住友理工
震度7の大地震が繰り返した熊本地震を教訓に「繰り返しの地震に耐え、その後も住み続けることが出来るシステム」として、制震システムへの消費者の意識が高まっている。ところが「ガイドライン」のような技術的な手引書があるわけではなく、住宅の設計者からは「何を基準にどう選べばいいのか」という率直な声も聞かれる。10年前から木造在来軸組工法用の制震システムを独自に開発してきた住友理工の野村武史さんに話を伺った。
「共振のメカニズムと制震システムを理解してもらうにはこの模型の説明が一番」と話す野村さん
―――自動車用の防振ゴムで世界シェアNo.1を誇る住友理工が、なぜ、木造住宅の制震システムに取り組むことになったのですか。
住友理工が持つ「特殊粘弾性ゴム」の技術を生かし、超高層ビル向けの制震システムを大手ゼネコンと共同開発したのがきっかけです。その後は戸建ての住宅用制震システムを鉄骨系の大手ハウスメーカーと共同開発してきました。「地震に弱いといわれてきた木造建築にも応用できないか」という発想で、独自に在来軸組工法用の制震システムを開発したのは10年前になります。鉄骨系を含めるとこれまで約7万棟で住友理工の制震システムが活躍しています。
特殊粘弾性ゴムの技術は「制震」だけでなく、「音対策」にも効果が期待できます。特に非住宅建築では店舗や事務所、サービス付き高齢者住宅など、多くの人が出入りする木造建築が今後も増えるかと思いますが、制振技術を使った防音対策は欠かせません。これから「民泊」を計画される方なども関心を寄せて頂いています。
「3回目」の結果に大差現れる
―――制震システムは、住宅の躯体(くたい)に設置することで家のダメージを大きく低減させ、地震による変形を復元し、繰り返しの地震にも対応できるのが特徴と聞いています。実際に住友理工ではどのように紹介していますか。
工務店などの皆さんに説明させていただく場合は、まず愛知県小牧市の住友理工小牧本社にある実験住宅に見学に来ていただいてご紹介しています。ここは地元の工務店さんに建てて頂いた実物大の木造2階建て住宅で、耐震と制震、免震の違いが一目でわかる模型や制震ダンパーの実物展示、制震目的以外の防音用デバイスとしての制振システムの体験もできて、「制震(制振)とは何か」を理解して頂くことが出来ます。
住宅の地震対策は、主に「耐震」と「制震」があり、「うちは標準で耐震等級3だから制震は不要だよ」という工務店さんもいらっしゃいますが、実は耐震設計だけでは繰り返しの地震が発生した際に釘抜けなどが発生して、強度が大きく落ちてしまうケースがあるのです。住友理工がおこなった耐震実験では繰り返しの地震では「3回目の結果」に制震システムを採用しているかどうかの差が現れました。
―――それはどうしてですか。
制震システムは、地面から基礎に伝わった地震エネルギーを吸収する(熱エネルギーに変える)ことで、躯体の揺れを大きく減衰させることができます。住宅性能表示制度の耐震等級1から2に引き上げると減衰率が20%アップすることになることを考えると、(TRCダンパーは減衰率最大50%)制震システムの効果がお分かりになると思います。
また、耐震壁との違いは変形しても元に戻り、繰り返しの地震が来ても変形を抑える減衰力を発揮することです。このように度重なる地震に効果を発揮することから、長寿命の家づくりには制震システムがとても有効だといえます。「これから30年で起こる大地震の確率」の情報を心配する工務店さんには、「耐震等級でいうと1階は2でも2階は3の躯体にして、制震ダンパーを設置すること」をおすすめしています。
安心の「邸別」シミュレーション
―――住友理工の制震ダンパーの特徴を説明頂けますか
住友理工では、お客ごとに時刻歴応答解析を行うシミュレーションで、邸別の設置効果を提案しています。工務店には、ダンパーの位置や本数などを提案させていただき、安価で効果的な家づくりにつながったと好評を頂いています。
また、模型で実際の揺れ方を確認することで制震システムを理解して頂いています。通常の2階建て住宅では、1階で地面から受けた地震エネルギーが2階でさらに増幅する揺れにつながるケースがあります。これが「共振」といわれる作用で、地震波の周期と建物の固有周期が同じだと、耐震等級の高い住宅でも共振を防ぐことが出来ません。制震ダンパーにはそうした共振による建物のゆがみを抑える働きがあります。「耐震等級3なら絶対安心」ということではないことをご理解いただきたいと思います。
木造住宅用の制震システムの開発に至ったのは、固有の揺れごとにシミュレーションできるようになった最新技術とともに、住友理工スタッフのプライドと愛する家族に安心を備えたいという強い情熱があってのことだと自負しています。
―――ありがとうございました
木造住宅(在来軸組工法用)制震システム『TRCダンパー』。筋交いと同様の方法で施工できるので、初めての大工さんにも余計な負担がない。設置には1箇所一人で30分程度という
愛知県小牧市の小牧本社・製作所敷地内にある実験棟。地元の工務店が建設したもので、制振のメカニズムが学べる
実大実験で示された「繰り返し地震への強さ」。極大地震と繰り返し地震の双方で水平方向への変形が50%程度低減。特に繰り返しの地震では、3回目の釘抜け本数が同時に揺らした耐震住宅に比べわずか10分の1という画期的な結果に。「繰り返し地震への強さ」が実証された
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