2019年はどうなる?
1.消費増税の影響と対策
再々延期はないか?
足下では、2019年10月に予定されている消費増税への対策が必要です。
消費増税は再々延期も予想されていましたが、安倍首相が2018年10月の閣議で増税を表明したことで、増税実施は既定路線となったように見えます。
ただしその際も「引き上げる予定」と「予定」という言葉を使っているうえ、「リーマン・ショック級の事態が起こらない限り」との条件が付く点も変わりません。実施を断言しているわけではないということです。
政府としても増税緩和策を準備する期間が必要なため、これ以降の再々延期はないと考えるのが妥当ですが、延期になったらどうするかという「Bプラン」も準備しておくべきでしょう。
ただしここでは、増税実施を前提にそのインパクトを考えます。
駆け込みは起きるか?
2018年8月までの新設住宅着工統計を見る限り、持家でも分譲でも駆け込み的動きは認めることができません。
今後駆け込みは起きるのか。
税率が8%から10%になった場合、2000万円の建物だと差額は40万円、3000万円の建物で60万円。駆け込みが起きるかどうか微妙な差額です。
一方で、政府は増税後の負担緩和策を検討しています。
確定しているものでは「住まい給付金」があり、収入額の目安が775万円以下の方を対象に最大50万円が支給されます。「贈与税の非課税枠」も3000万円に拡大されます。
「住宅ローン減税」も増税後の拡充が検討されています。11月1日時点の案は、①減税期間の1〜5年延長、②借入残高上限の引き上げ、③控除率の引き上げ、の3点です。
「住宅エコポイント」も復活の方向です。名称は変更されるようですが、これまでどおり一定の性能を満たす新築にはポイントが付与される見込みです。
こうした緩和策がいつ確定・発表されるかは、駆け込みの規模を左右します。
今回も2019年3月31日までの請負契約物件はすべて税率8%となる特例措置が実施されるため、駆け込みが起きるとすれば2019年に入ってからが一つの山となります[図1]。
2018年末までに緩和策が確定し増税前後で損得に差がなくなることわかれば、2019年に駆け込む理由はなくなります。買い急ぎマインドを持っていた住宅取得予定者も落ち着きを見せるでしょう。
2018年度の着工は微増
前回2014年の増税時の駆け込み規模は、新設住宅着工全体で6〜7万戸と推計されています。今回は、前述のように緩和策が年内に確定・周知されれば、駆け込み規模は前回の1/2から1/4になりそうです。
ただし、駆け込みが起きても、人口減少や低金利による需要の先食いなど、着工の押し下げ要因と相殺されるため、2018年度の新設住宅着工総数自体は微増で落ち着く可能性が高いとみています。持家も対前年度比で+3%前後に留まると考えます。筆者の予測とは異なりますが、参考までに[図2]に駆け込みを見込んでいる建設経済研究所の予測を挙げておきます。
駆け込みが起きない場合、大きな反動減もないということで、駆け込みにはデメリットしかない工務店にとっては望ましい流れです。
一方、駆け込み需要を見込んでいたハウスメーカーや大規模ビルダー、資材メーカー等にとっては目標の下方修正などの対策が必要かもしれません。
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増税後は中古シフト加速
増税後の影響で大きいのが、「中古住宅シフト」の加速です。
中古住宅は仲介であれば消費税がかかりません(仲介手数料には課税)。中古住宅の割安感が大きくなるため、低予算層はもちろん、同程度の予算でより近く広い住宅を取得したい層にも魅力的な選択肢となります。
中古住宅需要が増えれば新築市場と食い合いになり、新築市場の縮小が加速します。野村総合研究所は、現在30%弱の中古住宅比率が、2030年には47.8%弱に達する、つまりは「中古住宅半分時代」が到来すると予測しているくらいです。
中古住宅シフトを見据えて、中古住宅+リノベーションをメニューに加える、ワンストップモデルを構築する、といった対策がまったなしとなっています。
「気密が大事」を説いて40年
じつは、私たちからしたら新しい話は1つもありません。1980年に木造住宅用気密シート「ダンシーツ」を発売して以来38年間、コツコツとまじめに根気よく、「気密が大事」だと言いつづけてきたのですから。
うれしいことに高気密化の重要性を正しく理解する工務店さんは着実に増えており、「日本住環境の“気密簡素化部材”を使いたい」と言っていただく機会がかなり増えました。新設着工戸数は落ちていますが、おかげさまで当社の販売シェアは毎年伸びています。
住宅にとって気密がいかに大事かがわかると、だれが施工しても確実に気密がとれる成形品は不可欠なアイテム。これを使うことで“気密の平準化”が可能になるからです。
増税後は価格競争激化
消費増税後には景気が後退し、デフレも加速するでしょう。
アベノミクスで大企業の業績と株価は上昇しましたが、その恩恵を受けないサラリーマンは実質賃金が伸びず、手取りも低迷[図3]。住宅予算にも反映され、住宅予算は下落しています。
過去を見ても、消費増税後は駆け込み需要の反動減と実質的な所得目減りによる節約志向の高まりで景気は低迷、デフレ=安いものが売れ、価格競争が加速し、企業体力が低下する状況となっています。前回増税時の家計負担増は8兆円。景気が低迷しても当然です。
今回政府は軽減税率やポイント還元制度などの緩和策を打ち出し、家計負担増を前回増税時の1/4程度の2兆円超に抑えたい考えです。ですが、10%という税率は計算しやすいこともあり、消費マインドは現在よりも節約志向となるでしょう。
住宅も同様で、前述の通りコスパが高まる中古住宅シフトが加速するほか、新築でも価格競争が激化します。売価を上げることは難しい市況が当面続くことになります。
増税後は利益確保が課題
売価を上げにくい一方で、原価の上昇要因は目白押しです。
消費増税に加え、増税時に価格改定を行う資材メーカーや流通・運送会社もあるでしょう。
