東日本大震災を受けて住宅市場や住宅産業はどのように変化していくのか、またしていくべきか。様々な立場の識者・実務者へのインタビューや寄稿によってそのビジョンを提示していきたいと思います。今回はビルダーズシステム研究所代表(MSJグループ代表)の鵜澤泰功氏の寄稿[第1回]を掲載します(編集部)。
1 東日本大震災のインパクト
グレートリセットが起きた
今回の東日本大震災、原発事故は、日本社会へ甚大な影響を及ぼした。まるで、「グレートリセット」(社会構造や価値観の大きな転換)というしかないほど、我々に生まれ変わることを強く迫っていると思えてならない。
まるで2回目の敗戦のごとく、日本人の価値観も物理的な経済構造も、根本的に変えてしまったのではないだろうか。
電力不足が引き起こすこと
目下の課題は電力不足で、実像をつかみにくいが、最低でも2~3年にわたって継続する可能性を秘めている。
電力不足によって、日本経済は、サプライサイド(供給側・生産者)がボトルネックを抱える経済へと変化してしてしまい、企業は戦略の根本的な変更を迫られることになった。
まず、電力を浪費する産業や機器はその優位性が失われる。電力使用への課税や燃料高騰が進むと仮定すると、電力に過剰に依存した産業や生活の見直しを進めざるを得ない。
以下、具体的に経済や社会がどう変化するのか予測してみる。
①オール電化住宅は先行き不透明に
文化的生活、エコライフの代名詞であり、電力会社の重要なマーケティング戦略でもあったオール電化住宅は先行きが不透明となった。原子力発電への拒否反応を示す消費者も出てきている。そのなかでIHクッキングヒーターもエコキュートも、今までのようなニーズを維持できるか分からない。
②電気自動車ブームの失速
原子力を前提としない限り電気利用によるCO2排出削減メリットは失われる。それに伴い、CO2問題の決め手として注目されてきた電気自動車も、戦略の見直しを迫られる。今後は、エネルギー自立の観点から、動く蓄電池として注目を集めていくだろう。
逆にハイブリット車や超低燃費社の競争優位が再び注目されるとみる。
③電力消費企業の首都圏脱出
電力消費の大きい企業は、西日本や北海道、沖縄あるいは韓国などへの移動も検討せざるを得ない。
大胆に言えば、東京電力、東北電力管内の建築着工数は相対的に減少し、その他の地域の着工数は増えるのではないか。
④スマートグリッドで住宅産業が「エネルギー産業」に
住宅においても、太陽光発電や蓄電池を活用する動きが進む。
電力を供給するすべての住宅と電力会社とがネットワークでつながり、住宅と発電・蓄電ユニットおよび制御システムが一体になる。つまりスマートグリッド化が加速する。
そのなかで住宅産業はエネルギー産業となり、住宅産業とエネルギー産業、さらには木材産業などとの連携・コラボレーション「産業ミックス」が必要となる。
⑤別荘需要(サマーハウス)市場の拡大
夏場ピークを迎える電力量を抑制するため、夏のバカンスウィークを導入する企業や自治体が出てくるかもしれない。そうなれば、ヨーロッパのようにお盆休みと重ねて最大3週間のバカンスが可能となり、長野や北海道、西日本や海外に出かける人も増えるだろう。
長期休暇が可能となれば、別荘(サマーハウス)市場が一気に拡大する可能性がある。
⑥電力マネジメントビジネスの台頭
米国においては、「仮想発電所」という新しいビジネスモデルの事業を成立させたベンチャー企業まで現れているという。これらの企業は、消費電力を減らす余裕がある需要家を集めてデマンドレスポンスを許容してもらい、電力事業者のピーク需要抑制を支援している。ピーク需要の抑制に対して、電力事業者が支払う報酬とデマンドレスポンスに協力した需要家に支払う報酬との差額が、これらの企業の収益となる。
日本でもこういったビジネスが台頭してくるだろう。
⑦パッシブデザイン時代の到来
今後、何にも増して注目されるのが「パッシブデザイン」である。
電力不足が恒常化する状況においては、アクティブ(機械的)な技術だけに頼って冷暖房を行い快適に過ごすことは不可能となった。そこで、がぜん注目されるのがパッシブデザイン(できるだけ自然を家の中や建物の中に取り入れる考え方)である。
特に住宅産業においては「パッシブデザイン時代の幕開け」とでもいえる状況が生まれるのではないか。
鵜澤 泰功(うざわ・やすのり)
住宅産業研究所にてハウスメーカーを中心としたマーケティングコンサルティングに従事した後、1996年に住宅商品開発や経営戦略、住宅金融に関するコンサルティングや、住宅関連のシステム開発コンサル等を主業務とする㈱ビルダーズシステム研究所を設立。さらに、2000年に住宅性能評価機関㈱ハウスジーメンを、翌2001年に住宅関連保証会社㈱日本レジデンシャルファンドを設立し、各社の代表取締役に就任。さらに2005年に日本モーゲージサービス㈱を設立して代表取締役に就任した。2011年5月に住宅産業のビジネスプラットフォーム「アカデメイア」を開設した。
[その2につづく]
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