本物の時代
今回は自分を含めたスモールビジネスである工務店を卑下する様な内容を書き連ねましたが、それはこれまで実際に大手ハウスメーカー、パワービルダーが消費者に認められてきた結果、大きなシェアを握ってきた事実があるからです。
しかし、現在、世界は大きな転機を迎えており、情報革命は良くも悪くもあらゆることを白日の下に晒し出します。嘘、まやかし、誤魔化しが通用しない本物の時代だからこそ、私たち地域に根ざして、モノづくりの本質を守り、住まいの安心と安全を担う工務店が消費者から選ばれ地域と共に存続していく意味と意義、そして価値が認められる時代になると思っています。その為には私達は本物であらねばならず、嘘偽りのない姿勢を明らかにしなければなりません。
逆に、セールストークが上手に出来なくても、(モチロン住宅性能やデザイン、施工で大手に負けない程度の知見は必要ですが)真面目に、真摯にモノづくりに向き合っている姿勢がリアルに伝われば、消費税増税後の厳しい状況の中でも生き残っていけるのではないかと思っています。虚栄を排し弱みを認め、クレームを公開しながら胸を張ってお天道様の下を歩むことこそ、これからの時代の、また工務店にとって真に消費者に訴えるリスク・リバーサルとなるのではないでしょうか。
インフラとなったSNSの破壊力
今回は私見に満ちたリスク・リバーサルの定義とこれからの情報化時代への適応策を書き連ねましたが、私自身、最近富に劇的な時代の変化を肌感覚で強く感じています。その一つがSNSの進化で、この2月から3月末にかけて自治体から引き継いだ地場産木材利用の啓蒙活動を行なっている木育施設の運営資金を賄うべくクラウドファンディングを立ち上げて資金集めを行いました。結果は大成功を納め一年間の運営資金の不足分を得ただけではなく、地材地消の理念を掲げた子供達に楽しんでもらえる施設が神戸の中心地にあることの認知も広がり、支援者、活動を共にしてくれる協力者も多く集ってもらえました。しかも兵庫県と関係のない全国の方からもご支援を頂きました(この連載の読者の方もおられるかと思います、大変お世話になりました)。
今回のクラウドファンディングの告知はほぼfacebookのみで、今までの常識では考えられないその破壊力に喜びながらも同時に怖さも感じた次第でして、私が自社の利益とは直接関係のない森林と地場産業の活性化という志を立てて熱心に活動していることに呼応してくださった人たちを裏切る様な事をすればその反動は如何なるものか、と決して聖人君主ではない自分自身を省みて恐ろしくなりましたし、本物の時代に適応しなければならないと気を引き締めた次第です。
クラウドファンディングで存続運営の資金を一部調達した「ひょうご木づかい王国学校」。SNSが告知の軸となり、大きな活動の原動力となってきている。現在、返礼品の制作を大工らが順次行っている
第11回のチェックポイント
●工務店にとっての守りとは何か?
●生活者の価値基準に訴える工務店らしさとは?
▢ 「リスク・リバーサルの本質」の意味を理解する
▢ 住宅メーカーの攻撃を逆手にとり、工務店に依頼するリスクやクレームをあえて公開することが強みになる
工務店は正直になって胸を張り、誇りを持て!
次回はオフェンスとディフェンスのディフェンスの部分について。マーケティングの世界ではリスクリバーサルというと返金保証などをつけてハードルを下げることを指すことが一般的ですが、職人起業塾とこの連載では、信頼性をベースにするマーケティング構築の観点と、情報化による急激な変化への対応を踏まえて考察します。
高橋 剛志 たかはし・たけし
すみれ建築工房(神戸市)代表。大工。自身の苦しい経験から、職人が安心して将来設計を考えられる環境こそ工務店を強くすると実感。マーケティング理論を職人に教えることで、最大の顧客接点である職人自ら営業の役目を果たしてくれると実践し、広告・販促なしで5億円の売上を達成。社員向け勉強会からスタートした「職人起業塾」は、口コミで広がり他社社員、JBN阪神など多くのネットワークを巻き込む動きとなり国交省公認教育事業に認可されている。住宅に加え、 店舗設計も多く手掛ける。社員20人。
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