建築家・伊東豊雄氏が監修・企画する展示『聖地・大三島を護る=創る』が4月12日、東京都中央区の「LIXIL:GINZA」でスタートする。LIXILギャラリー企画「クリエイションの未来展」の第15弾として開催されるもので、4月10日にレセプションパーティーが行われ、来場者に先行公開された。
同展は、伊東氏が2011年、瀬戸内海の真ん中に位置する大三島(愛媛県今治市)に「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」を開館して以来、同島で地元の人々や同氏の私塾の生徒たちと続けてきた取り組みを紹介するもの。同島で暮らす7人のドキュメンタリーを映像や写真、模型で展示している。
取り組みの舞台となる大三島は、西暦594年創建と伝えられる大山祇(おおやまずみ)神社が鎮座し、その神域とともに醸成された文化や暮らしが、海に囲まれた島の中で長いあいだ守られてきた。神社に参拝する人々は、自然と船によって島に渡ってきた。島に上がることは、思想家の中沢新一氏が著作『アースダイバー』の中で論じる「結界」に守られた「聖地」に踏み入れることと同義でもあった。
しかし、自動車による移動の発達と、2006年に開通した「しまなみ海道」によって、海上からの来島者は途絶えた。また、若者の島離れによって過疎化も進んだ。神域とともに守られてきた島の暮らしは、島民の高齢化と後継者の減少によって存続が危ぶまれてきた。
伊東氏は2011年、同島に現代美術館「ところミュージアム」を開いた実業家の所敦夫氏と今治市からの誘いを受け、「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」を島内に開館。以来、同島に通い始め、大山祇神社を中心とした島の魅力に引かれる一方で、過疎化が進む島の未来を危惧し、地元の人々や自身の私塾の生徒とともに、新しいライフスタイルの提案と創造の支援に取り組んできた。
その取り組みが「少しずつ形になってきた」という成果を紹介するのが、今回の企画展だ。
展示の中で紹介されている「大三島ふるさと憩の家」は、生徒数の減少により1986年に廃校になった小学校の校舎を改装した宿泊施設で、1988年から営業をスタート。昨年、地方創生交付金の交付を受けて、地元の工務店や地元の学生とともに改修プロジェクトに着手し、耐震補強や屋根の改修などを実施。宿泊客がより安心して滞在できる環境を整えつつある。
ほかにも、かつて柑橘類の畑であった耕作放棄地が、葡萄畑に変わり、島産ワインを醸造するワイナリーが誕生したことなども紹介。去年は200本のワインが作られ、今年は500~600本になる見通しだ。島を「護り」ながら「創る」取り組みは、ゆっくりと、着実に進んでいる。
「島に移住してきてくれる若い人がだいぶ増えてきた。あと2、3年頑張っていると、急激に島が変わっていく、いい事例になれるかもしれないという期待を抱いている。ぜひ、大三島を訪ねて、色々とアドバイスをいただけたら」と伊東氏。
同氏自身による建築の取組みでは、葡萄畑に近い場所にオーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)を開設する計画が進行中。1976年に作った「White U」(東京都中野区)を、今度は大三島の島づくりのために建てる考え。2019年オープンを目指して進めている。
「聖地・大三島を護る=創る」の会期は4月12日~6月17日(休館日=毎水曜日、5月27日)。開館時間は10時~18時。入場無料。
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