公益財団法人自然エネルギー財団(東京都港区)は10月5日、グリーン・ビルディング・シンポジウム「脱炭素化に向かう建築・住宅 〜エネルギー効率化と自然エネルギーのシナジー〜」を都内で開催した。基調講演には、ロッキーマウンテン研究所(米国コロラド州)共同設立者・主任科学者・名誉会長のエイモリー・B・ロビンス氏と、建築環境・省エネルギー機構(東京都千代田区)理事長/グリーン建築推進フォーラム代表の村上周三氏が登壇した。
ロビンス氏は「抜本的な効率化・低コスト化のための統合的設計」と題し、米国のオフィス改修にみられる統合的設計によるエネルギー・資本コスト削減の効果を紹介。昼光利用や日射遮蔽、空調、照明など要素ごとの最適化に対して、”スーパーウインドウ”などの使用により、一度で複数の効果をもたらす統合的設計を採用することで、エネルギー効率が大きく向上し、投資回収期間も短縮されることを指摘した。また、効率化の考え方として、「正しいステップを、正しい順序で」「下流(エンドユーザー側)から上流へ」「ビル全体の削減を考えていく」といった設計時の実践的アプローチを伝えた。
村上氏は、「SDGs時代がもたらす建築脱炭素のパラダイムシフト」として現状を解説。SDG(持続可能な開発目標)と脱炭素化の動きのルーツが共通であることを踏まえ、SDGの取り組みが建築脱炭素化のブレイクスルーになることを指摘。SDGと相性のいい木造建築の振興や、ZEB・ZEH・LCCM住宅の促進の動きがみられる昨今の状況を歓迎した。また、各国の企業で有形資産(財務的価値)から無形資産(非財務的価値)への投資シフトが進む中で、脱炭素化の取り組みに対して金融支援の動きがあることも「大きな追い風」であるとの認識を示した。
シンポジウム後半には、早稲田大学教授の田辺新一氏、竹中工務店(大阪市中央区)設計本部プリンシパルエンジニア(環境)の高井啓明氏、ZEH推進協議会(東京都港区)代表理事/エコワークス(福岡市博多区)社長の小山貴史氏、自然エネルギー財団の石田雅也氏と西田裕子氏がそれぞれ講演した。また、ロビンス氏、田辺氏、高井氏、小山氏、西田氏によるパネルディスカッションが行われ、ロビンス氏の講演内容を中心に議論し、意見を交換した。
エコワークスの小山氏は、日本の戸建住宅におけるZEH促進の取り組みと、固定価格買い取り(FIT)制度終了後の創エネ自家消費に向けた「ZEH+」の動きなどを紹介。「脱炭素化は、私たちの世代で解決できなければ次の世代には持ち越せない課題。その意味で、長期的な考え方で、未来に貢献するチャンスをいただいていると思っている。業界をあげて脱炭素化について議論が深まり、百年後、二百年後に今の世代が感謝されるようなかたちになればいい」と考えを語った。
シンポジウムを終えて、ロビンス氏は「今から5年か10年前では、こうした素晴らしいスピーカーと事例に富んだ話し合いはできなかっただろう。印象的な進歩が遂げられたことについて、関係者や仲間たちに感謝したい。日本は一度決めたら誰よりも早く成し遂げる。急激な変化が訪れようとしているのを感じる。まだ必要な材料はあるが、技術は手の中にある。世界をリードする安全で健康的な社会のため、(脱炭素化を)実現していく必要がある」と感想を語った。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。