東京大学・前真之サステイナブルデザイン研究室、フラウンホーファー建築物理研究所(IBP、ドイツ・シュトゥットガルト)、イーアイ(東京都港区)の3者が主催する「IBP-WUFIセミナー2018」が11月21日、東京大学で開催された。建築を志す学生や建築実務者を対象としたもので、フラウンホーファー建築物理研究所の田中絵梨氏が来日し、非定常熱湿気同時移動解析プログラム「WUFI(ヴーフィ)」を用いた防湿対策の有効性を議論した。
田中氏は「高気密・高断熱化に防湿計画は欠かせない!〜イマドキの防湿計画〜」をテーマに、ドイツでの研究の中で見られた建物への湿気の害の事例や、防湿対策における非定常計算の有効性を解説。WUFIを用いたシミュレーションによる検証例を示し、非定常計算によって住宅性能の経時変化をより正確に把握し、湿気の影響を考慮した住宅を実現できることを示した。また、欧米諸国では非定常計算を規格に取り入れて義務化していることを紹介し、「こうした基準を日本でも作る必要があると感じている」と考えを語った。
田中氏は、日本の住宅事情として、エネルギーに比べて湿気への関心が低いことや、その原因として湿気の情報自体に触れていないと考えられることを指摘。その上で、実務者に向けて「WUFIを使って住まい方や気象条件に合わせたコンサルティングを行うことで、施主の満足度を高めることができる」と、一般ユーザーへの情報提供サービスとしてWUFIの活用を提案した。
また、建築を志す学生には、WUFIの無償ライセンスを提供していることを紹介し、「住宅会社1社に1人くらい湿気の専門家がいることが望ましい。就職したときにWUFIを使えたら有利だと思う。論文などでぜひ活用してほしい」とエールを送った。
田中氏の講演に先立って登壇した東大工学部建築学科准教授の前真之氏は、「日本人は、家づくりの冬の対策で重視したことを施主に聞くと、日当たりが7割を占める。この思いを設計で実現して価値につなげることが大事。非定常の温度シミュレーションによって自然室温を計算し、丁寧な設計をしていくことは有効で、一般ユーザーにも分かりやすい」「断熱化に真面目に取り組み、冬の暖かさは確保できるようになったが、(室内空気の)乾燥が問題になっている。乾燥の問題を解決するヒントがWUFIにあれば大変ありがたい」と期待を語った。
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