アンモニア臭もタバコ臭も
—消臭や調湿といったシラス壁特有の機能性もよく知られるようになりました。
新留 じつは機能性に関しては、お客様に気づかせてもらったんです。あるとき大阪のお客様から電話がかかってきて「工務店にすすめられて『薩摩中霧島壁』を塗ったら、ヒノキのにおいがしなくなっちゃったよ」と。最初は冗談だと思っていたのですが、そういう声をあまりにも聞くので、発売後1年経った頃に研究機関でデータを取り始め、消臭・調湿機能があることがわかりました。
地元では畜舎のにおい消しのためにシラスをまいていたそうなので、昔の人はその消臭機能に気づいていたんでしょうね。
シラス壁のおかげでトイレの換気扇を回さなくなったとか、ご夫婦ともヘビースモーカーなのにいつ行ってもタバコのにおいがしなくなったとか、シラス壁にまつわる面白い話はいっぱいあります。
新留 ほかにも、船乗りの人が初めて陸で安眠できたとか、アトピーやぜん息の症状がおさまったとか、園児がカゼをひかなくなったとか…。子どもやお年寄り、心身が弱っている人ほど五感が鋭く、シラス壁特有の機能が体感でわかるようです。
20年以上使い続ける理由
—これだけいろんな材料があるなかで、シラス壁を使い続ける理由は?
伊礼 やっぱりいい素材だって思っているんです。100%自然素材というのが一番大きな理由でしょうか。
それから質感。独立前にお世話になった建築家の丸谷博男さんは「質感が良くないとダメだ」と口癖のように言っていましたが、僕もまさにそう思うんです。予算がない場合は水性ペイントを選んだりもしますが、それでも㎡当たり2000円。家1棟で考えると、プラス十数万円でこの質感と健康が得られるなら断然シラス壁がいい、となります。
さらに言うと、発売直後から使い続けている相羽建設の功績も大きいと思います。僕は相羽さんと、設計や施工のいろんな標準化に取り組んできましたが、あそこは色も標準化しているんですね。そうすると、前の現場で余ったシラス壁を次の現場でも使えるからムダが出ず、他よりも安く安定的に左官の壁を提案できる。とても賢いやり方だと思います。
自分の設計に合っている
新留 そういえば昨年は、工務店さんからの要望に応えて『薩摩中霧島壁』のカラーバリエーションにいわゆる「伊礼色」を復活させました。一番濃い、聚楽壁のような雰囲気の色ですね。
伊礼 ええ、伝統的な和の空間に近い色です。白華が目立つので、リスクも一番大きい。だから安易に真似すると痛い目にあいます(笑)。 「伊礼色」などと言われるのは気恥かしいのですが、それだけシラス壁が自分の設計にはなくてはならないもの、作風のひとつになっているのはとてもありがたいことです。
いまはみんな、性能や省エネのために計算しながら窓の大きさを決めますが、それだと明かる過ぎるんです。日射取得の塩梅はよくても、気持ちいい空間とはまた違う。だから、開口部を絞って感覚的な心地よさを重視する僕の設計とシラス壁はとても合っているんでしょうね。
エアコン使用を3割減らす「蓄熱するシラス壁」を開発
—20年間、改善と進化を続けてこられたんですね。
新留 ええ、シラス壁はかなりの進化を遂げています。最近だと、エアコンの電気使用量を33%減らすシラス壁を開発し、量産体制に入るところです。簡単に言うと、壁や天井に蓄熱機能を持たせ、たとえば室内が25度を超えると壁や天井で熱を奪って空気を冷やす—そんな働きをしてくれます。
伊礼 じつは同じようなことができないかなと考えていたときに、高千穂シラスさんがすでにそういう商品を開発していると聞いて驚きました。6月にオープンする茨城県つくば市にあるモデルハウスの1室で試し塗りをさせてもらったので、効果が楽しみです。
新留 断熱じゃなく、蓄熱というところがポイントで、この発想にも奥村昭雄さんの教えが潜んでいます。
それから、病院や学校、飲食店など非住宅分野への挑戦も始めていますし、農業・芸術分野にも活動を広げています。米栽培や豚の飼育にシラスを活用したり、100%自然素材にこだわったシラス絵の具を東京芸大と協力してつくったり…。さらには、ナノ分野で特許を2つ取りました。1つは、ボーイング787の窓で使われているような、透光量を調節する技術。もう1つはレンズを曇らせない技術で、内視鏡カメラでの応用が非常に注目されています。
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