持続可能な環境共生林業の普及を目指す自伐型林業推進協会(自伐協、東京都渋谷区)は5月8日、自伐型林業に関心を持つ人や実践者との交流会を千葉県大多喜町の旧老川小学校で開催した。地元の夷隅郡、鴨川市、君津市など房総地域をはじめ、関東の各都県から、本業も様々な32名が参加。森林面積が7割近くを占める中山間地域での、自伐型林業を取り入れた地域活性化のアプローチについて活発な意見交換を行った。
開催地の大多喜町では、良品計画(東京都豊島区)が2013年に廃校となった旧老川小学校でコワーキングスペースを開設するなど地域活性化の取り組みを行っており、昨年10月には自伐協を招いたシンポジウムを初めて開催。自伐協では、これまで千葉県内で協力関係に至った自治体がなかったことから、普及のきっかけとして、良品計画と大多喜町の協力のもとで今回の交流会を開催した。
交流会の前半では、自伐協・代表の中島健造氏が自伐型林業のアプローチや従来の林業との違い、山林の現状などについて解説。自伐型林業では、10年単位での小規模な間伐によって「生産」しつつ、長期にわたって「在庫」となる木材の価値を高めていくことから、50年単位で皆伐する従来の林業に比べて、材価の大幅な向上や、一つの山林での持続的な施業といった「森林経営」が可能であることを説明。また、林地を損なうことのない幅2.5m以下の作業道を細かく入れていくことで、山林崩壊や風雨による樹木の損傷も予防でき、環境を保全できる方法であることを紹介した。
さらに、自伐型林業では大型の高性能重機を用いないことから、比較的少ない投資で起業が可能であり、自伐林家として自立している若者が全国で増えている現状もアピールした。
交流会後半では、各参加者が自己紹介を行い、それぞれの山林との関わりを語った。異業種の本業を持つ人の中には、自伐型林業への転職やボランティアでの関わりを検討する人や、所有する山林への対処に苦慮する中で自伐型林業の可能性を探る人、神社の神職や地域おこし協力隊として林業との関わりを持つ人などの姿もあった。初めて自伐型林業を知った人からは「目から鱗だった」との声も上がった。
良品計画・執行役員の生明弘好(あざみ・ひろよし)氏は、地元の古老からの話として、大多喜町が戦後復興期まで房総地域の木材集積地であり、製材所が20カ所以上あったが、現在は3〜4カ所が稼働しているのみで、原木が地元にないことから域外から調達している状態と報告。その上で、自伐型林業の先にある、製材や原木市場など流通のあり方について中島代表に質問した。
中島氏は、「製材技術は林業とも全く異なり、非常に難しいもの。製材所が残っていることは大きな武器」とした上で、「林業者5〜6人で原木市場を始め、製材所に買ってもらう。そのうちに大多喜、鴨川など近辺で10人位が林業をやり出せば、将来面白いことになる」と期待を語った。また、「昔からこの辺りには“山武杉”というブランドがある。今は廃れているが、本来は林業地」、「建築家でも自伐に目を向け、無垢材を使おうとする人が出てきている。そうした人々を通じて、工務店から木材を買い取ってもらえるようになれば、面白い流通が作れるかもしれない」と考えを語った。
自伐型林業の実践者では、千葉県内で福祉事業を展開する福祉楽団(千葉県香取市)の飯田大輔氏が参加。自伐型林業によって近隣の森林整備の施業を受託し始めて以来、「1カ所始めると、次々と声がかかってきた」と地元での需要の高さを語った。また、同社では国産木質バイオマスボイラー「ガシファイアー」を導入し、福祉施設の給湯に薪材を活用していることを報告。県内で初めての導入例であり、「ぜひ見学に来て欲しい」と語った。
県外の自伐型林業実践者では、高知県土佐清水市で寺の住職を本職とする浜口和也氏が来場。浜口氏は、2001年の豪雨災害による地元・竜串湾のサンゴ群衰退を機に山林への関心を持ち、「サンゴと森の救援隊」を設立して所有林の整備に着手。古くから薪炭林として活用されてきた広葉樹主体の山林を生かし、薪材の生産を行っており、最近では宗田節生産者への供給を通じて地産地消のサイクルを生み出していることを紹介した。
また、浜口氏は千葉県の山林を視察した印象として「(自身の所有林と比べて)山が緩く、作業道が入れやすいことが魅力的」と語り、「大多喜町は温泉があり、沸し湯に薪を供給できる。それが町おこしになるのでは」と提案した。
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