低炭素杯2018「LIXIL最優秀エコライフ活動賞」に
米子工業高等専門学校 物質工学科谷藤研究室
「二酸化炭素がエネルギー源となる発電装置の開発」
LIXIL(東京都千代田区)は、同社が共催した「低炭素杯2018」で、エコライフを実現する優れた取り組みに送る「LIXIL最優秀エコライフ活動賞」に米子工業高等専門学校 物質工学科谷藤研究室の「二酸化炭素がエネルギー源となる発電装置の開発」を選んだ。同研究室で継続的に研究されている卵殻膜(らんかくまく)を使った発電をさらに進化させ、炭酸水を燃料にするという画期的な発想を評価。同校の取り組みは マクドナルドオーディエンス賞も同時に受賞した。
「低炭素杯」は、二酸化炭素の排出を減らす優れた取り組みを顕彰するコンペ。初開催は2011年で今回で8回目となる。LIXILは初回から共催している。今回は全国1167の団体が参加。2月15日にファイナリスト30団体がプレゼンテーションを行い、公開審査によって受賞者が決められた。
米子工業高等専門学校 物質工学科谷藤研究室は、卵殻膜を使った燃料電池の開発で、2014年の低炭素杯で環境大臣金賞を受賞している。卵殻膜とは卵の内側にある薄い膜で、同校はこの卵殻膜を使って発電できることを発見した。今回の取り組みはその発展形だ。
日本における卵の消費量は1人あたり年間329個(2013年)で世界第3位。廃棄される卵の膜の量は年間約1.7万トンにも上る。現在、食品工場などで使われた卵の殻はチョークや肥料などに利用されているが、高品質なリサイクル品の開発には成功していない。家庭で消費される卵の殻は、処理される際に二酸化炭素を発生させている。大量に捨てられている卵の殻を利用することができれば、環境への負荷を減らすこともできる。まさに“一石二鳥”だ。
着目したのは殻が割れなければなかなか中身が腐らないという卵の殻の機能性。卵殻膜には中身を守るための特殊な仕組みがあるはずだと仮説を立て、それを活用すれば斬新な製品が生み出せると考えた。
試行錯誤の結果、簡単な加工で卵殻膜を燃料電池の重要なパーツにする方法を開発した。具体的には燃料電池の主要部品のひとつである電解質膜を卵殻膜にした。卵から取り出した卵殻膜の両面を白金でメッキ加工し、燃料となる有機物(メタノール)を添加すると発電することを突き止めた。
燃料電池そのものは構造がとてもシンプルでパーツが少ない装置(写真右)。簡単な仕組みのため資源を節約できるなどの理由で注目されており、市場は拡大を続けている。2016年で約1345億円だった市場規模(世界)は2030年には約4兆1000億円になると予測されている。15年間で30倍に拡大する計算だ。次世代の中心的な電源のひとつとして普及していくことが期待されており、日本でも国を挙げて開発が進められている。
同研究室では、前回(2014年)の受賞から構造に改良を加えただけでなく、燃料が炭酸水でも発電することを発見した。数百パターン以上の電池の構造と燃料の組み合わせを検証していた結果見つけた世界初の成果で、特許出願も果たしている。
炭酸水は二酸化炭素を水に溶かしたもの。二酸化炭素は水に溶けると炭酸という物質になり、それが新しい燃料になって動作していることがさまざまな実験でわかった。開発したシステムは出力こそまだ低いが、燃料電池がさらに普及した社会では、燃料生産、ごみ削減の両面から低炭素化に大きく貢献する可能性を秘めている技術だ。
燃料電池は、火力発電に比べると二酸化炭素の排出量を3分の1に抑えることができる。今回の成果で特に画期的な点は、二酸化炭素の削減に効果があるだけではなく、二酸化炭素を燃料生産に積極的に利用できる新しい要素技術である点だ。同研究室では現在、この新しい発電技術の改良を進め、実用化に向けた研究・開発に取り組んでいる。
これまで5年間の取り組みは学生が中心となって行ってきた。同校への授賞を決めたLIXILは「斬新なアイデアがイノベーションを起こし、脱炭素社会につながっていく。若い世代の柔らかい感性と研究の成果に期待して」と選定理由を説明する。今回の発表者のひとりである同校4年の中島邑杜くんは、「世界は誰でも変えられます」と、さらなる改良への意気込みを語った。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。