■修理における注意点
修理をどこまでするか、苦渋の選択ですが考えざるをえないかも知れません。
「中編」で石膏ボードの壁と内部の断熱材の吸水のことを述べました。断熱材の吸水の高さは単純には浸水深では決まりません。浸水時間が短い場合にはそれほど吸い上げていない場合もあります。断熱材の濡れを確認して、濡れていなければ切り取らないで済ませられます。
2階まで浸水したが、2階まで修理するお金が無い場合は、2階は応急処置に留めて、1階のみ生活できるように直すのも1つの選択です。また、応急修理制度は金額が限られているので、お風呂やトイレ、窓といった最低限必要な修理に使い、残った内装などは、日曜大工の心得があれば自分で行うことも考えましょう。壁の断熱材を入れ替えたり、石膏ボードで壁を貼ることも可能でしょう。
古い家で断熱材が入っておらず、壁に石膏ボードも使っていない家では修理代はむしろ安くなると思います。床板は前述の様に再利用できます。畳は新しいのを入れます。
土壁は一旦、土を落として小舞を乾燥させるのがよいようです。ただし、落とした後、再度土壁で修復するのは非常にお金が掛かります。消毒でカビを落として済ませたケースも過去の災害ではありました。建物にとって長期的によいかどうか分かりませんが、資金が無ければあり得る選択です。消毒用エタノールは高価ですが、水分と一緒に蒸発して残らないので土壁の消毒には使い易かったという過去の災害の話も聞きます。
以上、保険加入の有無で修理の道筋が変わる可能性を指摘しました。もちろん、保険未加入でも十分な自己資金があれば全て修理できますが、例外だと思います。
「浸水被害を受けた竹小舞下地土壁の扱いについて」/NPO法人 関西木造住文化研究会 http://karth.org/archives/1067
水に浸かった壁土を落として土壁を補修する方法はこちらを参照のこと。
■修理・自立再建が難しい場合
修理する資金も自力再建も難しい方に対しては、復興公営住宅が新たに建設されたり、既存の公営住宅に入居することになろうかと思います。過去の災害では発災半年後以内に市町村が最初の意向調査を行いました。復興公営住宅への入居を希望される場合は、意向調査には必ず入居を希望する旨、回答してください。
修理や再建に際して、水害特有の難しいケースも想定されます。
水害後は、今後同様の災害を防ぐために、河道改修や堤防の嵩上げといった復旧工事がされることがよくあります。過去の水害で家を修理した後に立ち退かざるを得なくなり、修理に要したお金が借金として残ったケースもあります。今回水害を起こした河川に隣接する地域では、河川管理している国、県、市町村に対して、町内会、自治会単位で移転を伴う河川改修工事がされるか否か確認しておくとよいでしょう。発災後数カ月で復旧・改修工事の概要は決まるはずです。土砂災害でも同様に工事による立ち退きが生じる可能性があります。
また、個人で今後の水害リスクを考えて解体して移転する場合も出てくるでしょう。罹災証明が全壊であれば、解体費用は支援金で賄うことができます。しかし、新たな土地と建物は自分で用意する必要があります。リスクが高い土地であることを行政が認めて地域全体で移転する場合には、それを補助する防災集団移転促進事業というものがあります。この場合も新たな土地の土地代と家の建設費用が必要です。いずれにせよ、将来のリスクと家計状況を踏まえた判断が必要になるでしょう。土砂災害に関しては、浸水と比較しても致死性のリスクが高いことも考慮すべきでしょう。
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