アキュラホーム(東京都新宿区)住生活研究所が事務局を務める「住まい手が参加する住まいと住環境づくりの意味と実践」研究会(住まい手参加研究会)は3月18日、「人と人とのつながり」に焦点をあて、その中で生まれる住まいづくりについて考えるシンポジウム「つながり志向時代の住まいづくり」を都内で開催した。
同研究会は、アキュラホーム住生活研究所が昨年立ち上げ、3年間をめどに住まい手が参加する家づくりと多様化する価値観やニーズを調査するもの。東京大学大学院工学系研究科建築学科専攻特任教授の松村秀一氏を座長に迎え、法政大学デザイン工学部建築学科教授の岩佐明彦氏、長岡造形大学理事長の水流潤太郎氏、アキュラホーム住生活研究所長の伊藤圭子氏とアキュラホーム社員8名で構成する。
シンポジウム前半のリレー講演でトップバッターを務めた岩佐氏は、「作りながらつながる住まいづくり」と題し、2004年10月に発生した中越地震において、被災者の応急仮設住宅での暮らしに見られた「住みこなし」(住まいの工夫・改造)が、被災地で求められる「コミュニケーション」のきっかけとなり、やがて「役割の再発見」と「生きがい」につながったことを紹介。こうした「作ること」と「つながること」の相互補完的な関係が、さらに昨今のインターネットやSNSの発展によって高められ、世界で同時に広がっていく「スパイラルアップ」の時代になっているとの認識を示した。
次いで、水流氏は「つながり志向が生まれている時代背景について考える」として、自身が関わる新潟県長岡市でのアパートリノベーション「楽住創プロジェクト」や機那サフラン酒本舗の蔵を活用した「ミライ発酵本舗」の取り組みなどを紹介。「ソーシャル」「シェア」といった考え方や「遊び心」のある取り組みが広がる中で、時代の流れは「自立した身近で安心な生活システムへ」「自己充足的な時間の使い方を大切にした生き方へ」「科学技術に流されない人間らしい活動へ」と向かっているとの考えを語った。
松村氏は、「『遊び』でつながる住まいづくり」と題し、長野市善光寺門前で倉石智典氏が中心となって進めるエリアリノベーションの成功例や、NPO南房総リパブリックが開催した古民家の断熱リノベワークショップに多くの参加者が集まった事例など「つながり」を醸成する新たな動き、さらに現代アーティストの西村雄輔氏が2006年から始めた旧織物工場のリノベーションプロジェクト「yamajiorimono works2006」の例を挙げ、こうした事象に共通して見られる「遊び」の要素を軸に「時代は動いている」と語った。
後半のパネルディスカッションでは、講師3氏に駒沢女子大学人間総合学群住空間デザイン学類助教の山崎陽菜氏を加えて、リノベーションの現状や課題などを議論。水流氏から松村氏に対して、「(リノベーションなど住まい手参加型の家づくりは、従来の住宅産業のような)普遍化・システム化して、普及させるかたちとは違うアプローチをしなければならない。住まい手の価値意識はそちらにシフトしつつある面が強いと思うが、行政や企業はこれに対してどう向かっていけばいいのか」と質問。
これに対して、松村氏は「リノベーションの世界は、大きな企業の意思決定メカニズムではどうにもならない。リノベーションという生き方が変わっていくムーブメントのようなビジネスに対して、比較的若い世代の社員の能力、知識、関心を引き出せる組織構造になっていないのが問題。若い社員の能力を引き出すための、ある種のチームを作るとか、別会社を作るとか、そういうことをしないと、なかなか踏み込むことは難しいと思う」と答えた。
同じ質問を受けて、岩佐氏は「私の学生たちはリノベーションに非常に興味があり、関わりたいという人が多い。一方で、リノベーションの世界で活躍する人は意外と建築をバックグラウンドにしていない人が多い。建築の学生も図面の引き方を覚えただけでは通用しなくなっており、そこが学生たちの不安の種にもなっている。社会構造が大きく変わっていく中で、従来的な仕組みではうまくいかなくなっている端的な例なのではないかと思う」との考えを示した。
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