)を招き、昨年岡山・広島・愛媛をはじめ11府県に大きな被害をもたらした西日本豪雨災害の際、岡山県における木造応急仮設住宅供給の実例から学ぶ報告会を聞いた。
講演では、被災後に岡山県と全木協が災害協定を締結した2018年7月30日から、仮設住宅全57戸(および談話室2戸)の完成引き渡しまでの約2カ月間にわたる過程を、綾野会長が図面資料や写真を紹介しながら当時の様子を振り返った。
引き渡しまで疾走の2カ月
全木協は、全国の地域工務店でつくる(一社)JBN・全国工務店協会と、全国の建設労働者・職人でつくる全国建設労働組合総連合(全建総連)の2団体により、2011年9月に発足した団体。地元建設事業者による木造応急仮設住宅供給を担う組織として、東日本大震災で928戸、2016年熊本地震で563戸、昨年の西日本豪雨災害でも愛媛164戸、岡山57戸、広島31戸の木造応急仮設住宅を供給した実績をもつ。今年7月時点で35都道府県と5つの政令指定都市で災害協定締結を完了し、大規模災害時の応急仮設住宅供給の担い手として定着しつつある。
今回の講演では、岡山県内で供給された建設型仮設住宅312戸のうち、全木協が木造在来軸組工法で供給した57戸の取り組みについて報告した。岡山県内の建設型仮設住宅はこのほか、プレハブ住宅158戸、福島県から移築した木造46戸、トレーラーハウス51戸ある。今年6月末時点の入居数は、建設型が259戸(607人)、民間賃貸や公営住宅を活用した借上型が7203戸(6596人)となっている。
岡山県と全木協は、災害前から災害協定の調整をしていたものの、締結には至っておらず、建設候補地の選定、配置計画、仕様図面、金額など必要書類の整備は、7月30日の災害協定締結後にゼロからスタートとなった。
8月2日、プレハブ住宅では建築が困難と判断された2団地について、全木協、岡山県、国交省の職員立ち会いのもと、現地測量を実施。熊本や広島の全木協支部と連携を取りながら作成した仕様図面、見積金額を9日に県に提出した。プレハブ住宅を建築する県内の他団地が9日から次々と着工するなか、全木協が県から工事着手決定の連絡を受けたのは11日夜。これを受け8月15日に木杭打ちを着工し、9月24日までの竣工に向けて猛スピードで工事に取り掛かった。
建築工程の大半を占める木工事の人手は、全建総連の「労働者供給事業」を活用した。全建総連が被災県を中心に全国の組合員に大工応援を呼びかけたところ、岡山県では総勢126人(県内68人・県外58人)の大工が名乗りを上げ、8月23日から9月12日頃まで約20日間で約1400~1500人工(1戸あたり平均約1.25人工)を担った。
そのほか電気・水道・板金・足場・内装・外構などの業者は幹事工務店らによる地元の直接雇用と自社社員でまかない、9月24日に全57戸を無事竣工、29日に被災者に引き渡しを完了した。建物総工費は、2年後の解体・復旧費を含めて総額で約5億5369万8806円(税込み)となった。
実体験を仲間の教訓に
綾野会長は、今回のプロジェクトで苦労したこととして、短工期のプレッシャー、電気・水道事業者はじめ職人の確保、資材調達と価格交渉、現場効率化のためのチーム統制、などを挙げた。
とくに木工事では2団地で70人以上の職人が一斉に作業する中、効率よい現場運営のしくみがカギとなった。毎朝8時の作業開始前に朝礼を行い、班振分けや一日の作業確認をした。職人から意見や提案も聞き、決定事項を全員に伝達した。現場生産効率化を図るため、木工事は各3人1チームで行い、各団地には現場監督2人のほか、大工から職長1人を指名して全体の総監督を担ってもらった。
また同じ杉板を内装床・巾木・外壁で兼用する、使用する釘・ビスの種別と用途を一覧表にして職人に配布し誤施工を防ぐなど、これまでに経験を積んだ工務店から学んだ効率化の工夫も取り入れたという。
綾野会長は「被災者の方に木造住宅の良さを実感してほしいという思いで、短工期のなかで職人が精一杯仕事をしてくれ、入居した被災者からも喜んでもらえた」と自信をみせた。また「改善すべき点は多くある」としながら「失敗も含めて当時の体験を包み隠さず共有することで、将来全国の工務店の仲間が災害にあったときに少しでも教訓になればうれしい」と講演を締めくくった。
■全国木造建設事業協会(全木協)http://www.zenmokkyo.jp/
■JBN・全国工務店協会 https://www.jbn-support.jp/
■全国建設労働組合総連合(全建総連)http://www.zenkensoren.org/
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