延期の可能性も高まっていますが、2020年に実施予定の省エネ基準適合義務化も原価の上昇要因となります。
人手不足で職人単価も高止まりしますし、最低賃金の引き上げも続き、スタッフの給与も上げなければいけません。
働き方改革をはじめとする「ホワイトビルダー」化にも原資が必要です。 つまり消費増税後は、「売価下落・原価上昇」トレンドとなる、利益が取りにくくなり儲からなくなるということです。既存の商品を既存の売り方で売っていては、一層「レッドオーシャン」化していきます。
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2019年にやるべき3つのこと
以上から2019年にやるべきことを、①脱・レッドオーシャン、②脱・低利益、③脱・ブラックビルダー、の3点にまとめ、以下に概観します。
①脱・レッドオーシャン
「レッドオーシャン」は、固定化された市場において価格競争・サービス競争が激化する状況をいい、大半の住宅市場はまさにそうです。
レッドオーシャンでは、コスパで最強のポジションを獲れば1人勝ちも可能です。ただしこのポジションを維持することは簡単ではありません。
レッドオーシャンを脱して「ブルーオーシャン」を目指そう、と言われますがこちらも大変です。まったく新しい商品・サービスをつくる、つまり0から1をつくることは簡単ではありません。また、すぐにパクられてしまい、青い海に赤が混じっていき紫に、そしていずれは赤い海=レッドオーシャンになってしまいます。
目指したいのが「レインボーオーシャン」です[図4]。これは筆者の造語ではありませんが、面白いなと思って使っている言葉です。「見える人には見える」虹のような市場で、それゆえ独占も可能です。
例としては、超高性能住宅市場という業界が見ようとしなかった、見えなかった市場を追究、超高性能住宅をハウスメーカーよりもリーズナブルに提供することでハウスメーカー市場を奪った一条工務店を挙げることができます。同社が超高性能住宅というレインボーオーシャンを獲れたのは、「家は性能。」というキャッチフレーズで、生活者にいい家の「物差し」に気づかせた「気づかせ力」があったからです。
物差しを与え、その物差しで最強になり、その物差しで他社と比較してもらい選ばれる。これは工務店でも使える手法ですし、レインボーオーシャン自体もまだまだあるはずです。
②脱・低利益
低利益から抜け出すには、競合がいないレインボーオーシャン市場で戦う、高単価市場で戦う、といった価格競争に陥らない市場で戦うことが基本となります。
そのうえで「システム化」して生産性を高めます。ここでいうシステム化とは[標準化+ICT化+PDCA]で、品質と少人数・時短を両立します。
標準化には業務の標準化と建物の標準化の2つがありますが、共に「型」をつくることです。武道でも華道・茶道でも、まず型を教わり徹底的に繰り返して最速でマスターし、完全に身体に覚えさせ、そのうえで型を破って新しい型を生み出していきます。この「守・破・離」の原則は家づくりでも同じだと思います。
業務の標準化の基本を[図5]にまとめました。特に積算や受発注管理の標準化+ICT化、現場情報共有の標準化+ICT化などはすぐに品質と少人数・時短の両立ができる分野です。
建物の標準化の基本を[図6]にまとめました。標準仕様をはじめ標準化を進め、実現するための基準をつくり、基準に基づいて検査を行い、またアフターで顧客の声を聞いて、問題があれば是正し、標準や基準から見直して、品質と少人数・時短の両立を目指します。標準化を追究するのが規格住宅で、標準化のレベルを高め規格化するほど、設計施工、積算、プレゼンなど多くの業務を時短できます。また標準化によって、自社のスタイルが明確化し、それに好感・共感した人から選ばれる確率が高くなります。
システム化以外にも脱・低利益の方法はいくつもありますが、まずは現場業務のボトルネックをピックアップし、優先順位をつけてシステム化していくべきでしょう。
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③脱・ブラックビルダー
「ブラックビルダー」とは筆者の造語で、ブラック企業の工務店版です。
住宅業界は、休日が少ない、関係が難しい、給料が安いという、頭にKがつく3つの単語による「新3K職場」[図7]がまだ普通で、そのなかでスタッフも疲弊、経営的にも疲弊しているのがブラックビルダーです。
ここまで説明してきたように、競合が少ない/ない市場を選び、品質と少人数・時短を両立しスタイルを明確化、低利益を脱することで、新3Kの要因の多くを潰すことができるはずです[図8]。
ただし、新3Kをつぶすことは不満の解消にはつながりますが、いわゆるやりがいを高めることにはつながりません。やりがいは「自分で選んだこと」で成果をあげることで高まり、それは当事者意識につながります。
当事者意識の高い人が、共通の目的のために集まってチームとなり、目的実現のために目標と計画をつくって自律的に達成できれば理想で、これに脱・新3Kによる不満の解消が重なれば、「ホワイドビルダー」に近づくはずです。
ホワイトビルダー化でもう一つ重要な要素が、人の力を生かすことです。ここ数年は、新卒をはじめとする採用力が競争力となってきましたが、今後は多様な働き方を許容し、多様な人材を社内外に集め、多様な活躍の仕方を許容することも重要です。そのなかでは一層、人とその人を束ねる理念や社風などの重力、そこから生まれる良い関係性、良い関係性から生まれる助け合い・チーム力、そして人が培ったスキルが、顧客満足の源泉に、競争力の源泉になります。
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新建新聞社・新建ハウジングでは12月20日に、ここまでダイジェストで解説してきた2019年に住宅産業で起きる変化とその対応策を詳細に解説する「住宅産業大予測2019」を発刊します。続きはそちらでお読みいただければと思います。
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