「平常時でも災害時でも安心で心地よい生活を保つ」という考え方を取り入れた「フェーズフリー住宅」を推進するNPO法人フェーズフリー建築協会(東京都文京区)は9月9日、「第2回フェーズフリー住宅デザインコンペ」の表彰式とパネルディスカッションからなるシンポジウムを都内で開催した。
今回のコンペでは、「部門1」(住宅設計アイデア)58点、「部門2」(フェーズフリーな住まい方提案)23点、合計81点の応募作品の中から「部門1」6作品、「部門2」2作品を受賞作品として選出。また、一定の評価を受けた作品を入選として表彰式で紹介した。 審査員は、三井所清典氏(アルセッド建築研究所代表、日本建築士会連合会会長)、目黒公郎氏(東京大学生産技術研究所教授、地域安全学会会長)、松崎元氏(千葉工業大学教授、プロダクトデザイナー)が務めた。
部門1の「三井所清典賞」には、齋藤信正氏(travelbag一級建築士事務所)の「『光の塔』と『置き床』の家」が選ばれた。同作品は、住宅の1階の過半をスケルトンの状態で土間とし、その土間に「置き床」を設置することで家族構成やライフスタイルの変化への対応、さらにフェーズフリーに対応できる空間を簡易に自由に作るもの。吹き抜け空間による「光の塔」は、平常時の採光とともに災害予知・早期警報に役立てられるものとして提案した。
三井所氏は同作品について、「三世代が暮らす家を想定し、各世代が平常時に明るく健康な生活を送り、また土間を活用することで災害対応ができる。土間は洪水が起こりやすい地域での住宅建築という前提。浸水があっても置き床を外すとすぐに清掃ができ、生活の場が復興しやすい。7月の豪雨で新しい悩みがたくさん出てきた中で、一つの解決の方向を示している」と評価した。
また、同部門の「目黒公郎賞」には、橋富一博氏・氏川拓郎氏・尾野優太氏(東京大学/北海道大学)の「輪島は強しや土までも」が選ばれた。同作品は、石川県・輪島の伝統的町並みを構成する町家と土蔵に災害対策を組み込むことで、後継者育成に最も有効な徒弟制度に合った二世代住宅を実現する。産業復興と観光促進による平常時の人口流出対策と災害対策を同時に行うものとして提案した。
同作品への評価として、目黒氏は「昨今、いろんな災害が頻発しているが、地方は少子高齢・人口減少で衰退の局面にある。こういうときに何が重要かというと、良いところに良いものを使って、長くメンテナンスする。そうすることで、地場産業の活性化や人材づくりがプラスαで実現すると思う。今回の提案はまさにそれに合致するもの」「従来のような自助公助の良心に訴えかけるような防災は限界にある。災害のあるなしに関わらず、平常時から防災対策に取り組んでいる人たちに価値が継続的に流れていくことが重要。その点で高く評価した」と語った。
そのほか、部門1では「松崎元賞」に早川友和氏・益田賢一氏(一級建築士)の「浮かぶ家」、「フェーズフリー建築協会賞」に星野尚紀氏(星野尚紀建築事務所)の「KoKoに暮らす」、渡辺拓氏・奥田美香子氏(戸田建設株式会社)の「木かげと広がる思いやり」、廣川大樹氏(工学院大学)の「風通しのよい家」の3作品が選ばれた。
同協会では、受賞作品に共通する要素として、土間、縁側といった「中間領域」やシェアハウスなどによる、コミュニティへのアプローチをあげた。また、前回コンペに比べると、災害発生後のフェーズだけでなく、平常時から「災害予知・早期警報」「災害発生」「被害評価」「災害対応」「復旧」の各段階での課題にアプローチする工夫が満遍なく見られたと評価し、フェーズフリーの概念が徐々に浸透しつつある様子を窺わせた。
今回から創設された「部門2」では、「最優秀賞」に菊池甫氏・山本展久氏(OOHK、菊池甫一級建築士事務所)の「フェーズフリーなゴミステーション」、「優秀賞」に毛塚順次氏(会社員)の「氾濫対策防災プランター」が選ばれた。
そのほか、パネルディスカッションの中で発表されたシンポジウム参加者投票による「みんなで選ぶフェーズフリー」では、部門1・2の受賞作品が順当に選出されるなか、選外の作品で上位に入ったものも見られ、それらを巡ってパネラーと会場参加者が意見を交わした。審査員の側では、作品のアイデアに一定の評価をしつつも、フェーズフリー住宅としては「もっと一石“五”鳥くらいの提案があれば」などと、さらなる実用性や発想の広がりが望まれたことを指摘した。
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