神奈川県葉山町を拠点に、DIYによる空き家再生に取り組むボランティア集団「空家レンジャー」は現在、同町内で使われなくなった元企業社員寮(鉄骨2階建て)の1階、社員食堂部分を改装し、シェア厨房「葉山キッチン」としてオープンする準備を進めている。遊休不動産をボランティアベースの仲間の手で蘇らせ、さらに「食」を通じて地域との結びつきや学びの場を目指すもの。改装費用の一部を補填するため、クラウドファンディングを通じて寄付を呼びかけている。
「空家レンジャー」は、代表の加藤太一さんが築35年の空き家を再生したシェアハウス「海古屋」(逗子市、2016年9月開業)の改修の際に立ち上げた、 空き家再生に取り組む人や関心を持つ人のゆるい集まり。不要になった材料・道具を主に活用し、DIYで楽しみながら改修する取り組みだが、地域の工務店のバックアップを受けながら、初心者でも一から学べる活動として参加者の輪を広げている。
参加者はそれぞれ本業が異なり、参加の動機もさまざま。地元の逗子・葉山を中心に、湘南・三浦エリアや都内からも関心を持つ人が集まってくる。活動開始以来、これまで活動に参加した人の数は300人に近づいている。
「つくる文化」と「学びの場」
これまでの主な取り組みには、逗子市のシェアハウス「海古屋」のほか、今回「葉山キッチン」を開設する元社員寮2階部分を改装したシェア工房「葉山ファクトリー」などがある。「葉山ファクトリー」は、不要になった材料や道具が使い放題のものづくり拠点で、昨年9月にクラウドファンディングで資金調達を成功させてオープンした。個室会員と共用会員の2種で入居可能。ラボには3Dプリンターやレーザーカッターも揃える。今年のゴールデンウィークには、「葉山ファクトリー」や屋外で、「つくる文化」を広めるワークショップのお祭り「つくるいち」を開催し、多くの来場者で賑わった。
次に実現を目指す「葉山キッチン」は、「葉山ファクトリー」と同じ建物内で今年7月の正式オープンに向けて準備を進めている。既に厨房・カフェ部分は飲食営業許可を取得し、5月現在でプレオープンの段階。
取材当日も「空家レンジャー」のメンバーが集い、カフェスペースに隣接する菓子製造加工室の施工を進めていた。この日は、「空家レンジャー」の活動に当初から関わっている地域の大工さんが指導に当たりながら、ベニヤ加工と戸車の取り付け作業を進めた。参加者の中には、大学で建築を学ぶ学生や、改装の技術を得たい空き家所有者の姿があり、慣れない電動工具の使い方などの指導を受けながら、それぞれ楽しみつつ、真剣に作業に取り組んでいた。指導に当たった大工さんは地域のイベントで加藤さんと知り合い、「空家レンジャー」結成以来、本業の合間に支援を続けている。
今夏の正式オープンを予定する「葉山キッチン」では、飲食店営業や食品製造、料理教室などに挑戦したい人が集まり、食に関わるノウハウを共有できる場を目指す。メニューの試作やトライアル営業、試食会や勉強会にも使用できるシェア厨房として運営するほか、流通せずに余っている地域の食材もシェアするなど、「空家レンジャー」ならではの文化を実現する。
「葉山キッチン」の中心として取り組む児玉明子さんは、地域で「孤食」を余儀なくされている人々への弁当の宅配や、からだに優しい食材を用いた料理の提供などを行うほか、シェアする人々の互いの活動を通じた「学びの場」として、この場所を発展させていきたい考え。また、児玉さん自身の子供が菓子作りを通じて社会と繋がっていく姿を後押ししたい思いで、大人も子供も関係なくシェアできる場づくりを目指している。
「楽しむ」から始まる循環型社会
こうした「空家レンジャー」の取り組みには、地域からの注目も高く、空き家物件の情報や利用可能な廃材が自然と集まってくる。一方で、ボランティアベースの活動であり、普段はそれぞれに本業を抱えるメンバーで構成されることから、これまでの活動ペースは緩やかなもの。
「『空家レンジャー』の活動は、収益でなく、まず楽しむことを大切にする。そうすることで、たくさんの人が関わってくれる」と、主宰者の加藤さんは活動の根本にある考えを語る。一方で、「葉山ファクトリー」の入居者に入居の理由を聞くと「捨てずに使うという、加藤さんの思想に共感した」との声が一番に聞かれた。
施設の安定した運営には一定の収益確保が必要。しっかりとした建物の改修にはプロの手も必要。しかし、それらをわかった上で、活動の芯は崩さない。「空家レンジャー」として、自分たちの手で「つくる文化」を広めていくことで、より身近なところから始まる循環型社会の実現を目指す。
「葉山キッチン」のクラウドファンディングは6月21日締め切り。詳細はこちら。
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